『正直不動産2』“ライバル”松田悟志から山下智久にエール 神木が仕掛けた嫌がらせの顛末

嘘のつけない不動産営業マンが活躍する痛快お仕事コメディ『正直不動産2』(NHK総合)。第8話「無限ループ地獄」では、永瀬(山下智久)のもとに、神木(ディーン・フジオカ)に紹介されたという客・篠崎(大鶴義丹)がやって来た。一方、営業成績ナンバーワンを目指す黒須(松田悟志)は、ある客から成約を取るが、その客は神木が永瀬への嫌がらせのために送ってきた客であり、神木が仕掛けた罠だった。

第8話は、ナンバーワンへの強い執着心を感じさせる黒須と神木が印象的な回となった。黒須も神木も、ナンバーワンのためなら手段を選ばない強引さがある。しかしこの2人を取り巻く環境は大きく異なる。

黒須といえば、「お目が高い!」の口説き文句が印象的だ。溌剌とした佇まいでお客の心を掴み、口説き落としてきた。周囲を圧倒する堂々とした立ち居振る舞いが印象に残る。そんな黒須が、物語序盤に月下(福原遥)から顔色が悪いと指摘される。その後の場面で、黒須が体に不調を抱えながらも仕事を続けていたことが明らかとなった。「フルコミ(完全歩合制)の俺にとって売り上げこそが存在価値……。トップじゃなきゃ居場所がなくなるんだ……」と呟く黒須からはナンバーワンへのこだわりが感じられる。

営業成績ナンバーワンへの焦りからか、黒須は時に強引な手段を講じてきた。第6話では自分の成約を得るために顧客を騙すようなことをした。第8話でも成約を取るためにかなり強引な営業手法を使う。だが、顧客の海野(駿河太郎)が契約解除を申し出たことで黒須は窮地に立たされる。黒須がとった営業手法は契約解除が難しく、多額の違約金が発生する可能性が浮上したのだ。危機的状況をライバル視する永瀬に知られてしまった黒須は「俺はな、結果出さなきゃいつ仕事を失ってもおかしくないフルコミなんだよ! その覚悟でやってんだ! 人助けが趣味の野郎の世話になんかなりたかねえんだよ!」と突っぱねる。

しかし、かつて藤原(馬場徹)が永瀬を助けたように、永瀬や月下、十影(板垣瑞生)や藤原が黒須のピンチを支える。チームでの仕事が黒須の心を動かした。契約解除の交渉に「私もつきあいます」と月下が名乗り出た時、黒須はいつになく素直な面持ちで「うん……ぶっちゃけ助かる」と答えていた。黒須は、神木にそそのかされて自暴自棄になった海野によって階段から突き落とされてしまうのだが、その直前「海野さん! ご報告があるんです」「朗報なんです!」と明るい笑顔を見せていた。この満面の笑みこそが、本来の黒須が持つ魅力なのだと感じられた。

仕事を辞めて実家の旅館を継ぐことに決めたと打ち明けた黒須は、永瀬に向かって「ザマアミロ! 最後の最後まで俺がナンバーワンだ!」「これでお前は一生俺に勝つことはできない」と笑う。最後の最後まで永瀬と張り合う黒須だが、ナンバーワンへのこだわりから生じた強引さや焦り、不安から解放されたその顔つきはつきものが落ちたようにスッキリしていた。「ミネルヴァ不動産に負けんなよ」という永瀬へのエールに、本心から気にかけている様子が伝わってきた。

黒須が重荷から解放された一方で、神木はますます悪魔的になっている。顧客目線で見た神木は、親身になって寄り添い、二の足を踏んだ時に後押ししてくれる良き相談相手に映っているはずだ。しかし投資を思いとどまる篠崎が自分の手中に収まった瞬間、神木は「ハマったな」という心の声を発した。

神木は自身と永瀬の勝負に顧客を巻き込む。篠崎や海野など、過去に不動産投資に失敗している顧客に目をつけ、投資用物件を購入させるためにけしかけた。神木は「だまされるヤツは、何度でもだまされる」と口にする。顧客リストを悪用し、篠崎や海野に狙いを定める神木の立ち位置は、カスタマーファースト命な月下とは正反対だ。「ご家族のためです。ここは父親としてふんばりどきですよ」と篠崎に笑いかける顔が恐ろしく感じられる。

永瀬が地域の人たちから信頼されていたことで、神木は篠崎という獲物を逃した。敗北を喫した神木は苛立つも、顧客リストをぐしゃぐしゃに握りつぶすと不敵に笑う。海野という次のターゲットに狙いを定めたからだ。そして海野が黒須を突き落とすきっかけを作る。

しかし海野が家族を亡くしていたと知った時、神木は複雑な表情を見せた。忌々しげに顧客リストを机に投げやる神木だが、その苛立ちにも似た感情は海野ではなく、自分自身に向けられているようだった。花澤(倉科カナ)に対して「ビジネスにはならないと思ったが、爆弾にはなると思って登坂に送り込んだ」と打ち明ける神木には悪びれる様子はない。けれど、「あの営業が、海野さんの大切な家族に対する思いを理解してれば、こんなことにはならなかったはずだ……」と話す面持ちはどことなく暗く映った。家族を亡くした海野の胸中に心から同情していたのではないだろうか。

神木に傾倒しつつあった西岡(伊藤あさひ)や東野(財津優太郎)は、神木の営業スタイルに徐々に腰が引けてきた。そのぐらい神木の悪魔的営業はエスカレートしつつある。次回、そんな神木が執拗なまでに1位にこだわる理由がいよいよ明かされる。
(文=片山香帆)

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