避難時に「要支援」 高齢者や障害者、長崎県内に5万9000人 個別計画の作成急ぐも…残る課題

 1人暮らしの高齢者や障害者など、災害時に自力で逃げることが難しい「避難行動要支援者」。国は災害対策基本法で自治体に名簿の作成を義務付け、長崎県内には約5万9千人(昨年4月1日時点)いる。2021年、個別避難計画の作成が努力義務となったが、名簿登録者のうち作成済みは16.3%(同)。各市町は計画作成を急ぐが、支援者の確保が課題となる中、県内の福祉関係者は「地域で話し合う場を」と求める。
 県福祉保健課によると、国は13年の法改正で市町村の名簿作成を義務化。県内の全市町が名簿を作っているが、対象者の範囲は高齢者なら「75歳以上の高齢者のみの世帯」を含んだり、「70歳以上の1人暮らし」とするなど、自治体ごとに異なる。
 避難先などを決めておく個別避難計画の作成が21年、自治体の努力義務になり、県内の全市町は関係者への情報提供と計画作成に同意した当事者について作成に着手。国はハザードマップ上で危険な地域に暮らし、要介護度が高い高齢者のみの世帯など、優先度の高い要支援者について「おおむね5年程度」を作成目標としている。
 長崎市は国のモデル事業で21年度から高齢者、22年度から障害者の計画作成に着手。名簿に登録された2万5600人(昨年3月末時点)のうち、優先度が高い要支援者7919人(同、うち障害者168人)分を25年度中に終えたい考えだ。昨年3月末時点で372人分を作成した。
 障害者については県相談支援専門員協会に業務を委託。会員が個別に訪問、面談し計画を作成している。藤井修代表によると、福祉サービスを日頃、利用しておらず作成に乗り気ではない人や、「足が悪いので避難所には行かない」と言う人など、さまざまな課題が出ているという。特に課題に感じるのが支援者の確保。そこで地域の実情に詳しい民生委員に本年度から同行してもらっている。
 障害者事業所の全国連絡組織「きょうされん」長崎支部事務局長の牛嶌輝彦さん(58)は「地域住民や関係者に名簿の存在そのものが周知されていない」と指摘。「地域の福祉や医療関係者、企業などと支援が必要な人の情報を平時から共有し、やりとりする場が必要」と強調する。
 11年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が発生した際、いったん避難所に逃げたものの、生活環境の変化や障害特性への周囲の理解不足からストレスを抱え、再び自宅に戻った多くの障害者がいた。
 「きょうされん」は福島県南相馬市と岩手県陸前高田市と交渉。それぞれ名簿の提供を受け、被災者宅を回って安否を確認するとともにニーズを聞き取り、支援に当たった。牛嶌さんも継続的に南相馬市へ入り、16年の熊本地震でも被災地で活動した。
 牛嶌さんは支援する側も被災者となり得るとして「大雨や台風といった予測できるものと、地震など突発的なもので支援の在り方を分けて考え、地域外からの応援を含め計画を立てることが必要」と訴える。

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