ガザでの一時停戦交渉、ラマダンを前に期待感が失速

ヨランド・ネル、BBCニュース(エルサレム)

パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘の一時停止を目指した協議が先月末、フランス・パリで行われた。この時は、イスラム教の神聖な月「ラマダン」を前に、合意が成立するのではないかと期待が高まった。

ところが今週、エジプトとカタールの仲介者とさらなる交渉を進めるため、ハマスが代表団をエジプトの首都カイロに派遣したのに対し、イスラエルの代表団はエジプト入りしていない。交渉が再び、深刻な行き詰まりをみせているようだ。

イスラエル政府関係者は、重要な問題への明確な回答と、休戦合意が実現した場合に解放される可能性のあるイスラエル人人質の生存者リストの提示をハマス側に要求していると、地元メディアは伝えている。

こうした中、ハマス高官のバセム・ナイム氏は3日放送のBBC番組「ニューズアワー」で、「実際のところ誰がまだ生きているのかを把握するのは不可能だ。イスラエルによる砲撃と封鎖が続いているからだ。人質は異なる集団と共に異なる地域にいる」と述べた。

また、「我々はそのデータを収集するために休戦を要請している」と付け加えた。

さらに、人質に関する「価値のある情報」は「タダ」では提供できないとも述べた。ナイム氏やほかのハマス幹部は一時的な停戦ではなく、完全な停戦とイスラエル軍のガザ撤退を要求し続けている。

アメリカなどはイスラエルとハマスの双方に圧力をかけ、合意に向けた最近の進展を強めようとしている。

この合意案は、イスラエル人の人質40人が解放され、引き換えに、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人約400人が釈放されるというものだと報じられている。

ハマスにはいまも130人以上が拘束されているとみられる。イスラエル当局は、少なくとも30人の人質が死亡したとしている。

提案されている40日間の休戦が実現すれば、ガザ地区で切実に必要な援助物資の搬入量が急増するだろう。

逆に交渉が決裂すれば、3月10日か11日(場所によって異なる)に始まるラマダン期間中に、緊張がさらに高まるおそれがある。

ラマダン中に緊張高まるおそれ

イスラエルは、同国が占領する東エルサレムにあるイスラム教の聖地「アル・アクサ・モスク」へのパレスチナ人の立ち入りを、安全上の懸念を理由に制限すると予想されている。

アル・アクサ・モスクは、ユダヤ教で最も神聖な聖地「神殿の丘」にある。イスラエルとパレスチナの数十年にわたる紛争では、しばしば暴力の火種となってきた場所だ。

新たな争いが勃発することへの国際社会の懸念をハマスは十分承知しており、以前からアル・アクサ・モスクを利用してきた。

カタールを拠点とするハマスのイスマイル・ハニヤ指導者は先月28日にテレビ演説で、同組織は交渉で柔軟性を示していると主張した。しかし同時に、イスラエル占領下のパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区とエルサレムのパレスチナ人にいるパレスチナ人に対し、イスラエルの規制を無視して、ラマダン初日にエルサレムにあるアル・アクサ・モスクへと行進するよう呼びかけた。

悲惨な人道状況、休戦への圧力高まる

ガザ地区で悲惨な人道状況が続く中、休戦合意を求める国際的な圧力は高まっている。国連によると、6カ月近く続く戦闘で数十万人が飢餓に直面している。

アメリカのカマラ・ハリス副大統領は3日、「この計り知れない苦しみの規模を考えれば、少なくとも今後6週間の休戦を即時にしなければならない。交渉のテーブルの上に合意がある」と述べた。「そうすれば(イスラエル人)人質を解放させられるし、相当量の援助がもたらされるだろう」。

さらに、「ガザ地区の人々は飢えている。非人道的な状況に置かれている。私たちは共通する思いやりの心があり、行動せずにはいられない」と続けた。

カマラ氏の発言は、ガザ地区の状況をめぐる米政府高官の説明としてはこれまでで最も強力なものだった。イスラエルに最も近い同盟国アメリカの政権内部で、同地区での戦争の成り行きをめぐり不満が高まっていることの表れといえる。

ガザ地区の現状は、11月の米大統領選での再選を目指すジョー・バイデン大統領の選挙キャンペーンをますます苦しいものにしている。

イスラエル国内でも、人質の家族から新たな合意を実現するよう、戦時内閣に激しい圧力がかかっている。

数千人のイスラエル人は人質の家族らへの連帯を示すため、昨年10月7日にハマスの奇襲を受けたイスラエル南部のガザ境界近くからエルサレムまで、4日間かけて行進した。行進は2日夜に終了した。

参加者はイスラエル国旗と人質のポスターを掲げた。

行進に加わったシャロン・シャラビさんは、「私たち家族、シャラビ家は4人の家族を失った。イスラエルの指導者たちはしっかり聞いてほしい。私たちはここに、五つ目のひつぎを運び込みたくはない」と述べた。シャラビさんのきょうだいのイーライさんは、いまもハマスに拘束されているとみられる。

(英語記事 Gaza war: Hopes for ceasefire falter ahead of Ramadan

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