『ゴジラ-1.0』山﨑貴監督は「模型の国の住人」だった 改めて注目したい“模型の映画”への憧憬と余波

『ゴジラ-1.0』が、第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した。なかなか感慨深いものがある受賞である。というのも、本作を監督した山﨑貴は、かねてより『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』を見たことで映像の仕事を目指したと公言しているのだ。自分を形作ったVFX映画を作り出した地で、超メジャーな映画賞を受賞する。なんとも劇的である。

少年時代の山﨑貴を強烈に惹きつけたという『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』。これらの作品は、いわば「模型の映画」でもある。よく知られていることだが、当時の特撮は劇中に登場するビークルなどの撮影用模型を実際に作り、その周囲でカメラを動かして素材を撮影し、それらの素材を合成して画面を作っていた。なので、画面に写っているのは模型である。特に『スター・ウォーズ』では、この撮影用模型を「ベースの形を作った上で既存のプラモデルのパーツをたくさん貼り付けてデコレーションし、激しい汚し塗装を施して実在のメカっぽく見せる」というテクニックを駆使して製作し、山﨑少年を含む全世界の観客が驚愕。大量のフォロワーを生んだ。

山﨑監督が『ゴジラ-1.0』も製作した白組に入社したのは、アルバイト経由だったという。当初はCG受注した映像がうまくいかなかった時用のバックアップとしてミニチュアを作る仕事を担当しており、モーターでコントロールする撮影台やモーションコントロールカメラを使った撮影も経験。つまり山﨑監督は、製作体制がCGに全振りする以前の白組で、『スター・ウォーズ』と同じような撮影方法に挑んでいたのである。当然その仕事の中にはミニチュア製作も含まれているし、模型の映画に憧れて模型を使った映像を作るようになった山﨑監督は、もう「模型の国の住人」と言ってしまっていいと思う。

山﨑監督が「模型の国の住人」である証拠として、たびたび摸型専門誌や関連書籍でのインタビューを受け、一般メディアでは不可能なマニアックな話題について話しているという点がある。直近では『ゴジラ-1.0』特集を組んだ『月刊ホビージャパン』2024年2月号でゴジラのデザインや高雄や雪風、震電といった作品に登場した兵器について語っているし、『アルキメデスの大戦』公開当時には飛行機専門誌『隔月刊スケールアヴィエーション』2019年9月号にて艦船モデラーの笹原 大氏、同作プロデューサーで山崎監督作品を担当することの多かった阿部秀司氏と共に作中の軍艦や急降下爆撃機などについて話している。これら模型関連書籍のインタビューやコメントでは、映像と模型との関係についての意見や『スター・ウォーズ』で衝撃を受ける前はスケールモデラーだったことが明かされており、アカデミー賞も取るような巨匠というよりは「気のいい模型好きのおじさん」という雰囲気が伝わってくる。

そんな「模型の国の住人」である山﨑監督の作品に対して、模型業界側からもたびたびアプローチが行なわれてきた。『永遠の0』公開時には模型メーカーのハセガワが映画のキービジュアルを使った限定パッケージの零戦のキットを発売。また厳密にはプラモデルではないが、フィギュアメーカーの海洋堂からは『海賊と呼ばれた男』に登場する日章丸の1/700ディスプレイモデルが発売されたこともあった。

『ゴジラ-1.0』でもそんな模型側からのアプローチは健在。前述のハセガワは「劇中登場仕様」として1/48スケールの震電を描き下ろしの特別パッケージと限定版のデカール付きで発売。震電に関しては大日本絵画から『日本海軍局地戦闘機 震電 モデリングファイル』と題した書籍が発売されており、各社の震電のキットを美しい作例の姿で見ることができる。また、『ゴジラ-1.0』の公開時には映画館で登場兵器のプラモデルが販売されている光景も目にした。すでにキット化されている軍艦や戦闘機が活躍する『ゴジラ-1.0』は、関連商品を新たに作り起こさなくてもいいという点で、模型メーカーにとってもありがたい存在だったはずである。

そんな「模型の国の住人」であり、そして模型業界にもたびたびビジネスチャンスを生み出してきた山﨑監督が『ゴジラ-1.0』でアカデミー賞をとったことは、一人のプラモデル好きとして素直に嬉しい。模型にインスピレーションを受けつつ立体と平面を行き来しながら映画を作ってきた山﨑監督の受賞は、日本模型業界の勝利……とまでは言えないものの、多少はプラモデルの後押しあってのものだろうからだ。同じ模型の国の住人である自分としては、この受賞によって少しはプラモデルという遊びに異なる方向から光があたればいいなと、しみじみ思うのである。

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