空から見るニッポン。ただいま、静岡県宝永山の上空です!

富士山山頂から南東側にぽっかり大きく開いた巨大な火口は、宝永噴火(1707年)の跡だ。直径約1200m、深さ約400m。噴出した火山礫や火山灰などの噴出物は当時、江戸や房総半島にまで降り注いだという。この火口の下側にそびえているのが宝永山(標高2693m)だ。

火口の景色は別の惑星のよう

モーターパラグライダーを始めてある程度飛べるようになってくると、一つの目標として日本一高い山を飛んでみたいと思うようになった。しかし富士山周辺は特殊な風が吹いており、実際過去には航空機の事故もあった。許可取りも含めるとそう簡単にできることではないのだ。

それでも富士山空撮のチャンスは突然訪れた。友人のベテランパイロットが富士山を飛ぶので一緒に行かないかとの誘いを受け、急遽同行することに。離陸する場所は静岡県富士市の海岸線。海の上である程度高度を上げてから富士山を目指す。徐々に近づいていくと、遠くからは富士山の斜面のちょっとした突起物にしか見えなかった宝永山の存在感がどんどんと大きくなってくる。

田子の浦を背に、富士市側から見た富士山。手前に東名高速道路、奥に新東名高速道路。

宝永山火口の上に辿り着くと想像をはるかに超えた大きさに圧倒され、いままで富士山のほんの一部という認識しかなかった宝永山がまったく別の山に見えた。

火口周辺の灰色の砂と石の荒涼とした山肌と、スコリア丘が続く様子は、以前アイスランドで見た景色を思い出す。いや、それ以上になんだか違う惑星にいる印象だ。

宝永山の向こうでは山中湖と道志山塊が少し霞んで見える。富士山は見る場所によって見え方がまるで違うとよくいわれるが、その稜線上空からの景色はもはや異次元のパノラマだ。

富士山を空撮するつもりが、すっかり宝永山の魅力に心を奪われてしまった。結局このときは富士山山頂を目指さず、宝永山周辺をぐるぐる回りながら撮影に没頭したのだった。

巨大な火口のエッジとなっている宝永山の向こうに、山中湖が見える。その奥が道志村、右奥に見えるのは丹沢の山々。
宝永山から下、富士山裾野の山肌。

取材・文・撮影=山本直洋
『旅の手帖』2023年6月号より

山本直洋
空飛ぶ写真家
1978年、東京生まれ。モーターパラグライダーによる空撮を得意とする”空飛ぶ写真家”。現在、世界七大陸最高峰を空撮する、成功すれば世界初のプロジェクト「Above the Seven Summits Project」を計画中。

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