愛猫に歯磨きをしようとしても嫌がられる……そもそも歯磨きは必要? 良い方法は他にはないのか? など猫のデンタルケアについて悩んでいる人も多いのではないでしょうか。猫の歯磨きが必要な理由から多様化するデンタルケアまで、著書『獣医さん、聞きづらい「猫」のことぜんぶ教えてください!』(日東書院本社)より、宮下ひろこ氏が解説します。
全身疾患につながる口腔内の病気
犬や猫のデンタルケアは、近年重視されるようになりました。
歯が痛い、モノが食べられないというだけでなく、歯周病が全身疾患につながることがわかってきていることから、飼い主さんの意識も高まり、歯みがきにチャレンジする人が増えてきています。必要か不要かと聞かれたら、やはり必要だと答えたくなりますね。
とはいえ、猫の歯みがきに苦労している人は多いようです。
うちの猫は子猫のときから慣れさせようと、耳や顔などマッサージして喜ぶことをしながら少しずつトライしましたが、やはり口を触られることが好きではありません。歯みがき用のジェルも顔から50㎝くらい近づけただけで、目を細めて逃げてしまいます。そういう猫さん、少なくないと思います。
一方で、歯みがき大好きで歯ブラシもジェルも大丈夫、とても喜んでやらせてくれる、という猫さんもいます。
子猫のときから無理をせず、少しずつチャレンジして気長に続けていきましょう。
歯ブラシはハードルが高いので、いきなりは避けてください。歯みがき専用のシートや、使いやすいサイズの布や手袋を水で濡らして使うほうが簡単で続けやすいでしょう。
初めは口の周りをなでたり、唇をめくってみたり、触らせることに十分に慣れさせてから、段階的に行いましょう。強く嫌がる場合、おやつなど、ご褒美をあげながらするのもいいですね。
猫は約7日で歯垢が歯石に変化
歯ブラシは、グルーミングのように顔周りをマッサージしながら慣れさせるという手もあります。
歯みがきは毎日できればよいですが、大変なときは1週間に1〜2回くらいのペースで行いましょう。
猫は約7日で歯垢が歯石に変化します。歯石になると通常のお手入れでは取りづらくなるので、できるだけその前に行いましょう。
すべての歯が難しい場合、歯石や歯垢がたまりやすい奥の臼歯だけでもケアできるとよいですね。
[図表1]歯磨きのやり方 出所:『獣医さん、聞きづらい「猫」のことぜんぶ教えてください!』(日東書院本社)より抜粋 イラスト:たまゑ
健康のためにも実践したい歯みがき多彩なアイテムを活用しよう
歯みがきおやつや、歯みがきおもちゃを使ってみる
とはいえ、歯みがきが苦手な猫にはどうしたらよいでしょうか?
口の中に食べ物が残ると口腔内の環境が悪くなるので、やわらかいパウチのごはんよりも、カリカリのドライフードのほうが食べかすが残らずおすすめです。
歯みがきおやつを与えたり、布製の嚙めるおもちゃを使ってみるのもよいでしょう。ただ、決まった歯だけを使うので歯みがき効果はそう高くありません。
歯みがきおやつはサイズや形状によっては、丸飲みしてしまい、食道に詰まってしまう危険があるので注意が必要です。丸飲みしてしまっては、それこそデンタルケアとしての効果はゼロ。
棒状のものや大きなサイズのものは、小さいサイズに嚙み切れるように手に持ってサポートしてあげてください。またすでに歯が悪くなっている場合、かたいおやつは逆効果なので要注意。
歯周病が悪化している場合は獣医師に相談を
歯みがきは子猫のうちから、あるいは歯が健康なうちから始めるにはよいですが、すでに歯周病が悪化している場合、刺激を与えると痛いことがあり、食欲不振にもつながるのでやみくもに進めるのはやめましょう。
例えば口周りを触るのを嫌がる、口臭がひどい、歯が茶色っぽく変色している、歯茎が赤く腫れているような場合は歯周炎や口内炎がある可能性が高いので早めに獣医師に相談してください。
歯石除去をしたほうが口腔内の細菌の増殖を抑えられ、残っている歯を守ることができます。
抜歯という選択肢
歯槽膿漏となり、歯の根っこの部分がグラグラしているような重度の場合は、抜歯を勧められることもあると思います。
歯を抜くのはかわいそうに感じる人がいるかもしれませんが、猫は嚙んで食べるよりも飲み込んで食べる動物です。残しておくことで口腔内の炎症が広がり、あごの骨にまで影響を与えて骨折してしまうということにもなりかねません。全抜歯による生活への支障はほとんどないといわれ、むしろごはんをもりもり食べるようになったなど、よい話のほうを耳にします。
ただし、歯石除去や抜歯は全身麻酔となり、そのための事前検査も必要になります。腎臓や肝臓に疾患があるとリスクが高まるため、事前検査から行ってくれる病院での処置をおすすめします。
デンタルケアサプリも多彩なタイプが登場
最近多くのメーカーが口腔内の環境改善が期待できるデンタルサプリメント(口腔内善玉菌やラクトフェリン)を発売しています。
嗜好性が高く、猫にも与えやすいようで、一定の効果が報告されているものもあります。サプリメントなので長期的に使用しないと効果は実感できないかもしれませんが、補助的に使ってみてください。
デンタルケアを続けることで、心臓や腎臓、肝臓など、ほかの病気も予防できます。日々のデンタルケアで猫さんに長生きしてもらいましょう。
【この記事のポイント】
多様なデンタルケアが存在する中で愛猫に合ったデンタルケアの選択を
宮下 ひろこ
獣医師/動物病院専任カウンセラー