抗がん剤で『ヘアロス』に。おしゃれで快適な帽子がないから、自分で作った『スカーフハット』

抗がん剤で「ヘアロス」になったことをきっかけに、医療ケアの帽子ブランドを立ち上げました。闘病中も笑顔になって、おしゃれを楽しんで。誰にとってもひとごとではないがんを経験したママにお話を聞きました。

<プロフィール>
原まゆみさん 47歳 2人の子の母
東京都在住。家族構成は夫(45歳)、長女(小6)、二女(小4)。大学を卒業後、IT企業でWEBデザイナーとして新規サービスの立ち上げにかかわる。結婚後、家のリノベーションをきっかけに二級建築士とインテリアコーディネーターの資格を取り、オーダー家具を手がけるベンチャー企業で働く。治療しながら起業し、現在は医療ケア帽子ブランド「BAREN」を1人で運営する。

病人ぽく見えるケア帽子。不自然できつくて蒸れるウィッグ。かぶるたびに気持ちが沈んだ

元々ポジティブで、子宮頸(けい)がんがわかったときも「治療すれば治るだろう」と前向きにとらえていたという原さん。「手術後、抗がん剤治療を始めると副作用で髪を失うということでウィッグやケア帽子(※)を探し始めました。でもかぶりたいものが全く見つからなくて。ヘアロスって自分が自分でなくなるようなつらいことなのに、頑張れないじゃない!と落ち込みました」。それでもウィッグを4つ購入しましたが、7万円のものでもかぶると蒸れて汗だくになり、頭が締め付けられ頭痛に悩まされます。「おしゃれも快適さもあきらめたくない。それがかなう帽子を私が作ろう!と起業しました。ただアパレルで働いた経験はなく、ウィッグが取り外せるケア帽子という他にはない物を作るのは苦労の連続。手探りでした」。数十社のメーカーや工場にかけあい、試行錯誤を繰り返して1年。原さんが心から求めた、闘病中も笑顔になれ、前よりもっとおしゃれを楽しめる「スカーフハット」が完成しました。
※脱毛した頭皮をカバーしたり、冷えから守る帽子

病気になる前の原さんはボブ。がんがわかり、抗がん剤による脱毛に備えてショートにした。

親しくなった看護師さんとのおしゃべりで、医療ケア帽子やウィッグに萎えているヘアロス女性がたくさんいることを知る。

ヘアロスとは?

脱毛症、抜毛(ばつもう)症、欠毛症や、抗がん剤を始めとする薬の副作用による脱毛など、さまざまな原因で髪の毛がなくなっている状態や、髪が縮れるなど変形している状態を指す。

HISTORY

2021年7月 ぎっくり腰になったときに下腹部に違和感があり、婦人科検診を受ける/子宮頸がんを告知される(ステージ2b)
8月 手術
9月 抗がん剤治療を開始し約6カ月間、入退院を繰り返す/抗がん剤の副作用で髪を失う/ケア帽子のブランド「BAREN(バレン)」立ち上げを決め、入院中に事業計画書をつくり融資を申し込む/試作品の開発を始める
10月~2022年 試作を繰り返す
2022年夏 がんが再発する
2023年3月 「BAREN」販売スタート

何回経験しても、髪がなくなるのは悲しい

「ずっとおしゃれが大好き。おしゃれは私にとって自分らしさを表現する大事な手段であり原動力だから、脱毛して大きな悲しみと喪失感がありました。これまで3回ヘアロスを経験したけど、回を重ねるごとにつらさは増し、受け容れられない。だからこそ元に戻るより、もっとおしゃれになることを目指そう、治療前の自分を超えたい!という思いで『BAREN(バレン)』を立ち上げました。夫は見守ってくれていますが、まさか私が起業までするとは思ってなかったみたい(笑)」。

見た目が不自然でかぶり心地もいまひとつなウィッグはかぶらなくなった原さん。手持ちのスカーフを頭にかぶってヘアロスをカバーしていたのが『BAREN』のスカーフハットの原点。

「これ、ケア帽子なんです。前髪はウィッグで取り外せます!」

「軽くて通気性がよく締め付け感もなく、かつ自然でおしゃれなケア帽子を、と当事者目線でスカーフと帽子、ウィッグを折衷しました。前髪からもみあげにかけてのウィッグは好みの長さやボリュームにアレンジ可。アクセントにもなるリボンでサイズとかぶり心地を調整できます。ブランド名の『BAREN』はウィッグだと“バレん”というダジャレからのネーミング。闘病中でもクスッと笑えることを提供したくて」。

ウィッグは肌にやさしい医療用の面ファスナーで取り外しが可能。「帽子をかぶったときに前髪ともみあげが見えればヘアロスが自然にカバーできる」と気づいて。ウィッグを外すと帽子は洗濯機で丸洗いできるのも原さんのこだわり。

おしゃれには、闘病している人のマインドを変える力がある

「やりたかった仕事、お酒、甘いもの、長風呂、ジム通い、子どもを抱っこすること。病気になっていろんなものをあきらめてきたから、おしゃれはあきらめたくない。これまでになかったケア帽子を作って、自分も含めて同じ悩みを抱える女性たちに『病気になっても自分らしくいよう!自信を持とう!』と伝えたくて。おしゃれが持つ力をお客さまの声からも感じています」。

ヘアロスの子ども向けの小さなサイズのスカーフハットも。

お客さんの声

◆可愛い!乳がんの治療が始まるので不安の日々ですが、気持ちが前向きになれました。
◆抗がん剤の脱毛が想像以上にショックだった時にこちらの商品に出会いました。とても自然で、可愛かったです。暗い気持ちが一気に晴れ、本当に助けられました。
◆がんの転移でとても気持ちが落ち込んで、おしゃれなんて何も考えられなかったところから、少し気持ちが前向きになった時にこの商品を知りました。まさに「おしゃれして楽しもう!」って言ってもらえているようでした。

※購入者からのコメントより

子どもとの時間は永遠じゃないとわかって、ますます愛しくなった

「病気がわかってから娘たちへの接し方も変わりました。前は娘に話しかけられて仕事や家事が中断するとイラッとしてしまうことがあったけど、今はいつでもにっこり笑って『なあに?』って向き合えるようになって。命のゴールを意識するようになり、子どもとの時間は無限じゃないと思うようになったせいかもしれません。『ママ』と呼ばれるたび、娘たちへの愛しさがあふれてきます」。

参照:『サンキュ!』2024年3月号「がんを経験したわたしのストーリー」より。掲載している情報は2024年1月現在のものです。撮影/久富健太郎 取材・文/神坐陽子 編集/サンキュ!編集部

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