『ブギウギ』第23週は小野美音の“名演オンパレード”に 響き渡る愛子の叫びのリアルさ

羽鳥善一(草彅剛)の妻・麻里(市川実和子)の後押しもあって、アメリカ行きを決断したスズ子(趣里)だったが、まだ幼い愛子(小野美音)はぐずってしまう。『ブギウギ』(NHK総合)第108話では、いよいよスズ子がアメリカへと飛び立つ。

スズ子のアメリカ行きに先立って、日本では「福来スズ子お見送りショー!」が開催された。楽屋で身支度をしていたスズ子のもとに、おミネ(田中麗奈)たちが大きなバラの花束をもってやってくる。おミネを筆頭に各々が関係のあったアメリカ人への思いを語り、一気に華やかになる楽屋。おそらく新マネージャーの柴本タケシ(三浦獠太)にとっては初めてのパンパンガールとの対面だったはずで、終始とまどいの表情を見せながら会話を見守っていた。

そして始まったスズ子の渡米記念公演。そこには渡米前のスズ子を一目見ようと多くの観客が駆けつけた。スズ子が「この度ご縁があってアメリカに出稼ぎに……」と関西人らしいノリで会場を盛り上げる中で、一人浮かない表情をしていたのが愛子。「東京ブギウギ」が披露されると、観客は総立ちで前に乗り出し、まるでダンスフロアのような盛り上がりを見せていた。これまで披露してきた「東京ブギウギ」の中でも、スズ子の決意がにじみ出ていたステージングだったように思う。

そして印象的だったのはスズ子と愛子の対照的な描かれ方だ。いつものように“ブギの女王”として圧巻の歌唱を見せるスズ子に対して、愛子はずっと寂しそうにスズ子を見つめていた。大勢の観客に見守られながら歌う母親の姿は愛子にはどう映っていたのだろうか。きっと母親のステージを楽しめる余裕は愛子にはなかったはずだ。やっぱり母親と離れるのは辛い。

渡米当日、スズ子は愛子に別れを告げる。最初はスズ子を遠くから見つめるだけだった愛子だったが、スズ子が「おいで」と優しく促すと、スズ子の目をじっと見つめながら抱きつく。「マミーはな、愛子のことが好きや。何よりも大切や。宝物や。せやけど、マミーはもっともっと大きな歌手になりたいねん」と語りかけるが、愛子は「いやや」と泣きわめく。スズ子が愛子のもとを離れる理由を正直に語ったとしても、愛子にとっては母親と離れることそのものが寂しい。思い返すと筆者も小さい頃に親と離れて生活する機会があったが、その度に泣いていた思い出がある。だが、その経験はきっと今後の成長の糧にもなるはずだ。

それにしても愛子役の小野美音の名演には改めて驚かされた。スズ子の目を見つめてから抱きついて泣いてすがるまでの一連の行動には子どもならではの仕草が詰め込まれていたし、何よりもスズ子が家を出た後に響き渡る愛子の叫びがとてもリアルなものとして受け取れた。

スズ子がアメリカにわたって3カ月が立ち、日本では新しい自宅が完成した。そんな中、スズ子から手紙を受け取った家政婦・大野(木野花)が愛子に読み聞かせると、別れ時にはあれだけ泣いていた愛子も晴れやかな表情を見せる。そしてスズ子に向けて愛子は精一杯の絵を送るのだった。次回はスズ子が日本へと帰ってくる。
(文=川崎龍也)

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