恐ろしい…年収450万円、実家で70代母と二人暮らしの40代長男が「毎月12万円」支払っていた「ムダなもの」【FPが解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

「日本人は保険好き」とよく言われます。保険は一度加入すると、見直そうと思っても、「いまある保障よりも減ってしまう」という恐怖から、減額には心理的負担がかかります。そのため、契約時には本当に必要なものかどうか、シビアに判断することが重要です。本記事ではAさんの事例とともに、生命保険の必要性について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

日本人は生命保険が大好き?生命保険加入率の意外な現状

「日本人は生命保険が大好きで、全体の加入率は高い」というイメージをお持ちの方も多いと思います。

一定年齢以上の方であれば、就職すると職場に生命保険会社の営業職員(主に女性)がやってきて、昼休みなどに勧誘されたという経験を持っている方が多いでしょう。当時は熱心すぎる勧誘によって誰もが嫌々ながら加入したものの、生命保険に加入する意識を広めたという点では、この生命保険会社による「職域活動」の功績は大きいといえます。

日本人の生命保険や共済生命の加入率は約8割という調査結果があります。公益財団法人 生命保険文化センターの2022年の調べによると、男性の77.6%、女性の81.5%が生命保険または共済生命に加入していることがわかります。

そして保険料(かけ金)の平均は、世帯単位で年間37万1,000円となっています。毎月約3万円ですから、可処分所得に占める割合は決して低くはありません。3万円があったらなにができるでしょうか。月の食費が3万円という世帯は決してめずらしくありません。月3万円をつみたてNISAに入れていたら、いまごろかなり増えていたのにと考える人もいるでしょう。

最近の物価高の状況では、若い世代を中心に生命保険のかけ金がもったいないと考える人も増えています。

生命保険分野の調査・教育機関であるLIMRA(米国)の2022年の調査(LIMRA「Global Consumer Pulse」2022)では、22歳から55歳の生命保険加入率の国際比較がなされています。

それによると、生命保険加入率の世界1位は台湾(78%)、2位はインドと香港(75%)、4位はタイ(73%)、5位は中国(72%)となっています。日本は62%で減少傾向にあり、決して高くはないアメリカ・ヨーロッパ諸国の加入率に近づきつつあります。

この数字を裏付けるかのように、生命保険不要論をネットでも多く見かけるようになりました。当社(ファイナンシャルプランナー事務所)でも、「生命保険をすべて解約したいがリスクはそれほどか分析してほしい」という依頼が年々増えています。

そもそも生命保険は不要か?

生命保険(死亡保険や医療保険)には、本来、公的保障や職場独自の支援制度では補いきれないリスクをカバーするという目的があります。

医療保険の必要性

たとえば1ヵ月入院して、病院からの請求額が15万円だったとします。これを支払える貯蓄が15万円あれば、医療保険は不要です。会社員であれば有給休暇の制度があるため1ヵ月程度であれば給料は大きく下がりません。貯蓄が多少あれば、医療保険がなくとも1ヵ月の入院によるリスクは大きくないといえます。

ではもし、貯蓄がなかったら……。それでも病院に対して医療費を分割払いにしてもらう相談はできるため、さほど心配はありません。

退院後も就業できる体調ではなく、自宅で静養することになったらどうなるでしょうか。職場の健康保険から傷病手当金が支払われますが、その額は標準報酬月額の6割超で、さらにそこから社会保険料や住民税が差し引かれるため、手取りはもっと少なくなります。長期間仕事を休む場合には、この手取りが減少した分を補うために、やはり貯蓄が必要ということになります。

最近ではこの収入減を補填する目的で、医療保険に就業不能保障特約をオプションで付けられる保険商品もあります。しかしこちらも貯蓄で賄えるのであれば不要です。

こう考えていくと、医療保険が必要なのは、有給休暇や傷病手当の制度がない個人事業主です。しかしその場合も貯蓄で賄えるようにするのが優先であり、医療保険が必ずしも必要ではありません。

死亡保険の必要性

では死亡保険はどうでしょうか。死亡保険がなくても残された家族は生きていけるでしょうか。

会社員の場合、自分が亡くなると家族には遺族年金が支払われます。また住宅ローンがある場合には残債が0円になります。これに残された配偶者の収入が一定額以上あるのであれば、死亡保険は不要かもしれません。

ただし、遺族年金の金額が少ない場合や、配偶者が主婦/主夫である場合、障害などにより経済的な配慮が必要な子供がいる場合、住宅ローンの団信(団体信用生命保険)を夫婦で半分ずつ加入している場合など、死亡保険が必要になるケースもあります。

医療保険、死亡保険ともに自分が置かれた状況や考え方で必要性が異なります。

ガン保険の必要性

ガン治療では自由診療も積極的に選択したいというのであれば、貯蓄だけでは賄えないでしょう。その場合は、目的に合わせた医療保険の加入を検討してもいいかもしれません。しかし保障と引き換えに毎月の掛け金が必要ですので、「支出」という目線でもコストパフォーマンスを考慮すべきです。

年間の掛け金の平均37万1,000円は決して安くはありません。毎月3万円とすると当然ながら10年で360万円、20年で720万円です。これを3%で運用できたら20年後には987万円になる計算です。老後2,000万円問題の半分弱をこれだけで解決できるのですから、生命保険の掛け金にはもっとシビアになるべきです。

不安で不安で…生命保険に入りすぎる45歳独身男性

ここで「生命保険の入りすぎ」についての事例をご紹介します。

<事例>

Aさん 45歳 会社員
年収 450万円
未婚、パートナー・子供なし
実家に母親と二人暮らし
実家は戸建て(築42年)
貯蓄額 現金1,200万円
生命保険の掛け金 月12万8,000円

Aさんは未婚で45歳の会社員です。FPに相談したきっかけはAさんの友人からの紹介です。

友人のお話しでは「Aさんが保険に入りすぎていて生活が苦しそうだから説得して解約させてほしい」というものでした。

しかしいざ面談してみるとAさんがFPに告げたのはこうでした。

「私の保険で抜けている保障があれば教えて欲しい。見直しを検討したい」

もっと必要だと説得されたらさらに加入しそうな雰囲気です。Aさんの生命保険のラインナップは次のようなものでした。

医療保険(2社に加入) 月2万円
ドル建終身保険(65歳まで払込) 月3万円(為替で変動あり)
ドル建個人年金保険(60歳まで) 月2万円(為替で変動あり)
変額保険(定期タイプ) 月3万円
収入保障保険 月6,000円
就業不能保険 月3,500円
ガン保険(3社) 月8,500円

合計で毎月12万8,000円を支払っています。高額な医療保険を2社から加入していることや終身保険や変額保険など解約返戻金がある保険に毎月8万円を支払っていることと、年収が450万円であることを総合的に考えて、控えめにいっても異常な状態です。

「保険の内容はともかく、これで生活は成り立っていますか?」とFPは質問しますが、Aさんは実家暮らしで独身であることから、毎月さほどお金を使わないので支払える範囲内だと答えます。

なぜこんなに保険が必要なのかと質問すると、Aさんはさらに答えます。

「家族は母親だけなので、いずれ私ひとりになります。それで病気になったら不安で不安で。それに老後のことも考えると怖くなるんです」

そのため医療保険や、解約返戻金のある保険に入りすぎるのでしょう。

初めは、職場に毎日のように来ていた保険会社の営業職員からの勧誘がきっかけだったそうです。それを機に、Aさんは保険の重要性に気が付いたといいます。これらの契約の保険会社は全部で5社にわかれていて、担当者は5人います。この加入状況を5人の担当者がそれぞれ知っているのかとAさんに質問すると、全員に内容を見せているとのこと。それで「足りない保障はないか」と質問するので、その都度上乗せするようなのです。

「結論からいうと、保険の入りすぎです。抜けている保障はありません」FPがそう言うと、Aさんは聞いていないのかさらに言います。

「銀行に1,200万円寝かせているのですが、これも保険で運用すべきでしょうか。銀行に置いたままでは増えませんよね」

「いえ、必要ありません。もう保険はやめてください」

FPからの提案

70代の母親には貯蓄があり、死亡保険を残す必要はありません。貯蓄があるので当面の医療保険も不要でしょう。老後資金を貯めたいという思いで外貨建て保険や変額保険に加入しているようですが、ひとりの老後であれば現金を毎月貯めていくだけでも十分のはずです。資産運用をしたいと思うのであれば、まずはつみたてNISAを選んだほうがいいし、それすらごく少額で留めておくべきです。Aさんの状況ではリスクを負ってまで運用する必要性がないのです。

また、自宅は築42年で冬は寒く、押し入れなどの結露もひどいようです。このままではAさんの老後まで住み続けることは難しいのが現実です。ヒートショックなどの健康被害も考えられますし、大きな地震で倒壊する恐れもあります。

大規模にリノベーションするか、小さく建て替えるか、あるいはマンションを購入して転居するか、いずれかを決めるときが近々来るでしょう。その費用はいまのままでは支払えません。保険は抜本的に見直さなければなりません。

FPが見直しとして提示したのは、

・医療保険を一社だけ残す
・がん保険を一社だけ残す
・毎月の掛け金は8,000円程度
・それ以外はすべて解約し、普通預金での貯蓄に切り替える

というものでした。しかしAさんは、「それでは不安です! ありえません!」と強く抵抗を示します。「私は老後と病気が不安なんです。そのために保険を解約はしません」

Aさんとの相談会はあまり問題解決に結びつかずそこで終了しましたが、Aさんの友人の話によるとさらに貯蓄をつかって一時払いの生命保険に加入したとのこと。将来の人生設計を無視してまで生命保険に依存するのは、もしかしたら知識よりも心の問題のほうが大きいのかもしれません。

将来への不安感は誰しも持っているものですが、保険などの金融商品を購入すればすべてが解決されるわけではありません。不安を解消するために重要なのは将来を見据えたトータルな資金繰り計画です。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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