【宮田莉朋“三刀流“コラムLAP 2】テストのタイムよりも大切なこと。海外での大きな気づきとFIA F2、WEC開幕戦に向けて

 2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したToyota Gazoo Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)にテスト・リザーブドライバーとして帯同します。

 第2回目となる今回は、ELMS合同テスト翌日のスペイン・バルセロナから、FIA F2テスト、そしていよいよ迎えるF2、WEC開幕戦についてお届けいたします。

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 読者のみなさん、こんにちは! 宮田莉朋です。

 前回の第1回目のコラムではいろいろな方から反響を頂きまして、ありがとうございました。2回目の今回はまず、1月末のデイトナ24時間が終わってからをお伝えしたいと思います。

デイトナ後、僕はまずイギリスのロダン・モータースポーツのファクトリーに行って、2月11〜13日に行われるバーレーンテストの準備や、コースの勉強をしたりしました。

 そこからドイツへ飛び、ケルンのToyota Gazoo Racing Europe(TGR-E)の近くにあるアパートメントの契約を行い、そのままバーレーン入りしFIA F2テストに参加。一旦ドイツに戻ってからヨーロピアン・ル・マン・シリーズ(ELMS)のテストのためにスペイン・バルセロナに飛ぶ、と……僕は相変わらずホテル暮らしが続いています(笑)。せっかくその間にアパートメントを契約したのに、まだぜんぜん自分の部屋で生活できていません。日本の自宅にあるシミュレーターもまだ持って来れていないので、全然できていなくて、ゲームとシミュレーターはちょっとブランクがヤバイですね……。

 僕のアパートはケルンの市街地にあり、近くにはケルン大聖堂やスーパーマーケット、薬局、そして日本の方が働いているラーメン屋もあります。このラーメン屋はケルンでは有名な味噌ラーメン屋で、海外では現地の方が作る“味噌汁寄り”の味噌スープが多い中で、しっかり日本人が作っているラーメンという感じで好きですね。TGR-E副会長の中嶋一貴さんもおすすめするお店で、ヨーロッパの食文化に飽きてもすぐに日本のラーメンが食べられる、という意味でも良い場所に住むことができたと思います。

 ちなみに、神奈川県出身の僕はラーメンといえば横浜家系が一番好きです。なかでも、横浜に住んでいた際には『銀家』というお店が好きで、モチベーションを高めるべく(苦笑)レースウイークには1回は行っていたほどです。トムスのファクトリーに行ったときなどは御殿場にある『松楅・御殿場インター店』もよく通っていました。美味しかったですね。

■テストのタイムだけでは見えてこない大切なこと

 さて、FIA F2の開幕戦がいよいよ近づいてきましたけど、その直前のプレシーズンテストで僕のマシンのカラーリングに驚いた方もいらっしゃったかと思います。僕も事前に話は聞いていたのですけど、そこまでとは思っていなかったので、現車を見て、FIA F2指定のサプライヤーロゴを除けばTGR一色でかなり驚きましたね(笑)。

2024年FIA F2 バーレーンテストに参加した宮田莉朋(ロダン・モータースポーツ)

 僕はデイトナ24時間参戦のため、1月23日に行われたFIA F2の今季から導入される新型車の合同シェイクダウンには参加できなかったので、このプレシーズンテストが新型車の初走行になりました。ただ、新型車両と言っても昨年末にアブダビで乗った昨年までの車両との違いは、正直あまり感じませんでした。

 新型車両は外観の空力パーツが変わりましたが、中身は昨年からの共通部品も多くて新車導入によるチームの勢力図もリセットされたという感じはなく、逆にそれまでノウハウを持っている各ドライバーの経験値の差も埋まらずシーズンを迎えるという印象です。ですので、依然として複数年戦ってきたドライバーにアドバンテージはあると思います。

 今回のテストはクルマ、タイヤ、コース、そしてチームとの仕事も含め、ほぼゼロからのスタートでした。テスト初日はフィーリングも悪くはなかったのですが、僕がタイムを記録したタイミングがちょうど雨量が少なすぎたタイミングで、フルウエット用のタイヤでは水が少なすぎて滑ったこともあり8番手でした。ただ、ウエットのフィーリングも確認し、大丈夫だなという感じで初日を終えましたね。

 2日目からのドライではウォームアップやタイヤのデグラデーション(性能劣化)のケアという部分の確認を行い、足りない部分や改善策も見つかりました。そこからステップ・バイ・ステップで進めることができて、最終日は3番手で終えることができました。

 まだテストなので開幕ではまた変わってくるとは思いますが、多くのチームが最後のセッションで新品ソフトタイヤを投入し、アタックシミュレーションを行っていたので、そういった状況も踏まえると、僕の3番手という位置は悪くはなかったと感じています。

 チームメイトのゼイン(マロニー)は参戦2年目ということもあって、初日2番手、2日目と最終日はトップタイムと、かなりタイムを出しに行っていました。僕は自分の課題に対し、チームから教えられた通りにトライし続けていました。

 2日目はそのトライの最中、自分のミスもあってタイムを出せませんでした。これは、あくまで僕の肌感覚ですが、ヨーロッパの人には自分から声をかけないと行動してもらえない印象が強く、自分から声をかけて、周りを動かすような人でないとそのまま終わってしまうというイメージがあります。

 ですので、エンジニアには「ミスをして申し訳なかった」と伝えた上でマシンをさらに速くするための要望を伝えました。すると、エンジニアから「少し裏に来て」とガレージの外に呼ばれました。

「君はルーキーだが、ほかのルーキーと比較したら、ピレリとダラーラの組み合わせの経験が一番少ない。そのなかでここまでやれている。だからこそ、チームが指示するプログラムにトライして、少しずつアジャストしてタイムを出しに行った方がいいと思う。今はタイムが出なくても、君がプログラムを指示どおりに進めていること自体に、チームとしては自信を持っているんだ」と、エンジニアが話してくれました 。

 その話を聞いて、チームの方が僕の状況をよく理解してくれていることを感じましたし、僕の担当エンジニアは僕の話を素直に聞いてくれる人なので、僕としてもやりやすいです。最終日のタイムは、そういった会話を経て、チームの指示するプログラムに専念しての3番手でした。

 もしかしたら、プレシーズンテストの途中のタイムを見て、『今年の宮田莉朋はこんなものか』と感じている人は少なからずいるのではないかとも思います。僕もドライバーなので、タイムが出なかったら不安になります。ただ、チームとしては今タイムや結果が出ても、いつか直面する壁を越えられなければ意味がないという考えを持ってくれています 。その壁を越えるために、チームの指示をきちんと聞き、彼らのプログラムを確実に消化する大切さを僕が理解したことは、チームにとっても僕にとっても、かなりポジティブだったと思っています。

■海外勢のドライバーが日本で走り始めから速さを見せる理由

 さて、FIA F2テストを終えて、F2やELMSのスタッフ からもよく聞かれたのが『スーパーフォーミュラとFIA F2の違い』です。これに対する答えとしては 、前提として日本と海外のサーキットとマシンの性質が異なるという事情からお話ししなければいけないと思います。

 良い表現かは難しいところですが、僕は日本のレースのドライビングを『簡単すぎる』と表現します。各ドライバーのドライビングがどうであれ、ある程度の技量があれば初めてSFやGT500マシンに乗っても、マシンの行きたい方向に進めさせれば、ある程度のタイムは出しやすい環境にあると思います。ただ、それはクルマと、タイヤ、そしてサーキットが優秀だからです。

 たとえば、日本のサーキットは常にコースが綺麗です。路面もきちんとグリップしてくれるし、タイヤもウォームアップがしやすい環境で、タイヤにデグラデーションが出てもドライビングでなんとかなる範囲だったりします。SFやGT500のクルマもトラブルは少なく、個体差もほとんどないし、チームやエンジニアもプロフェッショナルが多く、何十年とエンジニアリングを経験してきた人も多く、持ち込みセットを外すことが少ない。クルマ、タイヤ、そしてサーキットがそういった環境だからこそ、パッケージなりにタイムは出やすいと思います。

 対照的にヨーロッパの場合は、まずグリップするコースが少ない。また、グリップするコースがあっても、今度はタイヤのデグラデーションが大きい。エンジンに関しても日本ではエンジンマップを好みに変えられますが、ヨーロッパではマップの数そのものが少なく、あるもので乗らなければいけないケースが多い。その中で、ドライバーがフィーリングだけを頼りに走らせるという感じなので、ほかに頼れるものがなく、すべて自分のドライビングでねじ伏せるという感じです。

 そういった事情、環境の違いから、僕は当初ヨーロッパのクルマとコースではピークパフォーマンスを超えて走ってしまう傾向にありました。それも、日本でより良いクルマとタイヤ、路面を経験しているので、感覚的に「ここまで行けたなら、あそこまで行ける」というものを頼りに走るのですが、その感覚でヨーロッパや北米のサーキットを走ると、すべてにおいてオーバーリミット気味になり、ブレーキングでも止まりきれなかったりします。

 日本のクルマや環境の限界点が高すぎるが故に、ドライバーの感覚としてはすごく簡単に、高い次元で走ることができていたのだと気づきました。逆に言えば、スーパーフォーミュラなどはある程度までのタイムは簡単に出せますが、そこからトップタイムを記録する、コンマ何秒を削る戦いは非常にハードだと思います。

 今までリアム・ローソンやピエール・ガスリーといったFIA F2やGP2からSFに来て、F1に昇格したドライバーたちは、日本の初めてのサーキットであっても公式練習から必ず上位に来ていましたし、昨年のSFオートポリス戦でも初めてのサーキットにも関わらずリアムが優勝しました。

 僕は日本にいた際に『鈴鹿やオートポリスがヨーロッパ風のサーキットだから、路面の攻撃性の高いサーキットでも速いのだろう』と思っていましたが、そうではなく、彼らにとっては日本はクルマもサーキットもリミットが高いので、今までねじ伏せていた部分も必要ではなくなる。止まる、曲がる、走るという基本のドライビングをすれば速いタイムが出る。そう気づいたドライバーはすぐに切り替えることができるので、海外勢も走り始めから自然と上位で戦えることになる、ということだと思います。

 これは僕も最近理解したことですし、同時にここに気づけたことはレーシングドライバーとして僕の今後の人生の宝になると思いました。

■ELMSテストの手応えとWEC開幕戦への期待

 さて、まもなくFIA F2も開幕戦を迎えます。バーレーンのサーキットはシーズン中で唯一、事前に走れたコースですから必ずポイントを獲得したいと思っています。ドライバーとしてはやはり優勝が絶対の目標ですが、予選でトップ5、スプリントレース、フィーチャーレースともにトップ3以内で終えることが理想です。

 また、2月下旬にはELMSのバルセロナでの合同テストを終えました。今回は1台を6名でシェアするかたちでのテストになりました。個人的にはFIA F2みたいに変に悩まずに乗れたという感じです。LMP2では4チームほどが参加していましたが、僕が記録したタイムがトップタイムとなり、ステップ・バイ・ステップでプログラムに取り組んだ割にはタイムが出たので、良かったなという感じですね。

 バルセロナを走るのも初めてでしたが、トム・ディルマンとか、結構プロドライバーもいる、かつライバルチームもアタックシミュレーションを行っていた中でのトップタイムは自信になりました。ELMSはチームと、ドライバー3人でタスキをつないで行けばしっかりと戦えると思いました。

 そして、リザーブドライバーを務めているWEC(世界耐久選手権)の開幕戦(カタール)ですが、こちらはFIA F2開幕戦(バーレーン)とスケジュールがバッティングしているので、バーレーンから応援します。ハイパーカーはBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)もあり、複雑な戦いとなりますが、TGRは開幕戦から力強いレース運びができると思います。

 今年から7号車にニック・デ・フリースが加入しました。僕も彼と一緒に耐久テストに参加して、彼の速さも感じています。リザーブの僕が言うのも失礼かもしれませんが、普通に戦って勝てる、そんなドライバーだと思います。あとは、新規参戦となるライバルメーカーやチームがどういうスピードで来るのか、そこは開幕戦の大きな見どころになると思います。

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︎今月の“リトモメーター“**
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
今回、1月18日〜2月23日の期間で……

2024年 宮田莉朋コラム第2回目

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︎1月18日〜2月23日9回の搭乗12,969マイル搭乗時間 32時間20分**

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︎2024年累計15回の搭乗25,461マイル搭乗時間 63時間46分**

1月29日から、アメリカ・デイトナビーチ(DAB)〜ドイツ・フランクフルト(FRA)〜イギリス/ロンドン・ヒースロー(LHR)〜ドイツ/デュッセルドルフ(DUS)、ドイツ・フランクフルト(FRA)〜バーレーン(BAH)〜ドイツ・フランクフルト(FRA)、ドイツ・ケルン・ボン空港(CGN)〜スペイン・バルセロナ(BCN)〜イギリス/ロンドン・ヒースロー(LHR)〜ドイツ・ケルン・ボン空港(CGN)
ELMSのテストで訪れたスペイン・バルセロナの観光名所、サクラダ・ファミリアの前にて
ELMSのテストに共に参加したチームメイトのロレンツォ・フルクサ(左)とマルテ・ヤコブセン(右)

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