ガザ病院の医師ら、イスラエル軍に虐待受けたとBBCに証言 「非常に憂慮すべき」と英外相

パレスチナ自治区ガザ地区の病院のスタッフらが、地上作戦を展開しているイスラエル軍兵士らに殴られ、屈辱的な扱いを受けたとBBCに話した。そうした状況を撮影したとみられる映像もBBCは入手した。イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相は12日の議会で、このBBC報道の内容について、「非常に憂慮すべきだ」と述べた。

BBCに証言したのは、ガザ南部ハンユニスのナセル病院のスタッフ3人。ガザで機能する数少ない病院の一つだった同病院は、2月15日にイスラエル軍の急襲を受けた。

3人は何日間にもわたって拘束され、屈辱的な扱いを受けたという。殴られ、冷水を浴びせられ、何時間もひざまずかされるなどしたという。

イスラエルは、「拘束した者たちに対するいかなる虐待も厳しく禁じられている」とBBCにコメントした。

イスラエル軍はナセル病院について、イスラム組織ハマスの戦闘員や、昨年10月7日に人質に取られたイスラエル人らがいるとの情報を得ていたとした。人質にされた人たちの一部は、同病院に留め置かれたと証言している。一方、ハマスは、医療施設では戦闘員は活動していないとしている。

病院の映像と医師らの証言

ナセル病院では、イスラエル軍の急襲があった翌日の2月16日、医療スタッフらが拘束された。BBCは今回、その日に密かに撮影された映像の提供を受けた。

そこには、救急病棟の前で下着姿にされ、両手を頭の後ろで組まされてひざまずく男性たちの列が映っている。何人かの前には医療従事者用の着衣が置いてある。

同病院のアフメド・アブ・サブハ医師は、1週間にわたって拘束されたとBBCに話した。その間、口輪をつけた犬に襲われ、イスラエル兵に手の骨を折られたという。

同医師の証言は、他の医療関係者2人の証言とほぼ一致している。この2人は報復を恐れ、匿名を希望している。

BBCは今回の取材で、数週間にわたって医師や看護師、薬剤師、ナセル病院の中庭で生活している避難者らに話を聞き、証言の詳細を照合した。

その際、拘束されたとされる病院スタッフ49人の名前を入手した。うち26人については、現地医療関係者、ハマスが運営する保健当局、国際団体、行方不明者の家族など、複数から情報を得た。

「いかなる虐待も禁じている」とイスラエル軍

BBCはこの証言の詳細をイスラエル軍に提供し、質問した。

同軍はそれに直接は答えず、具体的な虐待証言を否定することもしなかった。ただ、作戦中に医療スタッフに危害を加えたことはないとした。

また、「拘束した者たちに対するいかなる虐待もIDF(イスラエル国防軍)の命令に反するものであり、厳しく禁じられている」とした。

英外相は「憂慮すべき」

今回のBBC報道は、12日の英議会で取り上げられた。

キャメロン英外相は上院で、野党・労働党のレイ・コリンズ議員からBBC報道について質問され、「この病院から出てきた写真や報告は非常に憂慮すべきものだ。何が起きたのかの真相究明と、イスラエルからの答えが必要だ」と述べた。

これに先立ち下院では、キャメロン外相の代理であるアンドリュー・ミッチェル外務・英連邦・開発省担当相が議員らの質問に答える格好で、調査と「十分な説明」を求めた。

ミッチェル氏は、「BBCの今日の報道について、完全かつ徹底的な調査と説明責任が果たされることが必要だ。(中略)外務省はこの件で完全な透明性と説明責任を求めていく」と述べた。

労働党のベス・ウィンター議員は、「英政府として、イスラエル政府には自軍の行為について責任があり、今回のことは明らかに拷問であり、世界人権宣言やジュネーヴ条約第18条などの国際法に違反していると考えるか」と質問。

ミッチェル氏は、「イスラエルは(ジュネーヴ条約第18条を)遵守しなければならない」と答えた。戦時における文民の保護に関する同条約は第18条で、「傷者、病者、虚弱者及び妊産婦を看護するために設けられる文民病院は、いかなる場合にも、攻撃してはならず、常に紛争当事国の尊重及び保護を受けるものとする」と定めている。

ミッチェル氏はまた、イスラエル軍には「国際人道法を受け入れ尊重する」ことを保証するために法律家が配属されていると述べた。

米国務省も会見で言及

このミッチェル氏の答弁について、人権団体「アムネスティ・インターナショナルUK」のサシャ・デシュムク最高経営責任者は「単純に不十分」とする声明を出した。

デシュムク氏は、「イスラエル当局が信頼できる調査を自分たちでできると信じているのであれば、閣僚らはひどくナイーブか、単に不誠実かのどちらかだ」と主張。

「この最悪の危機では、イギリスによる大きな変化が必要だ。それには、即時停戦の要求、援助物資の大幅増量を認めるようイスラエルに求める協調的圧力、集団的懲罰である17年間のガザ封鎖をやめさせるためのイスラエルへの要求が含まれる」とした。

今回のBBC報道は、米国務省の記者会見でも取り上げられた。

ロイター通信の記者は、アブ・サブハ医師の件が、アメリカとイスラエル政府との協議で提起されたか質問。国務省のマシュー・ミラー報道官は、提起したとは確認できていないが、「そうであろうと思われる」と答えた。

そして、「これは、より多くの情報を求めるために、そして、拘束された者は誰であれ国際人道法を厳格に順守して処遇されるべきだと明確にするために提起するタイプの事案だ」と付け加えた。

(英語記事 Israel-Gaza war: David Cameron says BBC report into Nasser hospital raid 'very disturbing'

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