ガザ停戦合意は近いのか ハマス「柔軟性」示す

ポール・アダムス外交担当編集委員、エルサレム、BBCニュース

イスラエル南部で28日、長い行進が始まった。イスラム組織ハマスの武装集団が昨年10月7日に襲撃した音楽フェスティバル「ノヴァ」の会場で、人質に取られたイスラエル人の家族や友人らがエルサレムに向かって歩き出した。

「レイム」という名のキブツ(農業共同体)に近いこのフェスティバル会場は、イスラエル人数百人が殺害され、数百人がパレスチナ自治区ガザに連れ去られた現場だ。

行進に参加した人々は、行方不明者らの写真を手に、未解放の人質134人を帰還させるためにもっと努力するよう政府に求めた。

参加者たちの期待感は、停戦の話がもち上がっていることで高まっている。

行進に加わったローネン・ニュートラさんは、「145日間、昼も夜も、私たちは愛する人たちのことを思い続けてきた」と集まった人たちに語った。

ニュートラさんの息子オメルさん(22)は、ガザのどこかにいる。

「私たちは彼らに力を送り、もう少しだけ持ちこたえてとお願いする」

「オメル、もう少しだけ。合意は可能だ」

先週末には、アメリカ、エジプト、カタールの交渉担当者らがパリに集まり協議した。以来、イスラエルのマスコミは、一時停戦合意の話題で持ちきりとなっている。

最新の合意案は明らかになっていない。だが、アメリカのジョー・バイデン大統領が、3月4日までに合意が成立するかもしれないと発言。憶測が広がるばかりとなっている。

合意するとしたら、どのような内容があり得るのか。

推測されている内容は、停戦が6週間続き、その間にイスラエル人の人質40人が段階的に解放されるというものだ。まず、女性の民間人と兵士が解放される。

引き換えに、パレスチナ人の囚人約400人がイスラエルの刑務所から解放される。重大なテロ犯罪で有罪とされた者も含まれる。

イスラエル軍の兵士らは、ガザの人口の多い地域から撤退する。昨年10月に戦闘が始まってから避難を続けているパレスチナ人180万人の一部は、ガザ北部の自宅に戻ることができるかもしれない。

ただ、停戦協議は今週もカタールで続いている。エジプトとカタールの交渉担当が、イスラエルとハマスの代表団の間を行き来している。ほとんどの課題が、まだ解決されていないことは明らかだ。

報道によれば、イスラエル人の人質1人につきパレスチナ人の囚人を何人解放するかでもめているという。

イスラエル兵の再配備や、パレスチナ人の帰還についても、まだ合意に至っていないもようだ。

しかし、イスラエル情報機関モサドの元部長で、過去に同種の交渉に関わったことがあるハイム・トメルさんは楽観的な見方を示した。

「かなり近づいていると思う」

「人質とパレスチナ人囚人の解放は確実だとまでは言わない。ただ、交渉は前進していると思う」

トメルさんは根拠として、カタールを拠点とするハマスのイスマイル・ハニヤ指導者の発言を挙げた。同指導者は28日にテレビ演説で、「私たちが交渉で柔軟性を示すのは、私たちの民衆の血を守るためであり、残忍な絶滅戦争における多大な苦痛と犠牲を終わらせるためだ」と述べ、ハマスが合意に向けて態度を軟化させる可能性を初めて示唆した。

ハニヤ指導者はさらに、ハマスは必要とあれば戦い続ける準備ができていると主張。ヨルダン川西岸とエルサレムにいるパレスチナ人に対し、イスラエルの規制を無視して、イスラム教の聖なるラマダン月にエルサレムにある聖地アル・アクサ・モスクへと行進するよう呼びかけた。

ガザのハマス指導者は

「柔軟性」という言葉は、ハマスが要求を見直している可能性を示している。ハマスは戦闘の完全終結とイスラエル軍のガザからの完全撤退を求めているが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこれを「妄想的」だとしている。

ハマスはまだ、パリでまとめられた合意案に正式には態度を表明していない。

ガザにいるハマスのヤヒヤ・シンワル指導者が、合意案をどう評価しているかも分かっていない。

シンワル指導者が最後に撮影されたのは、ガザ南部のハンユニスもしくはラファの地下トンネル内だった。

その頭上では、ゲリラ戦を繰り広げるハマスの部隊が徐々に滅ぼされつつある。イスラエルは彼を捕らえると宣言している。

イスラエル当局は、5カ月半にわたって徹底的な砲撃が続き、数万人規模の死者が出ていることで、シンワル指導者の権威は著しく失墜していると指摘している。

そうした見方が正しいか確認するのは困難だが、確かなことが一つある。昨年10月7日の襲撃を開始したこの人物と連絡を取るのが、どんどん難しくなっているということだ。

そうしたなか、イスラエル人の人質の家族や友人は行進を続けている。エルサレムには3月2日に着くという。

到着したとき、良い知らせが待ち受けているだろうか?

(英語記事 Is a Gaza ceasefire deal in sight?

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