芦屋の高級精肉店にできる長い行列の理由とは? 牛肉が大好きな市民のこだわり

あしや竹園 あしや竹園の店内に座って待つ人々の姿が見える

国内屈指の高級住宅街として知られる兵庫県芦屋市。歴史・文化豊かで、上質なものとの関わりが深い一方、意外な横顔も存在するといいます。そんな芦屋の最新トピックを、芦屋でフリーペーパーや地域情報サイトを手がける『芦屋人(あしやびと)』のスタッフが紹介します。

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今回は、老舗精肉店や牛肉加工品取り扱い店が芦屋市民に長く愛されていることに注目。精肉店に並ぶ人の列がどうしても長くなる、“芦屋らしい理由”も取材しました。

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プロ野球・読売ジャイアンツが甲子園遠征時の定宿としていることで有名な「ホテル竹園」は、1946(昭和21)年に創業した、78年の歴史がある精肉店が始まりです。その精肉店「あしや竹園」の今年2月の特売日には、芦屋市の開催している、キャッシュレス決済でポイントが戻ってくるキャンペーンもあり、たくさんの方が列を作っていました。

毎年10月の創業祭にはさらに長い大行列ができます。およその待ち時間が2時間なんてことも。芦屋の人には当たり前の見慣れた光景となっていますが、なぜこれほどまでの大行列になるのか、ふと疑問に感じました。

そこで常連の方に聞くと、「皆さん塊で買って、好みのサイズや枚数にカットしてもらうから」との答えが返ってきました。

例えば部位で注文する時に、同じロースでも「脂身の少ない部分を」「やわらかい部分がいい」などの好みを伝えたり、カットする厚みを指定したり。また、ステーキ・焼き肉など用途を伝えて、お店おすすめの“おいしく食べられる厚み”に切ってもらうのだそう。

「家族が誕生日だから、竹園さんにお肉買いにきたわ」「家族が集まってるから、今日は竹園のお肉」というような話を聞くことも度々あります。創業祭ともなると、そんな竹園のファンが、いつもよりもお買い得なお肉を買うために並び、個々に注文した形で仕上がるのを待っている行列……ということでした。

牛肉へのこだわりが強い芦屋の方にお話を聞いてみました。

JR芦屋駅近くにある美容室のオーナースタイリストは、「しばらく牛肉を食べないと体調がおかしくなる!」と言うほどのお肉好き。「赤身のお肉は絶対竹園さん! それ以外の部位はいかりスーパー(高級とされるスーパー。阪神間を中心に展開)で。ニード牧場さんも結構いい」とこだわりを熱く語られました。

また、芦屋人ライターの友人Aさんのご主人は、常日頃「いかりスーパーのお肉しか食べない」というこだわりよう。Aさんが、いかりスーパーまで行く時間がなく近場のスーパーの上質なお肉を夕食に出したところ、「これどこで買ったの?」と怪訝な顔をされてしまったそう。なぜか聞くと「脂身が全然違うから」と、本当に気づかれてしまったとのことでした。

もう一軒、阪急沿線に「芦屋軒」という大正末期創業の精肉店があります。現在は牛肉加工品を軸に展開されており、開店前から同店名物の「牛肉佃煮」目当ての列ができています。

この佃煮は、やわらかい食感とお肉の旨味、生姜の風味と甘辛さでごはんが進むおいしさです。厳選したお肉を丁寧に仕込んで手炊きしていることから大量生産が難しく、週の前半に仕込みをして、週末だけ販売しています。完売前に確実に欲しい方が開店前から並んでいるんですね。

小川洋子氏の小説で、昭和40年代の芦屋を舞台にした「ミーナの行進」という作品にも、主人公の少女がお使いで進物用の佃煮を買いに行く場面が書かれていますし、昔から芦屋に住まれている方に聞くと「芦屋のご進物なら芦屋軒の佃煮」と答えるほど、自信をもっておすすめできる良いものとして認識されています。

以前、新神戸駅で開催された兵庫県の物産展をお手伝いしたことがあるのですが、上品な高齢のご婦人が芦屋軒の牛肉佃煮を見て「子供の頃芦屋に住んでいたんです。よくいただいたので、本当に懐かしい」と涙ぐんで購入していかれたこともありました。

なぜこんなに列を作るほど牛肉にこだわりがあるのか? 竹園や芦屋軒が大正末期、あるいは昭和の戦後から親しまれていることからもわかるように、芦屋の人は気に入ったお店を長く愛用する傾向があります。但馬牛・神戸牛をはじめとした品質のいい牛肉を買うことができる精肉店が地元に根付き、「ここのおいしさは間違いない」と言える良いものにはお金と時間を使うことを厭わないのではないかと感じました。

見慣れた行列からも、芦屋らしさを垣間見ることができたように思います。

(取材・文 = 株式会社芦屋人 杉本せつこ)

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