2024年は経済の転換点「ゴールデン・チェンジ」に…インバウンドの「復活」と「再成長」が起爆剤【国際エコノミストが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

2024年は日本経済の上昇へ向けた転換点「ゴールデン・チェンジ」になると語るのは、国際エコノミストの今井 澂氏。「インバウンド」が上昇の起爆剤になる理由を、著書『日本経済大復活 ゴールデン・チェンジ』(Gakken)から抜粋してご紹介します。

ゴールデン・チェンジを生むインバウンドの復活と再成長

ゴールデン・チェンジ(日本経済の上昇へ向けた転換点)を生む起爆材、「金の卵」の一つがインバウンド(訪日外国人観光客)です。新型コロナウイルス感染症による厳しい外出制限が緩和され、全国各地の観光地に外国人旅行客が復活してきています。

この間、私が群馬県の四万(しま)温泉に週末に旅行しようと思って旅館に問い合わせたら、「予約はできますが、台湾から団体客が大勢来ているのでうるさいかもしれませんよ」と言われてしまいました。どこの観光地でも、インバウンドの取り込みに躍起な様子がうかがえます。

日本にとって、インバウンドはいくつもの理由で今後の経済成長の大きな牽引車となります。まず当然ですが、コロナからの復活が見込めることです。

他の先進国に比べて、行動規制の緩和がやや遅れた日本では、2022年までの3年間、訪日外国人旅行者数が大きく落ち込んでいました【図表1】。

【図表1】訪日外国人旅行者数の推移 出所:観光庁

これが足元では、急速に回復してきています。日本政府観光局(JNTO)の集計では、2023年10月時点での訪日外客数(推計値)は251万人で、コロナ前の2019年の同月(249万人)をついに上回りました。

シンガポール(前年同月比31.4%増)やインドネシア(同29.1%増)をはじめとした東南アジア、あるいはアメリカ(同38.2%増)やカナダ(同37.3%増)を含む米州(南北アメリカ大陸)などからの旅行者数が大きく増加していることが今回の押し上げ要因となりました。

また、集計対象の全23市場のうち14市場(韓国、台湾、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、オーストラリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、ドイツ、イタリア、スペイン)において10月としては過去最高を記録。カナダ、メキシコ、ドイツは単月で過去最高を更新しています。

今年の国際観光はパンデミック前の基準に達する見込み

視点を世界に広げてみましょう。国連世界観光機関(UNWTO)によれば、「観光は2020〜2022年の間、COVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックにより、観光史上最悪の危機を迎えた」といいます。

国際観光客到着数(一泊以上の訪問客)は、2019年の14億6500万人が2020年には一気に4億700万人となりました。世界的なロックダウン(都市封鎖)、渡航制限の広まりによる観光需要の低迷が影響して、わずか1年間で72%もの大幅減となってしまったのです。

世界中がパンデミックと戦い、ありとあらゆる規制がほとんど継続実施されたため、2021年の到着数はわずかに増加した程度で、依然として2019年の69%減の水準でした。その一方で、国内観光については各国の行動規制の緩和もあり、緩やかに回復しています。

続く2022年は、底堅い繰り越し需要と規制緩和によって、国際観光が部分的に回復してきます。到着者数は2021年比較で2倍以上に急拡大します。とはいえ、2019年に比べればなお34%低い水準でした。

2020〜2022年の3年間で、26億もの到着者数が消滅してしまったのです。この数字は、2019年の到着者数のほぼ2倍に相当します。

国際観光によるインバウンド消費は、訪問先のGDPでは輸出に計上されます。「観光輸出収入」、つまり国際観光による輸出収入も、コロナ禍の2020年に2019年比62%減、2021年に同59%減となりました。2022年には回復しましたが、2019年比ではやはり34%下回ったままです。

観光輸出収入の損失総額は、この3年間で2兆6,000億ドルに達しています。これは2019年に得られた収入の1.5倍です。

観光GDPで測定される観光の経済貢献は、2019年には世界全体のGDPの4%でしたが、パンデミックによって2020年と2021年に2%まで半減しました。2022年には2.5%(暫定値)まで戻してきましたが、3年間の損失総額は4兆2,000億ドルに達しています。

しかし、UNWTOが2023年9月26日に公表した資料「世界観光指標(World Tourism Barometer)」(2023年9月号)では、「国際観光はパンデミックによる打撃を迅速に乗り越えた」と宣言しています。

国際観光客到着数は2023年7月末までに、パンデミック前の水準の84%に達しました。2023年1〜7月の国際観光客到着数は7億人で、前2022年同期比で43%増となりました。尻上がりの復調で、UNWTOの見通しでは、 2024年の国際観光はパンデミック前の基準に達する見込みです。

2019年までの段階では、国際観光は世界経済を上回る成長を続けており、また多くの雇用を創出していました【図表2】。ポストコロナでもこのトレンドは継続しますので、日本のインバウンド拡大の強力な追い風となるのです。

【図表2】外国人旅行者受入数ランキング(2019年) 出所:「観光白書」2020年

日本の「独自ののびしろ」に期待

コロナからの復元需要、そして世界的な市場の拡大という追い風に加えて、日本ならではの事情もインバウンドを押し上げます。

まず一つ目は、円安です。輸入品の価格上昇は日本の消費者にとってはインフレを招いて痛手ですが、外国人にとっては自国通貨高となり、日本の商品・サービスがより魅力的な「お値打ち価格」に感じられるからです。

日本銀行の金融緩和が若干後退したことで、今後は急な円高に転換すると予想する声もありますが、その可能性は小さいと思います。アメリカ景気が堅調で、緩やかな物価上昇が続いているためで、FRB(米連邦準備制度理事会)はこれ以上に金利を上げることはないでしょう。

一方で、アメリカ経済が大きく落ち込まない限り、利下げの可能性も低いです。この先、日本がマイナス金利をやめたとしても、日米金利差が急激に縮まることはまずないと考えられるのです。

先進国の中では、GDPに占める国際観光の比率が低いことも、これからの日本のインバウンドの「のびしろ」として期待できます。

日本の観光業、それも狭い意味でなく、日本経済全体に波及する意味でのインバウンド効果に大いに期待したいところです。

今井 澂

国際エコノミスト

※本記事は『日本経済大復活 ゴールデン・チェンジ』(Gakken)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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