金持ちは大変だね……他人事と思っていた「相続トラブル」。しかし、裁判沙汰にまで発展するのは「遺産総額1,000万円以下」が最も多く、実は一般人のほうが相続トラブルに巻き込まれやすいというのが実情です。そんな相続トラブルには、いくつかのパターンがあります。一例をみていきましょう。
相続のよくあるトラブル…〈後妻〉vs.〈前妻との子〉
厚生労働省『2022年 人口動態統計』によると、婚姻数50万4,930件のうち、再婚者は男性で9万4,001人、女性で8万0,648人でした。結婚する男性の18.6%、女性の16.0%が再婚だったということになります。
先日、再婚をしたという40代男性。前の婚姻期間は8年。1年の別居を経て、 慰謝料と一人息子が18歳を迎えるまでの養育費を払うことを条件とした協議離婚が成立しました。そもそも離婚の原因は男性の浮気。そして今回、再婚したのはその浮気相手。後妻の立場からすると、いわゆる略奪婚となります。
――もともと、私が彼女(後妻)に結婚していることを言ってなかったことが原因ではあるのですが……
バツが悪そうに話す男性。本来であれば、後妻となる女性にも慰謝料の請求があってもおかしくないものでしたが、子どものために早く別れたいという前妻の思いもあって、慰謝料の請求は男性だけにあったといいます。
現在、子どもは5歳。今後13年、きちんと養育費を払えば父親としての役目を終えることができる……前妻への禊という意味でも、きちんと金銭的なパックアップはするつもりだといいます。
ただ、このようなケース、離婚から随分と経ったあとにトラブルに発展するケースも。子どもが成人し、ひとつ区切りがついたとホッとしていた矢先、もし男性が急逝したとしたら。
突然の悲劇に、ただ泣き続けるしかない後妻。葬儀の最中も知人に支えられ、やっと立っていられるような状態のなか一本の電話。電話をかけてきたのは前妻の子。後妻は、子の存在を知っていても話したことはない……前妻の子より「話したいことがある」と週末に後妻の自宅で会うことになりました。
前妻の子:この度はご愁傷さまでした。
後妻:いえ、はじめまして
前妻の子: 今日伺ったのは、父の相続のことです
後妻:(初めから悟っていたように) ……そうですよね
前妻の子:わたしの母は父とは赤の他人です。しかし私は父と血のつながりがあるので相続権があります。
後妻:はい。彼が遺してくれたのは……夫名義の貯金が800万円くらいあったかと
前妻の子:この家は、誰の名義ですか
後妻:えっ、夫です。
前妻の子:なら、私にも相続する権利はありますね
後妻:ちょっと待ってください。そうしたら、この家を売らないといけなくなります
前妻の子:イヤです。この家に関してもきちんと分けてください。元々、あんたのせいで、俺ら家族はめちゃくちゃになったんだ。天罰ですよ
〈前妻との子〉との相続トラブルで〈後妻〉が直面する「家なしリスク」
このように、相続の場では「後妻と前妻の子」という関係のなかでトラブルになりがち。ドラマのような展開が実際に繰り広げられることも珍しくはありません。そして本当に家を売らないといけない事態になった場合、特に後妻が高齢者であれば、かなり厄介な事態に直面します。
――家を借りようと思ったけど、全然、貸してくれない
――住む家もないのに……これから、どう生きていけばいいの
株式会社R65が行った『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題に関する実態調査』によると、「年齢を理由に不動産会社に入居を断られた経験はありますか?」の問いに対して、26.8%が「ある」と回答。断られた回数は「1回」が最多ですが、「5回以上」も11.9%。遺産分割により自宅を売ることになった際には、「家なしリスク」に直面する可能性があるのです。
そもそも相続が発生した場合、遺言書がなければ「遺産分割協議」をもって遺産の分け方を決めます。この遺産分割協議に参加できるのは「法定相続人」だけです。法定相続人とは民法で相続人となることができると定められた相続人のこと。具体的には以下のような人たちです。
・法定相続人には、配偶者と血族の2種類があります。
・配偶者は、常に相続人となります。
・血族には順位がついており、先順位の者が相続人となります。
・第1順位は、被相続人の子です。子が死亡しているときは、その代襲者(子、孫、ひ孫等)です。
・第2順位は、直系尊属(被相続人の親等)です。
・第3順位は、被相続人の兄弟姉妹です。兄弟姉妹が死亡しているときは、その代襲者(子のみに限られ、孫、ひ孫等は含まれません)です。
前妻は法定相続人になれませんが、血のつながりのある子は「法定相続人」になることができます。また遺言による指定がないときには「法定相続分」が基準となり、配偶者も子も遺産の1/2が取り分。ただし子が複数いれば、その人数で法定相続分を均分します。
前出の例では子は1人。つまり遺産の半分を主張できる権利があるということになり、後妻が住む家についても「半分よこせ!」と堂々と主張できるということになります。
遺言をもって事例のようなトラブルを避けることはできますが、その際に気を付けるべきは「遺留分」。これは、相続人が生活に困らないように、最低限の財産は必ず相続できるように保障されている権利で、法定相続分の半分を主張できます。遺言を作成する際には、この遺留分を侵害しないよう配慮が必要です。もし遺留分の侵害が発生したら、間に弁護士を入れることが一般的で、遺留分に達するまでの遺産の受け渡しなどを行うことになります。
前妻の子が関わる相続は、残された家族に負担になるケースが多く、遺言書作成など、早めの対策が肝心です。
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