【米大統領選2024】 ヘイリー氏に投票した人たち、トランプ氏とバイデン氏のどちらを支持するのか

ホリー・ホンデリッチ、米首都ワシントン

ニッキー・ヘイリー氏が、ホワイトハウスを目指した選挙運動を終了させた。それを発表した際には、最後の数週間でそうしてきたように、共和党のライバルに向けて警告を発した。

「ドナルド・トランプが、彼を支持しなかった党内外の人々の票を獲得できるかは、彼次第だ」。ヘイリー氏はそう言うと、少し間を置いて、「彼がそれをできることを願っている」と続けた。

ヘイリー氏の撤退で、11月の大統領選挙はほぼ間違いなく、トランプ前大統領と民主党の現職ジョー・バイデン大統領の対決という、4年前の再現となる。

そしていま、大統領選の行方に大きな影響を与える問題として浮上しているのが、ヘイリー氏に投票した人々の動向だ。

サウスカロライナ州知事を務めたヘイリー氏は、反トランプ氏の共和党員や無党派層を連合体としてまとめてきたが、トランプ氏の進撃を止めるにはあまりに弱小だった。トランプ氏は5日のスーパーチューズデーで大勝し、共和党の候補者指名を事実上、確実にした。

しかし、その連合体――穏健、大卒、郊外居住の有権者らが交じる、ヘイリー氏の予備選2勝に貢献した人々――こそが、今や大きな力を握っている。過去の結果から、こうした集団が選挙で影響力をもつことは証明されている。そして今回の大統領選でも鍵を握る存在になると、専門家らはみている。

「この選挙を決定づけるのはそれらの人々だ」と、共和党で戦略を立案するケヴィン・マッデン氏は話す。

このことは、トランプ氏もバイデン氏も分かっている。ヘイリー氏が6日に撤退を表明すると、双方はすぐに声明を発表。内容は大きく異なるものの、ともに自己アピールに努めた。

バイデン氏はヘイリー氏を祝福し、彼女の支持者に直接語りかけた。「私の選挙戦にこそ居場所がある」とし、共通の価値感を強調した。一方のトランプ氏は、ヘイリー氏にはまったく譲歩しなかったが、同氏に投票した人々に向けて、「わが国の歴史上最も偉大な運動に加わる」よう呼びかけた。

専門家らは、ヘイリー氏に投票した人々は大まかに3分類できると言う。「トランプ氏を決して支持しない人たち」、「無党派の人たち」、「共和党に忠誠を誓う人たち」だ。

最初の集団の方向性は、他に比べてはっきりしている。トランプ氏から遠く離れていく、というものだ。

選挙戦のさなかにこれらの人々に話を聞いたところ、ヘイリー氏を支持するのはトランプ氏に対する拒絶でしかないと、多くが説明した。

「トランプは共和党の『がん』だ」。サウスカロライナ州でヘイリー氏を支持したホルト・モラン氏は、そう話した。同氏は2016年にトランプ氏が共和党の大統領候補に指名された際に、党を離れたという。「彼はこの国にとっての災難でしかない」。

こうした人々の多くは選挙戦で、ヘイリー氏についてはほとんど語らなかった。その代わり、トランプ氏の増え続ける法廷闘争や、2021年の連邦議会襲撃事件、そして同氏の「民主主義への軽視」を話題にした。

ヘイリー氏がトランプ氏に勝てると思っていた人はほとんどいなかったが、それでもとにかく彼女に投票した。これは真の反対票であり、敵意の根深さをうかがわせると、専門家らは指摘する。

こうした投票があったことは、民主党をいくらか楽観的にさせる。

民主党の戦略担当のベテラン、サイモン・ローゼンバーグ氏は、ヘイリー氏に投票した人の「大部分」が、バイデン氏への投票を拒まないとしていることが、すでに予備選があった州での世論調査で示されていると説明。例えばノースカロライナ州では、ヘイリー氏に投票した人のうち、「誰が候補者だろうと」共和党候補に票を投じると答えたのは21%にとどまったとした。

「これは(共和党にとって)真っ赤な警告サインだ」とローゼンバーグ氏は言う。「共和党は分裂していて、(中略)ヘイリーはその分裂がまっとうで深刻なことを知らしめている」。

しかし今のところ、トランプ氏とその仲間たちは、ヘイリー氏に投票した人々を取り込むために真剣に努力する考えはないようだ。反対に、演説やインタビューでは、ヘイリー氏への個人攻撃を強めている。

同氏が撤退を表明した後でさえ、トランプ氏は和解の姿勢を示さなかった。声明でヘイリー氏の反対をあざ笑い、「記録的な大敗を喫した」と述べた。その後にようやく、ヘイリー氏支持者らに向かって、トランプ氏の下で団結するよう、熱意の無い呼びかけをした。

ローゼンバーグ氏は、これは政治的に「純粋におろかなことだ」と評した。「共和党は、党として完全に一つにならずに選挙で勝てるわけない」。

一方、ヘイリー氏を支持する共和党員の間に見られるトランプ氏への嫌悪が、11月の本選挙で必ずしもバイデン氏の票につながるわけではないと警告する専門家らもいる。党派性はそう簡単に崩れるものではないとする見方だ。

「そうしたことは普通ではない」と、民主党の戦略担当、ケイト・メイダー氏は言う。「現在の政治は極端に分派していて、まだ説得が可能な中間層はかなり少数だ」。

このことは、主要政党内の過去の対立にも見て取れる。完全に離反する人はまれだ。

2008年の民主党の大統領候補指名争いで、ヒラリー・クリントン氏がバラク・オバマ氏に負けを認めた直後、彼女の支持者の3分の1近くが、共和党のジョン・マケイン氏に投票すると答えた。しかし本選挙までには、82%がオバマ氏に投票した。

ヘイリー氏はトランプ氏への攻撃をより厳しく、個人的なものにしていったが、それでもトランプ氏よりバイデン氏の方が危険だとする路線は保ち続けた。そうすることで、誰が候補者になろうと自分は共和党に忠誠心があると言えるようにしていた。

共和党のアナリスト、ウィット・エアーズ氏は、バイデン氏の政治的な弱さも一定の役割を果たすだろうと話す。

「ヘイリーに投票した人の多くはバイデンも望んでいない」と同氏は言い、バイデン氏の支持率の低さと、純粋に高齢過ぎるという有権者の懸念の高まりを指摘する。

ヘイリー氏に票を投じた多くの人たちも、ここ数カ月の取材で同じことを口にした。みんなトランプ氏から離れて先に進みたいと思っているが、バイデン氏に投票することは想像できないと言った。バイデン氏について、国境問題では弱腰で、経済を悪化させると考えていた。

「これまで何年も、2人の邪悪な候補のうちの、害の少ない方への投票を迫られてきた」。一生を通した共和党員で、ヘイリー氏を支持するティム・ファーガソン氏はそう話した。

ファーガソン氏は、「バイデンには投票できない」、「またトランプ氏に投票するつもりだが、前回よりいい気分にはなれないだろう」と述べた。

ファーガソン氏の持つ残念な思いは、広がりを見せている。

調査会社「モーニング・コンサルト」が2月に実施した世論調査では、アメリカの有権者の19%が、トランプ氏にもバイデン氏にも不満をもつ「ダブル・ヘイター」だとの結果が出た。アナリストらは、こうした無関心によって、多くの有権者が投票しなくなるのではないかとみている。

前出の共和党の戦略担当のマッデン氏は、「これは誰も望んでいなかった対決だ」、「より大きなリスクは、有権者が家にとどまることだ」と話した。

米経済の変化、ウクライナとガザ情勢の進展、トランプ氏またはバイデン氏による失言――。そうしたことが簡単に、無党派層の投票先を変えうる。さらに、トランプ氏が多くの裁判を抱えていることも、見通しをいっそう複雑化させている。世論調査では、トランプ氏が4件の刑事裁判の1件でも有罪とされた場合、共和党有権者の一部から見放されることが示されている。

インディアナ州の共和党員のジム・サリヴァン氏は、党派を超えてバイデン氏支持に回ることはないと話す一方で、まだ決めかねていると述べた。真の「ダブル・ヘイター」の彼は、トランプ氏のことも好きではないが、他に選択肢はないと考えている。「その現実と格闘中だ」。

バイデン氏とトランプ氏の再対決まであと8カ月となった。専門家らは、サリヴァン氏のような有権者がどこに落ち着くのか、はっきりと把握するには早過ぎるという見方で一致している。

共和党のマデン氏は、「すべての質問に対する本当の答えは、今回は本当に接戦になり、まだ分からないということだ」と話した。

(英語記事 Trump or Biden: Who will Nikki Haley's supporters back in November election?

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