【おんなの目】縫・雨・月

 暖かくなりましたね。窓を開け放っていると春の風が部屋に入って、置いてあったファッション雑誌をめくります。風が開いたのは手芸の頁で「縫う」の文字が大きく見えます。私は不器用で裁縫はできませんから、自分の好きな洋服や小物を縫える人は、私には神で、とても羨ましくてたまりません。

 「縫」という字をじっと見ていると、糸と逢うとでできています。糸が逢うを引き寄せて離れないようにくっつける。縫う。少年と少女を、太郎と花子を赤い糸でかがる。

 縫は艶やかな文字です。少し背を曲げ、運針する人はとても美しい。

 窓から吹いてくる風に雨粒が混じってきました。さっきまで気持ち良く晴れていたのに、「縫」という文字が濡れて滲みます。

 雨という字も興味をそそります。漢和辞典には“雨とは、水の天より下るなり”とあります。雫になって天から落ちてきます。その天には夜になると月が輝きます。月には餅を搗(つ)く兎がいるのです。

 先日、月探査機「SLIM」が月に着陸しました。目的の一つに月面開発があるそうですが、地球と同じように各国による月の希少鉱物等の争奪戦が始まらないことを願っています。兎の餅つきの邪魔をしてはいけません。雨の雫が濁りませんように。

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