2024年2月下旬、ホンダのハイブリッドシステム「e:HEV」の進化を見て、聞いて、走って体験できる「ホンダ スポーツ e:HEV テクニカル ワークショップ」が開催されました。さらにそこでは3月7日に発表した新型アコードのクローズドコース先行試乗が行われました。先代モデルの比較試乗を通して感じた「e:HEV」の進化と魅力を、モータージャーナリストの飯田裕子氏がレポートします。
トヨタ「THS」や日産「e-POWER」との違いは「発電と直結の両立」
まずはじめにホンダはCN(カーボンニュートラル)、交通事故ゼロの実現に向け、喫緊の課題としてパワーユニットのCN化、エネルギーマネージメント、リソースサーキュレーション、AD(自動運転)/ADAS(高度運転支援システム)、IoT(Internet of Things)コネクテッドの5つをキーファクターとしている。
その中でもCN化に向けたパワートレーンの開発の中心にあるのがホンダの走りのコア技術であり、新型アコードにも搭載されるハイブリッドシステム「e:HEV」となる。まずはホンダ2モーターハイブリッドシステムの他社の2モーターを採用するシステムとの違いについて触れておきたい。
「e:HEV」はモーターとエンジンをドライブシーンに応じて自動で切り換えて走行できるのが大きな特徴で、「EVドライブ」、「ハイブリッドドライブ」、「エンジンドライブ」という3つの「走り方」が存在する。「EVドライブ」と「ハイブリッドドライブ」では駆動がモーターによって行われ、この場合エンジンは発電用として作動する。それで蓄えられた電気から走行用モーターを駆動するというものだ。
一方「エンジンドライブ」では、エンジンが得意な中高速のクルーズ領域においてクラッチを直結(エンジンと駆動を直結)させる。これこそ「e:HEV」の独自技術であり、高い車速域での燃費損失をミニマル化することができ、どの走行シーンにおいても燃費を高めることができるのがポイントだ。
トヨタのハイブリッドシステム「THS」が採用する「シリーズ・パラレル方式」は、複雑な動力分割機構によりエンジンと走行モーターの割合を状況に応じて切り替えて走行する。
目線としては「e:HEV」と似ているが、このハイブリッドシステムはあくまでエンジンが主体であり、モーターがそれをアシストするという役割。そのためEV走行を除けば、常にエンジンが駆動に携わっているという違いがある。
また日産の「e-Power」が採用する「シリーズ方式」はエンジンの動力はタイヤに伝えず、エネルギーはすべて電力に変換され、走行用モーターでタイヤを駆動させるというもの。すなわちエンジンは発電を行うことに徹しており、そこで蓄えられた電気を使い駆動用モーターで走行するというシンプルなシステムだ。
高負荷運転時や高速走行では多くの電力を使うため、発電用のエンジンに高負荷がかかってしまい、燃費が悪化する傾向にあることは否めない。この点ホンダの「e:HEV」は高速領域でのエンジン直結クラッチを装備しているという違いがある。これによりエンジンとモーターそれぞれの効率の良い領域で走行できるため、省燃費に寄与している。
実燃費とドライバビリティの向上のために新たに開発したパワートレーン
ホンダの「e:HEV」はボディサイズなどによってエンジン排気量や構造が異なるが、新型アコードは新技術を搭載したシステムが採用されているのが特徴だ。
まずエンジンはシビックe:HEVから採用された2L直噴アトキンソンサイクルDOHCエンジンをベースに、最高出力を6ps向上させて147psを実現した。ちなみに最大トルクはシビック同様182Nmとなる。
そして注目なのが、今回初採用された新開発の「平行軸配置2モーター内蔵電気式CVT」である。これはモーターのトルク向上やギヤ構造の見直しによってシステムの全長が拡大することを抑えるため、駆動用・発電モーターを「平行」に配置する新しいユニット。この採用によって駆動用モーターは最大トルクが向上して335Nmを実現し、最高速度も併せてアップした。
さらにパワーコントロールユニット(PCU)は出力を向上しながら従来比で40%もの小型化に成功しており、インテリジェントパワーユニット(IPU)はエネルギー密度を28%向上し、使用容量が拡大しつつ小型・軽量化をしている。
この新開発したパワートレーンを採用した目的は、ずばり実燃費アップとドライバビリティの向上だ。
エンジンは燃料消費率が30%低減されつつ高トルクを生み出す領域が広がったため、これまで以上の力強い加速を実現しながら燃費悪化を防ぐことができ、実燃費の向上が見込まれるという。
またドライバビリティの向上については、従来モデルはもっと加速したいという場合はエンジンのラバーバンドフィールが発生してしまう傾向にあった。けれど新型はエンジンの燃費の良い領域が低回転まで広がったことで低回転から高回転へと加速Gに合わせてリニアにエンジントルクがコントロールできるようになった。
これによりシームレスな加速感が格段に向上し、加えて静粛性や細かなノイズが抑えることができたという。
そのほか走行に関わる進化を挙げると、シーンに応じて手元操作で自在に減速度をコントロールできる減速セレクターが従来の4段から6段に増え、最大減速度を高められている。ちなみにその減速度はブレーキランプが自動点灯するほど強い。
またモーションマネージメントシステムを搭載。コーナリング中にステアリング操作に応じ、パワートレインとブレーキを統合的に制御システムで車両のピッチングを利用し、前輪荷重が増加することでフロントタイヤのグリップ力を高め旋回性能が向上したという。
新旧アコードを乗り比べして「e:HEV」の進化を体感!まずは先代モデルから
といったように、大幅に進化を遂げた新型アコード。その進化ぶりを確かめるべく新旧アコードをクローズドコースで走った。
まずは先代モデルのアコードを試乗した。正直に言って、先代モデルでも動力に不満はなく、乗り心地もドライブフィールも滑らかで、上級セダンとしての雰囲気に合っている。それにコーナリング姿勢はFFとは思えぬほどよく曲がり安定もしている。
ただし走り出しからモーター駆動を基本とする「e:HEV」ゆえ静粛性も高いと思ったのだが、エンジンが作動する場面では音や振動が気にならないわけではない。80km/h付近の車速域におけるアクセルペダルの踏み足しではブオーン、ブオーンと唸るようなエンジン音と振動があり、コーナリング時はそれが頻発してとても気になった。
けれど総合的には先代アコードでもおおむね満足といえる仕上がりだった。今回は高速道路での試乗が叶わずエンジン直結モードが試せなかったけれど、EVドライブモード、ハイブリッドドライブモードの緻密な制御はこれでも十分、音や振動を除きスムーズさも欠く印象はなかった。新型ではこれ以上の進化ってどうなるのか?と想像ができなかったほどだ。
新型アコードは「進化というより変化」した乗り味が特徴
新型アコードに乗り換えたとたん、軽快さがまず第一印象に残った。スッキリとした乗車感覚は先代モデルから「進化というより変化」として感じられた。
発進加速の力強さは数値を意識せずとも体感でき、そのまま加速を続けてもシームレスに伸びていく。加速時の振る舞いは、先代モデルで感じられたエンジンのラバーバンドフィールはなくなり、エンジン音の存在感はごくわずかで静粛性が高まっている印象だった。
一方でドライブモードを「スポーツ」に切り替えると音が「心地よいサウンド」として走行に加わり、エモーショナルさが増すという二面性を楽しむことができた。
またステアリングホイールに備わる減速パドルは最大減速度が高められたおかげで、長い下り坂やワインディングロードなどで右足をアクセルペダルに置いたままワンペダルドライブでキビキビとしたドライブができた。
ちなみにマイナスパドルを長引きするか、または「スポーツモード」では減速段を固定できるようになったこともポイントだ。
新型アコードは「e:HEV」の大幅な進化に加えて、巧みな姿勢制御やアダプティブダンパーの採用、減速パドルを最大限に活かしたワンペダルドライブ、エンジンサウンドの効果的な活用により軽快な印象が増して、ボディサイズを忘れるスポーティなドライバビリティを実現していた。ハンドリングの一体感と高いレスポンスは市街地の扱いやすさはもちろん、スポーティな印象も強まった。そしてこれに加えて環境性能がさらに高まっているというからスゴい。
セダンモデルの品格を改めて味わいたいモデルへと進化しているのは間違いない。今度は一般道路で試乗を確かめて、追ってその印象をご報告したいと思う。(文・飯田裕子)
モーターマガジンは「e:HEVドライブチャレンジ」で1位を獲得!
今回行われたワークショップではメディア対抗で「e:HEVドライブチャレンジ」も開催されました。この企画は「e:HEV」を搭載するZR-Vを運転して規定の公道ルートを走行し、道中での「EV走行率」と「エンジン直結走行率」の高さを参加した媒体で競うというものです。
モーターマガジンでは飯田裕子氏を招いて本チャレンジに参加。その結果、全11媒体のうち「EV走行率」の部門で1位を獲得することができました。ちなみに2023年に開催された「日本・カー・オブ・ザ・イヤー2023」の選考委員を務めた飯田氏は「ホンダ ZR-V」に最高得点となる10点を入れていることもあり、そのZR-Vの走りの良さを高く評価しています。
今回の勝因を飯田氏に尋ねると「e:HEVは普通にドライブしていてもEV走行を頻繁にしてくれます。なので特に意識せずに、アクセルペダルのオンオフを緩やかにして道路を先読みをするという、いわゆるエコドライブを心がけただけです。けれどたったそれだけで、こんなにEV走行できるe:HEVは改めてスゴいと思いました」とコメント。
改めて「e:HEV」の魅力を大いに体感することができたという飯田氏は、新型アコードの走りも高く評価していました。今後も公道試乗や後部座席の印象など、飯田氏とともに新型アコードの魅力を随時お伝えしていきます。