『君が心をくれたから』雨と太陽が交わした約束の結末 自らが犠牲になることを選んだ千秋

雨(永野芽郁)の視覚が奪われるまであと1週間。太陽(山田裕貴)は桜まつりで打ち上げる花火の審査に合格する。どんな花火かは当日までのお楽しみだと話す太陽は、雨にヒントとしてこう言う。「俺の人生で一番大切だった10秒間」。3月11日に放送された『君が心をくれたから』(フジテレビ系)は最終話前の第10話。ようやく雨と太陽が10年前の高校時代に交わした約束が叶う瞬間が訪れる、と思われたが、そううまくはいかないのがこのドラマだ。

桜まつりの当日に雨は司(白洲迅)の運転で母・霞美(真飛聖)に会いに行く。しかしその帰り道に天気は急変し、それによって発生した事故で渋滞にハマってしまう。一方、花火の準備をしていた太陽は強風にあおられて落下した花火筒の下敷きになって病院に運ばれる。大事には至らずすぐに目を覚ますのだが、悪天候のせいで花火は中止の可能性が濃厚になっていた。しかしあと1時間足らずで雨の目が見えなくなってしまうからと、太陽は日下(斎藤工)と千秋(松本若菜)にあるお願いをするのである。

千秋が太陽の母・明日香としての言葉を発すると、月明かりに溶けて消えてしまう。これは前回のエピソードで、千秋が自分の母親であることを知った太陽がそのことを本人に話そうとした際に日下から忠告されたことである。もちろんそれは千秋自身も心得ている。それでも太陽が花火の準備をしている姿を見ながら我が子の成長を見守る母の目線で喜びを感じる千秋は、花火を雨に見せたいから雨を止ませてほしいという太陽の願いを叶えるため、自らが犠牲になることを選ぶ。「月が出るとき、空は晴れるから」と。

悲しい顔で謝り続ける太陽に、ようやく(お互いに知っているとはいえ)母としての言葉で「いちばんの笑顔でいてほしい」と伝える千秋。この一連は、その少し前の雨と霞美のやり取りと通じるものがある。自分のために犠牲になっていく母から“笑顔になってほしい”と言われる太陽と、目が見えなくなる前に記憶のなかにいる母の姿を塗り替えようと母に“笑顔になってほしい”と求める雨。まったく異なる境遇の母と子の物語がふたつ、こうして連なることでそれらは連動する、あたかも雨が太陽にそう言っているようにも感じさせる。

それは視覚のタイムリミットである20時を迎えた瞬間にはっきりとする。人にぶつかった拍子で花火を待っていた視線が外れ、ちょうどそのタイミングで雨の視覚は失われ、太陽の花火が打ち上がる。気付かれまいと雨は太陽に見え見えの嘘をつくが、すぐに状況を察した太陽は間に合わなかった、花火を見せられなかった、約束を果たせなかった悔しさから涙を堪えきれない。それに対し、さらに見え見えの嘘を重ねる雨。そのあまりにもぎこちない“笑顔になってほしい”の思いが、このシチュエーションを尚更いたたまれないものにしていく。

次の最終話で雨は聴覚も失い、五感を全て奪われることになるわけだが、もう何かの手違いでもご都合主義でもいい。なにか彼らが救われる結末が用意されなければ、誰一人として浮かばれない状況になっている。
(文=久保田和馬)

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