「被災地での口腔ケアは命に関わる」 能登半島地震2カ月 岡山から支援に駆け付けた歯科医師、西日本豪雨の被災経験踏まえ訴え

避難所で入れ歯の調整をする水川さん(右)=岡山県歯科医師会提供

石川県を中心に甚大な被害が出た能登半島地震は1日、発生から2カ月を迎えた。岡山県内からも物心両面で支援が続けられている中、岡山県歯科医師会は2月中旬、石川県輪島市内に災害歯科支援チーム(JDAT)を派遣。入れ歯の調整といった応急処置や口腔ケアの啓発、指導を行った。2018年の西日本豪雨で自らも被災者となった経験があり、支援チームのリーダーを務めた歯科医師の水川正弘さん(62)=倉敷市真備町箭田=に現地の状況や災害時の口腔ケアの重要性を聞いた。

チームは水川さんのほか、歯科医師の南本茂樹さん(岡山市)、亀山達弘さん(総社市)、歯科衛生士の飯田美知代さん(津山市)の計4人。2月10日、歯ブラシや歯磨き剤、治療器具を積み込んだ車で岡山を出発し、12日まで現地で活動した。いずれもボランティアでの参加だ。

支援チームとして石川県輪島市に向かった(左から)南本さん、飯田さん、亀山さん、水川さん=岡山県歯科医師会提供

「災害関連死を出してはいけない」。テレビで被災地のニュースを見て、いてもたってもいられなくなった水川さんは、岡山県歯科医師会からJDATの募集の声かけがあった時、すぐに手を挙げた。西日本豪雨で自宅兼診療所が被災し、患者が長い避難生活で病気を悪化させたケースを多く目にした。「災害がなければ元気だっただろう人が、命を落としたり、半身不随になったりした。これまで受けた支援の恩返しの気持ちも込めて、歯科医師としてできることをしたいと思った」と振り返る。

避難所に支援物資として歯ブラシなどが届けられるまで数日かかるケースもあり、災害時の口腔ケアは後回しになりがちだ。避難所生活での体力低下やストレスも加わり、口の中で繁殖した細菌が誤嚥(ごえん)性肺炎や心筋梗塞、脳梗塞を引き起こす危険性が高まるほか、歯周病の進行で糖尿病などの持病を悪化させることもある。水川さんは「口腔ケアは命に関わることを伝えることが一つの使命だった」と語る。

輪島市では計7カ所の避難所を訪問。避難所で水が使える場所は屋外の場合が多く、寒さを嫌って歯磨きをしていない人もいた。避難所で配られる食べ物は甘いものが多く、子どもの虫歯も心配になる状況だった。

高齢者を中心に優しく声をかけることを心掛け、必要に応じて、洗面所に行かなくても歯磨きができる「ガーグルベースン」と呼ばれる小型のたらいや入れ歯洗浄剤などの支援物資を渡したり、相談に丁寧に応じたりした。入れ歯の調整をした後、「今夜はご飯が食べられる」と喜ぶ高齢者の笑顔は今でも忘れられない。

輪島市での支援活動を振り返る水川さん

水川さんは「災害はいつ、どこで起きてもおかしくない。歯科医は往診などで診療所以外でも治療できるので、避難所などで困ったら頼ってもらいたい」と語る。

これまでは岡山県からは水川さんのチームのみの派遣にとどまっているが、県歯科医師会は「日本歯科医師会から要請があれば、今後も支援に向かいたい」としている。同医師会は11年の東日本大震災でも支援チームを現地に派遣した。

★知っておきたい災害時の口腔ケア対策

もし被災したとき、口腔ケアはどうするべきなのだろうか。水川さんに教えてもらった。

水が手に入らない場合は、ウエットティッシュで歯と歯茎をふくだけでも効果がある。水が手に入るときは、少量を口に含み、高速で水流をつくるうがいが効果的。上下左右に勢いよく各30回すれば、かなりリスクを下げられる。

使い慣れたメーカーの歯ブラシや歯磨き剤、入れ歯洗浄剤なども持ち出し袋に入れておけば、支援物資の到着が遅れた場合も安心だ。水川さんは「自分の命を守る意味でも、非常持ち出し袋に歯ブラシを1本入れておくだけでもいい。いざというときに備えてほしい」と訴える。一度、避難時に持ち出すものを点検してみてはどうだろうか。

(まいどなニュース/山陽新聞)

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