アナログプレーヤーの音質精度は、機器の価格とダイレクトに比例するが、本稿で取り上げる「15万円以上30万円以下」のゾーンでは、各社のミドルクラス/ハイミドルクラスのアナログプレーヤーが並ぶ価格帯へと突入する。
ハイエンドモデルから高音質技術を継承したプレーヤーや、ブランド内でも上位に位置するモデルが登場してくるのが特徴だ。基本的にフォノイコライザーやカートリッジは別途必要となるモデルも増えてくるため、好みのアイテムを組み合わせてユーザー自身で音の傾向を作っていく、オーディオならではの楽しみに応えてくれる製品が主軸となってくる。
今回の4機種の試聴にあたっては、レファレンスシステムとして、スピーカーにKEF「R3 Meta」、カートリッジにはオーディオテクニカ「AT-VM95SH」(カートリッジが付属しないモデルに使用)、フォノイコライザーアンプにフェーズメーション「EA-220」を使用した。
英国Regaの中核機となるミドルクラス・プレーヤー。同社ならではのシンプル、かつ軽量なスタイルを踏襲したベルトドライブ機となっている。耐久性やワウフラッター特性に優れる、フラグシップモデルにも採用されている「Advanced EBLT Drive Belt」 を装備するほか、パイプのテーパー処理が美しいオリジナルのストレート型トーンアームを搭載する。
筐体はMDF材をベースに、それをアルミプレートとフェノール材で挟み込むダブルブレイズ構造によって振動をコントロール。ガラス製のプラッターがスタイリッシュなほか、スタート/ストップボタンを備えるコントローラー兼電源部が別筐体となっているなど、本格派の仕様を採る。本モデルは同社製MMカートリッジ「Exact」が付属するモデルで、ほかに、同じくMM型カートリッジ「Elys2」付属モデルやカートリッジレスモデルも用意されている。
フラットな音色バランスが基調ながらもエネルギッシュ
そのサウンドは、エネルギッシュかつ賑やかで、直線的なエネルギーの伝わり方が楽しめるものだ。ピアノの打鍵やシンバルのアタックが明瞭に伝わり、積極的に音がこちらへと飛んでくる様が快い。
各楽器要素がイーブンに見渡せるフラットな音色バランスを基調としながらも、全体的にやや明るめの印象で、旋律の動きや演奏の細部がよく見える。音楽の内容が掴みやすい音に仕上げられていることが魅力だ。
ELACはスピーカー開発で高名だが、かつてMM型カートリッジのパテント取得や自動演奏機構を持つアイドラードライブ式プレーヤー「MIRACORD」のヒットで名を馳せたブランドでもある。2016年に創業90周年記念モデル「MIRACORD 90」をリリースしてプレーヤー製造を復活させたが、本機はフラグシップモデルのコンセプトを引き継ぎながらも可能な限りリーズナブルな価格を目指して開発されたミドルクラスモデルとなる。
駆動方式はベルトドライブを採用し、プラッターはアルミダイキャスト製。カーボンファイバーを使用したストレートアームは、専用ヘッドシェルを搭載しておりカートリッジ交換が容易な仕様となっている。
上質な質感描写はそのままに豊かな躍動感も備える
潤い豊かでシルキーな再生質感が快いプレーヤーである。きめ細やかな描写で、同じカートリッジを使っても、プレーヤーによってここまで異なる音が楽しめるということを実感させてくれる。オーケストラソースは、弦楽器がビロードのような滑らかな質感で特に心地よい。
ロックミュージックでも、音色の上品さと上質さはそのままに、それぞれの楽器が解けて重なり合う開放感や躍動感を存分に楽しませる。エネルギッシュさが魅力のジャズのピアノトリオソースでも、それぞれの楽器の輪郭がしっかりと描き出されながらも、音が硬くならず、躍動感も豊かに音楽演奏が立体的に立ち上がる様に感心させられる。
ティアック「TN-5BB」、テクニクス「SL-1200GR2」をチェック
ティアックのラインナップの中で、最上位に位置するアナログプレーヤー。本体に、漆黒の人造大理石やピアノブラック仕上げのMDFを採用するほか、20mm厚のアクリル製プラッターを搭載するなど、上質な佇まいを実現。音質面でも、プレーヤーの要となるトーンアームにSAECブランドと共同開発した高感度ナイフエッジアームを装備するほか、バランス出力にも対応するなど、最上位機種に相応しい技術が搭載されている。
操作性も高く、ツマミの操作だけで3種類の回転スピードを即座に切り替えられたり、アームの上げ下げもボタンによって自動で行なうことが出来るので、プレーヤー操作に慣れていない人も安心して扱える仕様が細部に盛り込まれている。
歌声から楽器まで分離感が優秀でホール音も描き分ける
一聴して、静けさに満ちた、カチリとした剛性感の高い音を楽しませてくれる。ボディに、硬度の高い人造大理石やピアノフィニッシュを採用している恩恵だろう。加えて、ナイフエッジ方式のベアリングを採用したアームのおかげか、歌声や楽器の分離もすこぶる良好だ。
クラシックでは、オーケストラの楽器それぞれの姿がはっきりと分離する他、楽器の直接音とホールに響く間接音とがしっかりと描き分けられる点に感心させられる。カートリッジ交換は勿論、バランス出力を用いるなど、ステップアップにも着実に応えてくれるプレーヤーと言えるだろう。
幅広いラインナップを備えるテクニクスからは、上位モデルをピックアップ。アイコニックな筐体デザインはそのままに、高い回転精度と低振動を実現した新モーター駆動技術「ΔΣ(デルタシグマ)-Drive」を投入。
電源部も、瞬時供給能力が高くハムノイズの少ないスイッチング電源に加えて、同社のフラグシップモデルに搭載しているノイズ除去回路を組み合わせるなど、テクニクスのデジタル技術の粋が詰め込まれた入魂モデルとなっている。他のモデル同様、トーンアームの容易な高さ調節機能や回転ピッチ調整機能、スタイラスライトなどを搭載し、高い機能性も誇る。
ディティール描写が明瞭で情報量が豊富なサウンド
とにかく静かで明瞭な表現が特長だ。音の余韻がタイトで曖昧さがなく、正確な再現力が厳格に追求されている印象なのだ。音楽再生を完全に掌握している支配力を感じる。ディティール描写がとても細かく、たとえば、ボーカルはビブラートの音のひだをつぶさに観察させるほど。発声の強弱や息の長さなどが大変明快に拾い上げられていくのだ。
低域も、膨らんだり滲んだりせず明瞭に描く。どのような音楽ソースも歪みや硬さを感じさせず、スピーカーの向こう側へと客観的な視点で描き上げていく。同社の下位モデルと比較すると、描かれるキャンバスの画素数が明らかに多く、情報量の多いサウンドが実現されている。
取材した4モデルのSPECをチェック
[SPEC]
REGA 「Planar 3 MK2 with Exact」
●駆動方式:ベルトドライブ ●駆動モーター:AC24Vモーター ●ターンテーブル:ガラスプラッター ●回転数:33 1/3、45 ●ワウフラッター:35% ●トーンアーム形式:RB330・ストレート ●適用カートリッジ:Rega「EXACT」付属 ●主な入出力端子:PHONO×1、アース×1 ●カラー:ブラック、ホワイト、レッド ●消費電力:12.1W ●外形寸法:447W×117H×360Dmm ●質量:6.0kg
ELAC 「MIRACORD 60」
●駆動方式:ベルトドライブ ●駆動モーター:DCモーター ●ターンテーブル:真鍮ブッシング・ステンレス・スチール ●回転数:33 1/3、45 ●ワウフラッター:0.12%以下 ●トーンアーム形式:ストレート・スタティックバランス ●適用カートリッジ:3.5-15.0g ●主な入出力端子:PHONO×1、アース×1 ●消費電力:1.5W、0.5W未満(待機時) ●外形寸法:422W×145H×360Dmm ●質量:8.2kg
TEAC 「TN-5BB」
●駆動方式:ベルトドライブ(回転検出型高精度制御) ●駆動モーター:DCモーター ●ターンテーブル:アクリル ●回転数:33 1/3、45、78 ●ワウフラッター:0.1%以下 ●オーバーハング:18mm ●トーンアーム形式:S字型・スタティックバランス ●適用カートリッジ:3.0-12.g/14-23g(ヘッドシェル含む)/otrofon「2M Red」付属 ●主な入出力端子:PHONO×2(RCA×1、XLR×1)、アース×1 ●消費電力:2.0W、0.3W(待機時) ●外形寸法:450W×135H×351Dmm ●質量:約10.5kg
TECHNICS 「SL-1200GR2」
●駆動方式:ダイレクトドライブ ●駆動モーター:ブラシレスDCモーター ●ターンテーブル:アルミダイキャスト ●回転数:33 1/3、45、78 ●ワウフラッター:0.025% ●オーバーハング:15mm ●トーンアーム形式:ユニバーサルS字型スタティックバランス ●適用カートリッジ(補助ウェイト未使用時):5.6-12.0g/14.3-20.7g(ヘッドシェル含む) ●適用カートリッジ(補助ウェイト使用時):10.0-16.4g/18.7-25.1g(ヘッドシェル含む) ●主な入出力端子:PHONO×1、アース×1 ●カラー:シルバー、ブラック ●消費電力:11W、0.2W(待機時) ●外形寸法:453W×173H×372Dmm ●質量:約11.5kg
<今回使用したレファレンス機器>
スピーカーシステム KEF 「R3 Meta」
カートリッジ audio-technica 「AT-VM95SH」
フォノイコライザー Phasemation 「EA-220」