AKB48姉妹グループが海外で活性化 日本的な女性アイドル文化、国境超えてなぜウケる?

AKB48マレーシア初の姉妹グループ KLP48の初代メンバーオーディション『KLP48 1st Generation Audition ~I shine from the Heart of Asia~』が現在行われている。同オーディションへの応募資格のひとつとして、基本的にはグループ名にも冠されているマレーシアのクアラルンプールを含め世界での活動になるため、海外生活も可能であることが条件に盛り込まれている(※1)。KLP48は5月下旬にクアラルンプール市内で行われる最終パフォーマンス審査を経て、デビューが予定されている。

KLP48が誕生すれば、海外で現存する48グループとしては、JKT48(2011年活動開始/ジャカルタ)、BNK48(2017年活動開始/バンコク)、MNL48(2018年活動開始/マニラ)、AKB48 Team SH(2018年活動開始/上海)、AKB48 Team TP(2018年活動開始/台北)、CGM48(2019年活動開始/チェンマイ)に続いて7組目。これで、日本国内で活動するAKB48グループの数(6組)を上回ることとなる。

さらに着目するべきは、日本国内では2017年に瀬戸内地方を拠点とするSTU48が誕生して以降、新規グループが立ち上げられていない一方で、海外グループは2017年以降に続々と活動を開始している点。なかには、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって活動終了したSGO48(ベトナム・ホーチミン)、結成が発表されながらもコロナ禍の情勢によって思うように活動が進まなかったDEL48(インド・デリー)、MUB48(インド・ムンバイ)などもあるが、AKB48グループとしては“海外展開”に目を向けていることがよくわかる。

■「海外展開」の理由は国内の規模感の限界とセールス展開の変化

その理由として、ひとつはシンプルに日本国内では規模感に限界があることが挙げられるだろう。そもそも日本が七地方区分(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州)で形成されていることを考えれば、国内グループ数6つは妥当と言える。いくら「各グループは場所・地域に特化したものである」とはいえ、これ以上の増加はAKB48グループ内での食い合いに繋がるように思える。

また、時代的にも楽曲視聴がCDなどのフィジカルからサブスク中心へ移行したこと、AKB48グループにとって大規模なイベントのひとつでもあった『選抜総選挙』が2018年を最後に開催されていないことなど、大きな変化があった。これが多かれ少なかれ各グループの経営面にも影響を及ぼしていることも推測できる。

■秋元康プロデューサーが“海外展開”を実行した理由

そもそも、なぜAKB48グループが“海外展開”に目を向けたのかにも触れておかなければならない。プロデューサーの秋元康は書籍『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(2013年/アスコム)のなかで、JKT48の結成背景についてこのように語っている。

「ジャカルタから『AKBに来て欲しい。JKTを作りたい』という圧倒的に強い声が届いた。ではジャカルタでやろうと。中国の上海、台湾、タイのバンコクからも同じ声が届いている」

「いくらアメリカやイギリスに進出したいと無理に頑張っても、時代の力というものを投げ飛ばすことはできない。でも『インドネシアですごい人気です。来てください』という声に乗れば、体がふぁんと浮く。僕は、自分の意志よりも、みんながどんなことを望んでいるかを優先して考えます」

さらに秋元は、同書内の責任編集かつ対談相手である田原総一朗から「海外から求められる時代になった」と話を振られると、メジャーリーグへ渡った歴代のプロ野球選手の野茂英雄、松井秀喜、イチロー、海外人気が高いスタジオジブリのアニメーション作品、フランスをはじめとした国々で開催されている『Japan Expo』、2009年の『第81回アカデミー賞』外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』(2008年)やハリウッドでリメイクされた映画『着信アリ』(2004年)などを例に出し、「もともとのカルピスの原液をつくれば、もう勝手に世界中に広がっていく時代なんです。だからAKB48も必ずいけるはずだ」と、海外進出に確信を持った理由をコメント。AKB48グループの“海外展開”のほとんどが現地からのオファーであることを踏まえたうえで、「オリンピックの誘致みたいなもの」と表現していた。そして当然、安全面、予算面なども事前確認をして海外グループの立ち上げを行っていると、当時語っていた。

■日本的な女性アイドル文化が海外でウケる理由

加えて、たとえばタイでは、BNK48結成以前はいわゆる日本的な女性アイドル文化はあまりなかった。これはタイの人気映画監督 ナワポン・タムロンラタナリットによる長編ドキュメンタリー映画『BNK48: Girls Don't Cry』(2018年)を観ても非常に顕著だ。それまでタイではK-POPなどのガールズグループ、ダンスボーカルグループが人気だったが、BNK48の登場以降、日本的な女性アイドル文化にも興味が持たれるようになり、BNK48自体も大きな熱狂を生んだ。これまでとは異なる価値観を生み出した、という点で、BNK48は成功だと言える。

その現象はインドネシアでも同様だったとされ、一躍人気を博したオーディション番組『Akademi Fantasi Indosiar』出身のガールズポップユニットのT2(2007年デビュー)などともまた違ったムードで、JKT48は迎えられたのだ。

アジア各国では現在に至るまで、人気の主流はやはりガールクラッシュ系だが、それらは日本的な女性アイドル文化とは違いがある(わかりやすく言えば、K-POPの“アイドル”と日本の“アイドル”が同音異義みたいなものに近い)。そう考えると日本の女性アイドル文化はまだまだ海外では未発見なところが多く、新鮮さがあるのではないだろうか。

AKB48グループがマーケットを“世界”まで広げた時、まだまだやれることは十分にある。それこそ、東宝が設立した新会社TOHO Globalの展開によって映画『ゴジラ-1.0』(2023年公開)が北米で記録的な大ヒットを飛ばし、アニメ『【推しの子】』(2023年放送)とそのオープニング主題歌であるYOASOBI「アイドル」、そして現在進行形でアニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期(2024年放送)とオープニングテーマのCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」も世界的な広がりを見せている。まさに「カルピスの原液」とも言えるこれらの日本発のカルチャーは、戦略を練ったうえでの企業努力と配信プラットフォームの活用により、大化けする可能性を秘めていることが証明されたのだ。

秋元は『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』のなかで、当時はYouTubeの効果もあって「ジャカルタのファンはみんなネットで日本のAKBを知っていた」とし、日本の“オタ芸”もジャカルタではおなじみになったと語っていた。そういった時代の流れによるコンテンツの変化を敏感に察知し、そこに今以上にうまく乗せることができればAKB48グループにとって本当の意味での“海外進出”が見えてくるのではないだろうか。その役目を担うのが日本国内のグループになるのか、それとも現存の海外グループになるのかはわからない。ただ、そのためにはプロモーション、コンセプトなども含めてAKB48グループのあり方を抜本的かつ大胆に変える必要があるのかもしれない。

※1:https://klp48.my/news/detail/S9/vEQqE3QbM4bt2K2Qa/N+lnhqMmsuv6JHyvi5Dm1M=

(文=田辺ユウキ)

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