社会人放送作家・近江路快速「back numberきっかけでハガキ職人へ」

現在はradikoの普及もあり、以前より幅広い層に聴かれるようになったラジオ。そのラジオに欠かせないのがハガキ職人(現在はメール職人と呼ばれることも多い)の存在だ。その日のテーマやコーナーに合った投稿を続ける「ハガキ職人」。同じラジオネームを何度も聞いたり、違う番組で同じラジオネームを聞いて驚いた経験が、ラジオ好きであれば一度はあると思う。

そんなハガキ職人の生態や現在に迫る「Radio Holic~ラジオとハガキ職人~」。今回は、会社員として働きながら、作家や制作としてラジオに携わる近江路快速(オウミジカイソク)さんにインタビューした。

ラジオの仕事は「運と巡り合わせとタイミング」

――現在のラジオとの関わりを教えてください。

近江路:大学時代までは関西にいて、2022年の4月に上京してきました。現在は会社員として働きながら、プラスアルファで、ラジオの制作にも携わっています。

――それはいつごろですか?

近江路:昔からラジオにメールを送っていて、“ラジオの仕事ができたらいいな”と思っていました。大学時代、ネットラジオアプリ「GERA」のプロダクトオーナー・恩田貴大さんが、GERAを立ち上げるタイミングで、noteに「ハガキ職人と一緒に番組を作りたい」と書いていらっしゃったのを見て、DMを送ったのがきっかけです。

GERAのお手伝いをするなかで、ちょうどコロナ禍になって、リモートでする仕事も増えて、5番組を編集するようになって……と手伝っているうちに、『ヤマトパンクスの銀河巡礼概論』を担当することになり、そこから続いています。

――どんな番組を担当されているんですか?

近江路:『ヤマトパンクスの銀河巡礼概論』のほかに、Podcast番組の『にぼしいわしのアクウカクウカン』『既成人労働実録』『リップグリップの出典』『ガングリオンの灰になるまで』を担当しています。

――ラジオ制作に実際に携わってみていかがですか?

近江路:今のところ、私が関わっている番組の場合、芸人さん・出演者の方と一対一の関係でやっているので、ほぼ縛りもないし、自分が“こうなったら面白いな”と思うことを、そのまま実現できているので、すごく楽しいです。

――作家やラジオ制作の仕事だけをしようとは考えなかったんでしょうか。

近江路:最終的には、放送作家なのか、ラジオ局員なのか……ラジオの仕事だけで生活できるようになればいいと思うのですが、不安定な環境に身を置くのも不安だし、自分には向いてないと思ったので、まずは兼任でやろうと。

――ハガキ職人には、業界に入りたいと思っている方が多いと思います。ダブルワークでラジオに携わろうと考えている方にアドバイスをいただけますか?

近江路:「本当にそれでいいの? 忙しいよ?」と、一度、自分に問いかけてほしいです。それでも、やれる「元気」と「活力」がある方ができるのかなと。ラジオの仕事は、運と巡り合わせとタイミングでできるものだとは思います。

ラジオ作家に必要なのは面白さよりコミュ力

――作家さんになりたい人も多いと思いますが、ラジオ作家をやるうえで、大事なことってなんだと思いますか?

近江路:面白いことよりも、コミュニケーション能力のほうが大事ですね。面白いことを思いついても、それを伝える能力が大事というか。あと、ラジオってアイデア出しよりも、円滑に場を進めることを求められることが多いので、そのあたりも意識したほうがいいと思います。

――コミュニケーション能力が大事なんですね。

近江路:もし、“自分自身が面白い”と思っているんだったら、芸人さんや、『オモコロ』などのネット系のライターとか、面白いものを作る人になったほうがいいのかもしれませんね。

――作家にこだわらず、違うアプローチもあると。

近江路:「自分がやりたいことって本当に作家なのか?」と問いかけてほしいです。もちろん、作家もできるんですけど、それだけじゃないと思いますね。

――ラジオの仕事で忘れられない出来事を教えてください。

近江路:録音の音声トラブルで、3本撮り直しをしなきゃいけないことがあって……。ありえないことなのに、演者さんもマネージャーさんも付き合ってくれたんですよ。そのとき「みんなイヤだけど、これまで熱心に向き合ってくれていたから、付き合ってくれているんだよ」と言ってくださって。

ラジオって、お金になるとか、めっちゃバズるものでもないので、熱意をぶつけて、愛を持って番組に取り組むことが大事だなと思いました。

片道40分の電車の中でネタを書いていた

――ここからは、近江路さんとラジオとの出合いを教えてください。どういった経緯でラジオを聴くようになったのでしょうか?

近江路:中学校1年生のとき、親と外食に行った帰りに、たまたま『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』が流れたんですよ。当時、トップリードさんが、『キングオブコント』で2回目の最下位になったときで。「めちゃくちゃ悪口言ってる!」「こんなこと言っていいんだ!?」と感銘を受けて、それからラジオを聴く生活に変わりました。

――投稿を始めたきっかけは?

近江路:高校2年のとき、有吉さんのラジオと、その流れで『アルコ&ピースのオールナイトニッポンシリーズ』、あとは、back numberさんが好きだったので、群馬県太田市のコミュニティFMでやっていた『back numberのpizza small world!!』(FMTARO)、『back numberのオールナイトニッポン』などを聴いていて、ハガキ職人さんたちが面白いし、いつか送ってみたいなと思っていました。

そんななかで、ふと、back numberのオールナイトニッポン(以下、ANN)のネタコーナーに送ったら、その日の一番良かったメールみたいなのに選ばれて、サイン入りのノベルティまでもらえて……「こんなことあるんだ!」と、そのままハマった感じです。

中学からは、地元の滋賀県から京都の学校に行っていたので、片道40分の電車の中で、ネタメールを書いていたこともありました。

――どんな番組にネタメールを送っていたんですか?

近江路:どんどん聴く番組も増えていって、送っていたのは『アルコ&ピース D.C.GARAGE』『うしろシティ 星のギガボディ』『ハライチのターン!』『山里亮太の不毛な議論』『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』『霜降り明星のオールナイトニッポン0(ZERO)』『三四郎のオールナイトニッポン0(ZERO)』『霜降り明星のだましうち!』『ダイアンのよなよな…』『ミルクボーイの煩悩の塊』『#むかいの喋り方』……。

どこかの番組でメインで読まれるとかではなく、満遍なくという感じですし、自分は「ハガキ職人です!」とは言えないレベルだと思います。あと、ネタで読まれていたと言うよりも、リアクションで読まれるほうが多かったですね。

――どのくらいのペースで送っていたんですか?

近江路:一番送っていた高3から大学1回生の時期は、 聴いている番組が10〜15番組、送れそうなコーナーに5通セットで送っていくみたいな。それだと週100とかになるんですかね。

――すごいですね(笑)。投稿したネタについて、パーソナリティーに言われてうれしかったことは?

近江路:いろいろありますけど、back numberのANNで「いつも聞いてる名前だよね」と初めて言われたこと。それと最終回に長文のコーナーで読んでくれて、120分のうち、自分のために2分くらい使ってくれたのは、良い思い出だし、頑張って良かったなと思いました。

――ネタメールを送るなかで、どんなこだわりがありましたか?

近江路:改行と句点をちゃんとする。「読みづらいな」と思ったものに関しては、1回立ち止まってみる、というのはやっていました。序盤で、自分のラジオネームも読みづらいと気づいて、ずっとかぎかっこで読みを書いていました。

面白い人がきちんと報われる世界を作りたい

――長らくラジオを聴いているなかで、一番心に残っている番組を教えてください。

近江路:アルピーさんのラジオシリーズですかね。アルピーのANNにはメールを送れていなくて、それは自分の中で後悔していることでもあるんですよ。あの番組は、地上波ラジオでしかできないことをやっていたイメージがあるんです。ある種、(ラジオのベーシックな)近況トークという「現実の話」じゃなくて、完全にフィクションで面白いことを生放送の「ラジオ」でやって、リスナーを巻き込む……という面白さに、自分の人生を狂わされたなと思います。

――たしかに! 私もリスナーでメールも送っていましたが、いい意味で狂わされた人は多いでしょうね(笑)。

近江路:自分が担当している『にぼしいわしのアクウカクウカン』は、亜空間をテーマにメールを送ってもらっていて、それを軸に膨らませていくんですが、完全に(アルピーANNの)影響を受けていますね。もちろん、“にぼしいわしさんだから”みたいな必然性は用意するんですけど、自分はそういうカタチが好きですね。

――最後に、今後のお仕事についての野望を聞かせください。

近江路:3つあって。1つは、芸人さんでも、バンドマンでも、インフルエンサーでもいいんですけど、ラジオをやりたい人が、“良いラジオ”を毎週できる環境を作りたいです。

芸人さんでも、更新が不定期だったり、音質がありえないぐらい悪かったり、構成が雑とかあるんですよ。そのあたりを、自分でもいいですし、誰かが入って、良いラジオにして、ちゃんとファンの人に届けるカタチにしたいです。

2つめは、ラジオにメールを送っている人で、作家志望なのにうまくいっていない人もいると思うんです。たまたま自分がこういう立ち位置に来られたんで、少しだけでも作家志望のハガキ職人の手助けができるようにしたいです。面白い人が、ちゃんと報われる世界にしたいんですよね。

最後に、自分の野望としては、ラジオも含めて、自分のやりたい仕事で生活できるようになりたいです。なので、何かお仕事があればご連絡ください(笑)。

(取材:浜瀬 将樹)


プロフィール

近江路快速(おうみじかいそく)

1999年滋賀県東近江市生まれ。京都大学経済学部在学中に、ネットラジオアプリGERAにて番組制作を担当。その後、社会人として働く傍ら、お笑い芸人・バンドマンなどのPodcast番組制作を手掛けている。X(旧Twitter):@oumizikaisoku

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