「オール・カントリーを買って放置」はもったいない―投資の面白さを倍増させる世界経済のツボ

資産運用をするにあたって、取りあえず全世界株式に分散投資するインデックスファンドを買って放っておくのも1つの方法ですが、それだけでは少しもったいない気もします。

全世界株式に分散投資するインデックスファンドを買えば、皆さんのお財布の中身は、嫌が応にも世界経済の動きに連動することになります。だったら、世界経済が今、どういう状態にあるのかを、少し掘り下げて観察してみるのも面白いのではないでしょうか。

そのような考えに至った時、眺めてみると面白いレポートがあります。3月4日に総務省統計局が作成・公表した「世界の統計2024」(外部リンク)がそれです。

タイトル通り、日本国内だけでなく、世界各国の地理や気象、人口、GDP(国内総生産)の他、農林水産業や鉱工業、エネルギー、情報通信、運輸・観光、貿易、金融・財政、国民生活など、多岐にわたったデータが掲載されており、日本と各国を比較することによって、日本が今、置かれている位置づけが分かります。

世界の人口はどうなる?

まず、経済活動の基本中の基本である、人口を見てみましょう。人口が増えるほど、環境負荷や人間同士の摩擦が増えるので、一概に良いことばかりではありませんが、人口が増えれば、その分だけ食糧やエネルギーが必要になり、消費意欲も向上するので、経済的な活力も高まります。

世界人口の推移

2050年にかけて、世界人口がどのように推移するのかというと、2024年時点で81億1900万人なのが、2050年には97億900万人になる見込みです。

2050年の人口を地域別で見ると、最も多い地域はアジアで52億9300万人。次いでアフリカの24億8500万人ですが、2024年からの増加率で見ると、アジアが10.62%増であるのに対し、アフリカは66.22%です。

他、北アメリカが10.50%増、南アメリカが11.79%増、ヨーロッパが5.26%減、オセアニアが26.09%増です。ちなみに日本単独で見ると、2024年から2050年までの26年間で、15.47%減ですから、他の国・地域に比べて人口減少のスピードは、かなり速いことが分かります。

世界人口の年平均の増加率

また、人口でもう1点、気になるのは世界人口の増加に関することです。確かに、世界人口は100億人を目指して増加傾向をたどると見られているものの、年平均の増加率は年々低下していきます。

1960年から1965年までの5年間の平均増加率が2.0%、1965年から1970年までのそれが2.1%で、これがピーク。2024年の前年比が0.9%増ですが、2050年になると、この数字が0.5%増まで低下します。世界人口は今後も増加しますが、増加ペースは徐々に鈍っているのです。

世界人口のピークはいつなのか

では、世界人口がピークを付けるのはいつでしょうか。

国連の世界人口推計によると2100年で、約109億人がピークだということです。まだまだ先の話ですが、その頃になると、「人口が増え続けるから全世界株式のインデックスファンドに放置しておけばいい」というロジックは、ひょっとすると意味をなさなくなるのかもしれません。

また、超高齢社会が経済活力を低下させるのだとしたら、投資するにあたって警戒しなければならない国がいくつかあります。

ちなみに超高齢社会にはちゃんと定義があります。それは「65歳以上の高齢者の割合が、人口の21%を超えた社会」です。

2050年時点の65歳以上人口の比率を見ると、日本は37.1%ですが、他に30%を超えている国を探すと、韓国が39.4%、タイが31.6%、中国が30.1%、イタリアが37.1%、スペインが36.6%、ドイツが30.5%という具合です。

総じて欧州、北米、アジアの一部で超高齢社会化が進む一方、ウガンダ、エジプト、エチオピア、ケニア、コンゴ、タンザニア、ナイジェリアといったアフリカ諸国は、わずか1ケタでしかありません。昨今、アフリカが経済圏という観点で注目されているのは、国が若いからでもあります。

各国の経済の規模はどうなっている?

次に経済の規模を見てみましょう。

全世界の名目GDP

国際比較という点では名目GDPを用いるのが良いと思われますが、2010年から2021年までの11年間で、全世界の名目GDPは、66兆5780億1700万米ドルから96兆6980億500万米ドルまで増えました。率にすると45.24%増です。

では、日本はどの程度伸びたのかというと、13.12%減という厳しい数字になりました。日本以外に、この11年間で名目GDPが減少した国を挙げると、ブラジル、ベネズエラ、イタリア、ギリシャ、アンゴラ、スーダン、リビア、くらいのものです。

日本の名目GDPが減少している理由

ただ、日本の名目GDPが減少傾向をたどった理由の1つとして、円安が進んだ点は考慮する必要があります。ここで取り上げられている名目GDPは米ドル建てなので、円建てのGDPが増加したとしても、対米ドルで円が安くなってしまったら、米ドル建ての名目GDPは減価せざるを得なくなるのです。

また国民1人あたりが国内外で得た所得の総額を示す1人あたり国民総所得の数字を見ると、日本のそれは4万1162米ドルですが、それを超える国は他にも23カ国あります。

日本は24番目の国であり、絶対額からすればもっと低い国はたくさんあるものの、1人あたり国民総所得という概念から見ると、「非常に豊かか?」と問われれば、いささか首をかしげずにはいられません。

もちろん、あくまでも名目値なので、インフレとの見合いで考えなければなりませんが、絶対額を稼ぐ力という点において、日本の弱さが目立つ数字になっています。

世界の貿易取引関係は?

日本と諸外国との関係性を考えるうえで重要なのが、諸外国との貿易取引関係です。これも、「世界の統計」を見ると、「主要相手国別輸出入額」という統計で、輸出と輸入それぞれについて、日本をはじめとして各国が、どの国との貿易が多いのか、分かります。

日本の輸出入額が最も多い国

たとえば日本の場合、輸出、輸入のいずれも最も額が多いのが中国です。2021年時点で中国への輸出総額が1638億6000万米ドルで、輸入総額が1856億6400万米ドルですから、輸入超です。また輸出入額の両方とも、中国に次いで多いのが米国で、輸出総額が1359億7600万米ドルで、輸入総額が829億6600万米ドルですから、米国に対しては輸出超になっています。

ディカップリングは実現可能か

日本に限らず、米国をはじめとした西側自由主義陣営の間では、中国抜きのサプライチェーンを検討する動きはあります。一時は「ディカップリング」といって、中国との経済関係を完全に絶つという話もありましたが、この貿易額を見れば、ディカップリングが現実的ではないことが分かると思います。

これは米国も同じで、中国向けの輸出総額はカナダ、メキシコに次ぐ3位ですが、輸入総額は中国が1位です。イギリスも輸入総額では中国が1位。ドイツは輸出総額が2位で、輸入総額が1位です。この状況でディカップリングを強行すれば、世界経済は大混乱に陥るでしょう。

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数字を眺めるだけでなく、その数字が何を意味するのかを考えることによって、経済や金融に対する知識が確実に備わります。そして、それは資産運用にも役立つはずなのです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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