新NISAで65歳までに2000万円貯めるなら…40・50・60代に必要な「積立額」はいくら?

投資をすると、資産が積み上がります。では資産が増えると、どんなメリットがあるのでしょうか。やはり⼀番は、経済的な不安の解消です。事故や病気にあっても、資産を切り崩せば乗り切れる。極端な話、ある程度の資産を持つ⼈にとって医療保険などは不要です。

さらに、資産から⽣まれる配当⾦などが得られます。これらはいわゆる「不労所得」であり、定期的に資産がお⾦を⽣み出してくれるため、多少本業の収⼊が減っても⽣活の安定につながります。

老後資金が「2000万円必要」と言われる理由

この資産形成を突きつめていくと、老後の不安もある程度解消されますが……老後に向けてどの程度の資産があれば安心なのでしょうか。

ここで思い浮かぶのが、かつて論争を巻き起こした「⽼後2000万円問題」です。世間的に⼤きな議論となったきっかけは、2019年。⾦融庁が作成した資料の中に、このような記載がありました。

(前略)収⼊と⽀出の差である不⾜額約5万円が毎⽉発⽣する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取り崩しが必要になる。

引⽤:⾦融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「⾼齢社会における資産形成・管理」(2019年6⽉3⽇)

この話の前提は、以下のとおり。ちなみに、元となる数字は厚⽣労働省のデータです。

・夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦がモデル

・この夫婦の収⼊は、⽉20万9000円
・対して、⽀出は⽉26万4000円
・したがって、毎⽉約5万5000円の⾚字となる
・この結果から、夫が95歳になる30年間で、約2000万円が不⾜すると考えられる

結局、「⽀出26万円以上って、⽼夫婦にしては少しぜいたくな暮らしでは?」「95歳はさすがに長く見積もりすぎでは?」といった意⾒が上がり、この話は終息に向かいました。とはいえ、⽼後には2000万円ぐらいは必要かも? というイメージは、この話題をきっかけに多くの方に残ったのではないでしょうか。

この話の真偽はさておき……実際に目安となる2000万円程度の資産を作るにはどうすればいいのか。その答えを知るため、本記事では年代別に投資期間を変えてシミュレーションします。

また、いまのところ企業によって定年年齢は異なりますが、厚生労働省の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」では、2025年4月からの「65歳までの雇用確保」が義務づけられています。そのため、今回は65歳までに老後資金を築くものとして考えていきます。

毎月の4%の割合で資産が増えると仮定する

まずシミュレーションの前提として、“毎年4%の割合で資産が増えていく”こととします。この前提を聞いて、「毎年4%も増えるって、夢を⾒すぎじゃないの?」と思われるかもしれません。

しかし、この毎年4%という数字……私は、かなり現実的だと考えています。その根拠となるのが、⽶国の優良企業500社から作られたS&P500という指数です。ざっくり言うと“⽶国の株価を代表する数字”というイメージです。このS&P500指数は、2013〜2022年の10年間で平均14.8%のリターンとなっています。

直近ではコロナショックやロシア・ウクライナ問題などにより、以前ほど⾼いリターンは得られていません。しかしそれでも、

・直近5年平均:10.8%
・直近3年平均:9.0%

と、10%前後のリターンを実現できています。そこで最近の世界経済が不安定なことも加味し、「直近3年間、S&P500のリターンの半分ぐらい=4%」を、資産増加の前提としてシミュレーションします。

35歳の積立金額は「毎⽉2.9万円」の結果に

前置きが長くなりましたが、結論をお伝えします。35歳の方が65歳までに2000万円の資産を作るには【⽉2万8816円】の投資が必要となります。

現在、あなたが35歳の場合。資産ゼロの状態からでも、これから毎⽉2.9万円ほど投資にまわせば……定年である65歳時点で、2000万円の資産が形成できている計算になります。

毎⽉2.9万円であれば、何とかなりそうな気もします。ちなみに2000万円の資産を作れても、このケースでは新NISA枠である元本1800万円を上回ることはありません。具体的に言うと、「毎⽉2万8816円×30年間」の投資では、元⼿は

・2万8816円×12カ月×30年≒約1037万円

つまり、おおよそ1037万円分しか枠を使っていない(投資していない)ことになります。

これが、時間をかけて投資することの威⼒です。資産2000万円を貯⾦だけで達成するのであれば、当然元本2000万円が必要となります。⼀⽅で30年もの⻑い年⽉をかけて投資すれば、「たったの1037万円」が2000万円までに膨れ上がるのです。

45歳の積立金額は「毎⽉5.5万円」の結果に

同じく、40代~50代が65歳までの2000万円を作るためのシミュレーションもしてみましょう。こちらも、「45歳から20年間の投資をした場合」「55歳から10年間の投資をした場合」で考えてみます。

まずは、45歳から資産形成する場合。このパターンでは、【月5万4529円】の投資が必要となります。「月2.9万円を30年間(35歳から65歳まで)投資」と「月5.5万円を20年間(45歳から65歳まで)投資」がほぼ資産額になる、という結果となりました。

やはり複利効果の力は大きく、投資期間が長ければ長いほど、少ない元本で資産形成が可能となります。もし30代で結婚・出産・マイホーム購入などの一大ライフイベントを終えている方であれば、月5.5万円の投資も現実的かもしれません。ちなみに20年かけて2000万円を作る場合、元本として約1308万円が必要となります。

55歳の積立金額は「毎⽉13.5万円」の結果に

そして、55歳から資産形成する場合。このパターンでは、【月13万5824円】の投資が必要という結果になりました。当然ですが、45歳からの投資スタートよりもかなりハードルが上がります。

老後の資産形成をゴールとした場合、投資できる期間は10年と限られてしまいます。短い期間で資産を積み上げる必要がある分、月13.6万円の投資が必要というシミュレーション結果になりました。

かなり大きな額ですが、子どもがすでに独立しており、今後は夫婦2人の生活費がまかなえればOK、という方であれば達成できる可能性はあります。このケースでは、必要な元本は約1629万円となります。

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なお、これらはあくまでも投資の期間と積立額のイメージをつかむための試算です。投資の結果を保証するものではないことに注意してください。前提である「年率4%」が達成できなければ、毎⽉の投資額を増やす必要がありますし、逆に言えば、年率4%を上回る場合、65歳よりも前に資産2000万円に到達できる可能性もあります。

新NISAを使うと資産形成のハードルは下がる

新NISAが始まる以前は、2000万円を作るためのハードルはかなり高いものでした。その理由は税金です。投資した資産が値上がりするだけでは、税金はかかりません。しかし、資産を売って現金化するとき……そのタイミングで、売却益(投資により利益が出た分)に対して通常20.315%の税金がかかります。

さらに、株式から得られる配当金や、投資信託から得られる分配金に対しても同じく税金がかかる。そのため、投資で2000万円の現金を得るためには、それ以上の資産額が必要でした。

一方、新NISAであれば元本1800万円までが非課税となります。今回の3パターンのシミュレーションでは「65歳までに2000万円を作る」ことをゴールにしましたが、

・35歳であれば、元本1037万円が必要
・45歳であれば、元本1308万円が必要
・55歳であれば、元本1629万円が必要

という結果になりました。

若いほど有利になるのはもちろんですが、注目すべきは「どのパターンでも、新NISAの枠内でカバーできる」という点でしょう。たとえ55歳から老後に向けて投資をスタートしても、新NISAの範囲内、つまり「投資にかかる税金ゼロ」で資産形成が可能なのです。

もちろん、リタイアが60歳の方もいれば、70歳以降も働く方もいます。さらに、想定する老後の生活によって、用意すべき老後資金も大きく異なります。「65歳までに2000万円」は絶対的なゴールではありませんが……あくまでも1つの目安として、老後の資産形成に向けた参考にしていただければと思います。

参考:⾦融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「⾼齢社会における資産形成・管理」(2019年6⽉3⽇)
参考:厚生労働省の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」

浅見 陽輔/銀行員・証券アナリスト

大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科を卒業後、2013年に銀行に就職。10年のキャリアで、投資運用、リスク管理、法人・個人向け融資、システム部門を経験。証券アナリスト、FP2級、簿記2級、税務上級など20種類の金融系資格を保有。趣味は優待株投資と筋トレ。本業の傍ら、Kindle(電子書籍)作家としても活動中。代表作に『図解 新NISA』『トクする株主優待の選び方』『最後のジュニアNISA』『絶対に続く筋トレ』などがある。Twitterアカウントは【@you_def】。

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