重症化すると入院の危険性も⁉じつは怖い「親知らず」を放置するリスク

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抜くべきか抜かざるべきか…。多くの人が判断に迷うのが「親知らず」です。痛みなど気になる症状がなくても、抜いたほうがいいのでしょうか。

親知らずが引き起こす健康トラブルや放置する危険性について、親知らず抜歯専門のクリニックである東京新橋歯科口腔外科の院長、畠山一朗氏に聞きました。

Q.親知らずとはどのような歯ですか

親知らずは奥歯の一番後ろにある歯で、第三大臼歯(だいさんだいきゅうし)が正式な名称です。智歯(ちし)とも呼ばれ、永久歯(大人の歯)のなかで最後に発育します。

親知らずは生える時期が10代後半から20代前半ともっとも遅く、親に知られることなく生えてくる歯であるのが、その名前の由来(諸説あり)だとも言われています。

Q.親知らずは誰にでもありますか

先天的に親知らずがない人もいますが、ほとんどの人にはあります。ただし、歯茎の中に完全に埋まっていて、外には出ていないことがあります。その場合は、自分には親知らずがないと勘違いしてしまいますが、実際の有無はレントゲンを撮らないとわかりません。

Q.親知らずが引き起こす健康トラブルはありますか

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親知らずでもっとも多いトラブルは、埋まっている親知らずの周囲にバイ菌が溜まって化膿し、炎症が起きることです。これを智歯周囲炎と言います。

親知らずを抜歯する理由でもっとも多いのが、智歯周囲炎です。智歯周囲炎の症状には、歯茎が腫れてさわると痛む・何もしていないのに痛むなどがあります。炎症が進行する(下顎骨周囲炎:かがくこつしゅういえん)と口が開かなくなったり、飲み込むのが痛くて食べにくくなったりします。

さらに重症化すると、食事がとれず入院して点滴で治療する場合もあります。

ほかには、埋まっている親知らずや、親知らずが当たっている手前の歯が虫歯になることがあります。

Q.親知らずは抜いたほうがいいですか。また抜くことにリスクはありますか

すでに症状が出ている親知らずは抜歯適応です。

歯ブラシが当たらない箇所がある親知らずは、智歯周囲炎や虫歯になりやすいです。一度でも智歯周囲炎や虫歯になると、根本的な治療法は親知らずの抜歯となります。

親知らずの抜歯はリスクもあります。抜歯後の腫れや痛み、一時的に噛めなくなることなどです。

また、上あごの親知らずは副鼻腔(ふくびくう)のひとつである上顎洞(じょうがくどう)と近いため、抜歯の傷から口内と上顎洞、つまり口と鼻が繋がってしまうリスクがあります。

下あごの親知らずは神経(下歯槽神経:かしそうしんけい)の近くを通っており、抜歯による神経の損傷で、唇の感覚が鈍くなる麻痺が後遺症として残る場合があります。麻痺が起こる確率は、海外の論文では0.6%と報告されています。

症状が一度もない親知らずの抜歯を検討する際は、抜くリスクと抜かないリスクのどちらを優先するのかを考える必要があります。抜くのであれば、何か症状が起きたら抜くのか、症状が起こる前に先に抜いておくのかも考えましょう。

さらに、年齢についても考慮が必要です。若ければ若いほど歯は抜きやすく、歳を取るとどんどん抜きにくくなります。これは、年齢とともに顎の骨が硬くなるためです。若いうちの抜歯は、歳を取ってからよりは体への負担が少ないです。個人的には、親知らずを抜く考えをお持ちのかたは、若いうちに抜くのをおすすめします。

Q.親知らずで口腔内トラブルを起こさないためにできるセルフケアはありますか

完全に埋まっている親知らずにセルフケアはできません。一部しか出ていない親知らずも、十分に歯ブラシが届かないためセルフケアはむずかしいです。あえて言うなら、口全体的に清潔に保つことです。

歯につく細菌「バイオフィルム」は、歯ブラシを当てないと除去できません。強めのぶくぶくうがいで取れるものでもありません。定期的に歯科医院でクリーニングを受けていても、ケアができるのは器具が届くところに限られます。

一部だけ出ていて症状がない親知らずも、完全に埋まっている親知らずも、残したときのリスクを考えると早めに抜くことをおすすめします。

教えてくれたのは・・・

畠山 一朗さん

埼玉県立川越高校(水泳部)卒業。映画『ウォーターボーイズ』のモデルになった川越高校水泳部主将で、高校卒業後、ウォーターボーイズ製作にシンクロ演技構成、シンクロ指導で従事し、第6コース山畠役でも出演。映画終了後に福岡県立九州歯科大学、東京医科歯科大学大学院口腔外科で博士号を取得し、2016年から全国で初めて親知らず専門外来を設立。その後、抜歯の執筆や講演を経て2023年5月に親知らず専門クリニックの東京新橋歯科口腔外科を開院。

「東京新橋歯科口腔外科」のHPはこちら

取材/文:山名美穂(Instagram「@mihoyamana」)
編集:サンキュ!編集部

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