SUGIZOがスーツケースでロンドンに持ち込んだ心の支え「天下一品のラーメン」

ミュージシャンは普段どんな「メシ」を食べているのか、実はめちゃくちゃこだわっている「メシ」があるんじゃないか? ニュースクランチの編集部員が個人的な趣味で聞きまくる連載「ミュージシャンのこだわりメシ」。

今回はLUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARSのメンバーとして活躍する孤高のミュージシャンSUGIZOさんが登場! 大ファンとして公式でも数々のコラボレーションも展開している老舗ラーメンチェーン「天下一品」の魅力について、さらに2024年にメジャーデビュー35周年を迎えたLUNA SEAについても語ってもらいました。

▲ミュージシャンのこだわりメシ ~SUGIZO~

世の中にこんな美味しい食べ物があるんだ!

――SUGIZOさんと天下一品の親密な仲は多くの方がご存知だと思いますが、改めて天下一品のラーメンにハマったきっかけを教えてください。

SUGIZO 僕が天下一品のラーメンと出合ったのは1990年のことでした。目黒の鹿鳴館に向かう途中で「面白いラーメン屋があるから行ってみない?」とベースのJに誘われて、池尻店に立ち寄ったんです。

初めて口にしたときに「世の中にこんなに美味しい食べ物があるんだ!」と衝撃を受けて、 そこから“史上最高の至福”を味わうために、お店に通い詰めるようになりました。あれから30年以上経ちましたが、天下一品は今の僕にとって一番の“ソウルフード”です。

――Jさんがきっかけだったんですね! お気に入りの店舗はありますか?

SUGIZO 京都にある総本店(京都市左京区)の味が好きで、関西で仕事があったときにはよく立ち寄っています。「材料とレシピが同じなので、味も一緒じゃないか?」とおっしゃる方もいらっしゃるんですけど、僕的には店舗によって味が微妙に違います。

おそらく、お店で使っている水、その土地の気温や湿度などのさまざまな要素が影響しているからだと思うんですけど、総本店のラーメンの美味しさは、お店で働かれている皆さんが持っている“総本店の誇り”が作り出しているんじゃないかと思っています。

――SUGIZOさんは、天下一品をどのように召し上がっていますか? 普段はグルテンを制限されているとお聞きしたんですが。

SUGIZO おっしゃるとおり、日頃はグルテンを制限していて麺を食べないようにしているので、いつもの食べ方と“自分へのご褒美”として食べるメニューの2種類を紹介させていただきます。

普段は「キムチ定食」に煮卵とねぎをトッピングして、“麺が入っていない”スープに半ライスを入れて、おじやのようにして食べているんですが、最近は一部の店舗で「納豆ラーメン」が発売されているので、それがメニューにあるときは麺のない「納豆ラーメン」にキムチを加えて、ご飯と一緒に食べることも増えてきました。キムチ+納豆は“血液に良い”と言われていて健康に良いですし、キムチとスープの相性も抜群ですからね。

ただ、どうしても麺と一緒に食べたくなることはあるので、月に1回くらいは“チートデー”を設けて、そのときはスープを増量してキムチをトッピングした「納豆ラーメン」を頼むようにしています。

麺を食べるときは、あえてご飯は頼まずに、麺をしっかり味わうことが僕のこだわりです。それと体調が優れないときには、ねぎを倍増(ねぎW)させて、にんにく薬味をたっぷり入れます。

――SUGIZOさんにとっては、コンディションの良くないときでも天下一品が欠かせないんですね。

SUGIZO 一見すると“ジャンクフード”のように見えるかもしれませんが、天下一品のスープには鶏がらやたくさんの野菜が含まれているので、健康にとても良いです。僕は“医食同源”が最も大事なことだと思っているので、体調を快復させるためには食事が最重要です。風邪っぽいときは(胃の調子が悪くないことが前提ですが)必要な栄養素を摂るために、天下一品こってりを必ず食べます。

――SUGIZOさんは天下一品とコラボレーションをされていますが、どのようなきっかけで実現に至ったのでしょう?

SUGIZO 僕の公式YouTubeで、大好きな天下一品本店を食レポした動画を公開(2018年)したところ、なぜかそれがすごくバズってしまって、それがきっかけでお話をいただきました。最初はまさに青天の霹靂で「イメージ的にどうなんだろう…?」って、躊躇していたんですけど、天下一品さんの本気のオファーに心を動かされて、ご一緒に仕事をさせていただくことになりました。

木村勉会長が抱く強烈なフィロソフィーや、困難を何度も乗り越えて這い上がってきた姿からは、とてもたくさんのことを学ばせていただきましたし、自分が好きなものを作り上げた方と共鳴できる体験は、僕にとってとても大切な時間になりました。

〇SUGIZO×木村会長 スペシャル対談その1『木村会長こってり作る!SUGIZOこってり食べる!』

――一緒に仕事をされて印象に残っていることを教えてください。

SUGIZO 最初に撮影をしたとき、非常に光栄なことに木村会長がわざわざ僕のためにラーメンを作ってくださったことが印象に残っています。僕が若干緊張しながらも、会長に作っていただいたラーメンを食べ終える前、会長は「僕にどんぶりに残ったスープをいただけますか?」と仰られて。

僕が「いいですよ?」と返答すると、会長はどんぶりのスープを飲んで「これで兄弟の契りを交わしました」とおっしゃられたんです(笑)。ジョークなんですけど、とてもうれしかった。言葉の節々から木村会長の哲学や人柄、そして食に対するこだわりを感じることができて、僕にとって天下一品が、より身近な存在になった感覚がありました。

――SUGIZOさんしか知らない「天下一品の美味しい食べ方」はありますか?

SUGIZO 木村会長とお会いしたときに「スープは蓮華を使うよりも、どんぶりに直接、口をつけていただいたほうが絶対に美味しいです」と教えていただいて、その通りにスープを飲んでみると、たしかに普段よりも美味しく感じられたんです。

蓮華を使うと周りの空気に触れてスープが冷めてしまいますが、どんぶりを手に持ってスープを飲めば、芳醇な香りが漂うなかで温かいスープを感じられる。木村会長に教えていただいた美味しいスープの食べ方が、とにかく印象に残っています。

ソロアルバム制作時の心の支えにもなってくれた

――天下一品のラーメンは、SUGIZOさんの音楽にどのような影響を与えていますか?

SUGIZO LUNA SEAが一旦活動を休止した1997年に製作したソロアルバム『TRUTH?』は、1年ほどイギリスに移住して、ミュージシャン仲間と一緒に天下一品のラーメンを食べながら制作した作品なんです。

毎月、ロンドンにやってくるマネージャーに、日本から天下一品の持ち帰りセットを大量に持ってきてもらって、スーツケース一杯に詰め込まれたラーメンを制作の合間に食べていました。

――スゴい話ですね!(笑)

SUGIZO 慣れ親しんだ天下一品の味には、どこか地元に帰ったときのような安心感があって、約1年間の異国の生活でも心の支えになっていました。

――個人的な話で恐縮ですが、この『TRUTH?』が洋楽を知る入り口になった作品だったので、その作品の成り立ちに天下一品が関わっていると思うと感慨深いです。

SUGIZO ありがとうございます、とても光栄です。今振り返ってみると、この『TRUTH?』は僕のキャリア初のソロアルバムでしたし、天下一品は“アーティストSUGIZO”としての始まりを支えてくれた味なのかなと思います。

――昨年は『MOTHER』(1994年)と『STYLE』(1996年)のセルフカバーアルバムを発表されましたが、レコーディングで印象に残っているグルメはありますか?

SUGIZO 1990年代に2枚のアルバムを作ったときは、僕らの先輩にあたるBUCK-TICKやTHE MAD CAPSULE MARKETSも使っていて、“伝説のスタジオ”と言われていた中野のサウンドスカイでレコーディングをしました。

製作期間中は、出前を頼んでみんなで一緒に食べることも多かったのですが、そのなかで特に印象に残っているのが、食堂伊賀の定食です。「ナスゴマみそ炒め定食」「ピーマンとウインナーの炒め定食」「ニラ玉定食」を食べることが多かったかな。当時発表したアルバムは、「食堂伊賀のメニューで作られた」と言っても過言ではありません。

そして、昨年発表したセルフカバーアルバムは、二子玉川にあるStudio Sound DALIでレコーディングをしていて、近所にある龍園という中華屋さんの「麻婆ナス」や「カニ玉」を食べていました。お店は駅から少し遠い場所にありますが、“昔ながらの街中華屋さん”といった感じの店構えも印象的なので、皆さんにもぜひ食べてみてほしいです。

目の前の一瞬に全力を懸けて生きていきたい

――LUNA SEAの話もお伺いしたいんですが、ファンの人気が高いアルバムをセルフカバーしようと思ったのはなぜですか?

SUGIZO 2018年に僕らのメジャーデビューアルバムの『IMAGE』と、2枚目の『EDEN』の再現公演をやったときに予想外の好感触が得られて、それをきっかけに話が盛り上がって、『MOTHER』と『STYLE』の再現ツアーや、そこに付随してセルフカバーアルバムの制作が決まりました。

これまでの僕は、昔の曲を聴き直すことにあまり興味がありませんでしたが、過去の自分とじっくり向き合ってみると、当時の自分では十分に表現できなかった部分を補ったり、現代のサウンドにブラッシュアップできる。新作とは違う形で、自分の表現欲を満たせることに気づいたことが大きかったかもしれません。

▲LUNA SEA Photo by Keiko Tanabe

――前作の『CROSS』(2019年)に続いて、U2のプロデューサーとしても知られているスティーヴ・リリーホワイト氏を起用されていますね。

SUGIZO 前作の『CROSS』で、初めて外部プロデューサーを招いたんですけど、僕らの音楽制作にとって大きな意味がありましたし、多くのことを学びました。今回は、すでに楽曲ができていることもあって、スティーヴにはエンジニアやミックスをお願いしましたが、彼が制作をサポートしてくれたことも、セルフカバーアルバムを作る意欲につながっています。

――当時のLUNA SEAは、「セルフプロデュースに定評がある」と言われていたと思うのですが、当時の楽曲に対してどのような印象を感じていますか?

SUGIZO インディーズで発売した『LUNA SEA』から3枚目の『EDEN』までの作品は、演奏技術や過剰なアレンジなどの面で耳も当てられないと思っていて……。今となっては羞恥心や後悔の気持ちが強いです。自分たちのアイデアがとめどなく浮かんできて、作りたい音楽のビジョンもはっきりしていましたし、“自分たちの音を大人たちには触らせない!”という若さゆえの意固地な部分もあったんですよね。

でも、いま思うと、レコーディングや音楽を表現する手法を的確に指導してくれるサウンドプロデューサーが必要だったんです。僕らの大きな失敗だったと思っています。

一方では、デビュー当時から生み出してきた楽曲や根本にあるアイデア、そして音楽的な素養は本当に素晴らしいと思っていて。“アルバムを作った25歳の自分たちをハグしてあげたい”という気持ちも同時に込み上げてきましたね。

――2024年はLUNA SEAの結成35周年を記念した全国ツアー開催も決まりました。

SUGIZO 昨年の『DUAL AREANA TOUR 2023』は僕が腰、ベースのJは右足を骨折しながらのツアーだったので、本当にギリギリの毎日を過ごしていました。でも、満身創痍の体とは対照的に、“全身全霊で表現をする”ことに対して僕は絶対的な強いこだわりがあって、年齢を重ねても余裕など微塵もなく、若い頃と同じく、もしくはそれ以上に勉強したいことや目標が次々と湧き上がってきます。

今はLUNA SEAに加えて、X JAPANやTHE LAST ROCKSTARS、そしてソロの活動も、さらに最も理想の表現形態であるジャズロックバンドSHAGもありますから、“もう少しゆっくりしたい”という気持ちはありつつも、年を追うごとに忙しくなっていくのも仕方がないことかなと思いますし、人生の一番忙しい日々を更新していたら、あっという間に50代を迎えていたという感じです。

▲THE LAST ROCKSTARS Photo by Keiko Tanabe

――その熱意の根源はどのあたりにあるのでしょうか?

SUGIZO 昨年は僕のかけがえのないミュージシャン仲間、バンドメンバーが多く旅立ってしまい、深い悲しみと共に“自分もそういう年齢になったんだな……”と感じさせられた1年でした。

自分の未来が、今まで歩んだ過去よりも長くないことは間違いないし、永遠がないこともわかっているからこそ、“目の前の一瞬に全力を懸けたい”という思いが、日を追うごとに強くなってきています。

仮に、僕が突然この世を去ることになってしまったときに、クオリティの低い作品しか残ってなかったら、死んでも死にきれない。だから、いつ最後の瞬間を迎えても後悔がないように、日々のステージに全身全霊で向き合っていますし、“最高の表現を続けていきたい”っていう思いにもつながっているんだと思います。

(取材:白鳥 純一)


© 株式会社ワニブックス