年収800万円の30代共働き夫婦「6,000万円のマイホーム購入」で理想の暮らしを叶えるも…銀行から「ゾッとする通知」が届いたワケ【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

人生でもっとも高額な買い物として代表的な「マイホーム」。憧れのマイホーム購入は幸せへの第一歩ですが、浮足立って無計画な住宅ローンを組んでしまうと、その後のライフプランが崩壊してしまうことも……。本記事では、Aさん夫婦の事例とともにライフイベントと住宅ローン返済計画の注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。

ついに届いた…ゾッとするハガキ

Aさんは、1枚のハガキを見つめていました。ハガキには「住宅ローンの支払請求書」の文字。いわゆる督促状です。住宅ローンの支払いが滞り、銀行から催促が来ているのでした。

住み慣れた一軒家のリビングで、Aさんはつぶやきます。

「このままでは、住宅ローンを払えない……」

世帯年収800万円、6,000万円の住宅を購入した夫婦

5年前、Aさん(30代・男性)は妻との結婚を機に憧れのマイホームを購入しました。Aさん夫妻にとって、大きな一軒家に住むことは共通の夢でもあり目標でした。

「将来生まれてくる子供のためにも広いリビングで、高い天井と大きな窓で日当たりをよくしよう」

「絶対アイランドキッチンがいい! 友達を呼んでホームパーティなんかもいいよね」

結婚当初から思い描いていた、Aさん夫婦のこだわりを反映したマイホームの構想が完成しました。Aさん夫妻は都市部の郊外に住んでおり、戸建ての購入費は総額でおよそ6,000万円。これまでの人生で見たこともない金額に一度は驚きましたが、返済プランを確認したところ、問題なく返済していけることがわかり、不安を払拭することができました。

Aさんの住宅ローン返済プラン

Aさん 年収500万円 / 妻 年収300万円

世帯年収 800万円

《住宅ローン》

借入額 6,000万円

借入期間 35年

金利 0.475%(変動)

毎月の返済額 15万5,089円

「毎月の手取りが、2人合わせて53万円くらいだからローンが16万円くらいなら、支払えそうだな」

「いまの家賃が10万円で、無理なく暮らしていけているし、それに銀行もローン審査を通してくれたんだから大丈夫ね!」とAさん夫妻はすぐに契約し、新居での生活がスタートします。

しかし、第一子の出産によって生活は一変することとなるのでした。

ライフステージの変化とともに立ち込める暗雲…

Aさんの妻は3年前に待望の第一子を出産。愛娘とともに、思い描いたとおりのマイホームでの暮らしを満喫していました。

しかし、子育てはAさん夫妻が思っていた以上に大変で、Aさんの妻は娘が小さいうちは子育てと家事に専念できないかとAさんに相談しました。Aさんの妻の勤務先はあまり福利厚生が整っておらず、正直なところ産休・育休も名ばかり。周囲の目が気になり、数年は職場復帰が見込めないなかで長く仕事を休むことは難しく、退職して、子育てに専念することにしました。

子育てがひと段落するまでのあいだは、Aさん1人分の給与で家計を支えなければいけません。ですが、妻の収入がなくなるということは、当然家計にも大きな影響を与えます。

妻退職前の月間収支

《収入》

Aさんの給料(手取り) 33万円

妻の給料(手取り) 20万円

合計 53万円

《支出》

住宅ローン 15万5,000円

生活費 15万円

水道光熱費 2万円

積立 3万円

娯楽費 3万円

合計 37万5,000円

→14万5,000円の黒字

妻退職後の月間収支

《収入》

Aさんの給料(手取)33万円

《支出》

住宅ローン 15万5,000円

生活費 15万円

水道光熱費 2万円

積立 3万円

娯楽費 3万円

合計 38万5,000円

→毎月5万5,000円の赤字が発生

毎月15万円ほど貯蓄のできていた状態から、赤字の家計へと変わってしまったのです。

住宅ローンの決め手は「金利が低いから」

住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」によると、利用している住宅ローンを選んだ決め手は「金利が低い」が71.7%となっています。このことからも、住宅ローンの利用者にとって「金利が低い」ということは大事なポイントであると同時に、昨今の低金利時代による住宅ローン金利の低さは住宅購入者にとって追い風となっています。

だからといって、借入金額を増やし無理な資金計画を行うことには注意が必要です。住宅ローンは当然ながら長期にわたって返済することになります。返済期間中にはさまざまなライフイベントが待っていることでしょう。特に「教育」や「老後」のタイミングと、住宅ローンの返済期間が重なる時期がある場合は要注意です。

「住宅」「教育」「老後」という人生の三大資金が重なる時期は間違いなく「支出の山」を迎えることとなります。出費が重なる「支出の山」を迎える時期をあらかじめ予測し、問題なく返済が続けられるかを判断することが大切です。

収入の谷にも注意

「支出の山」に加えて、「収入の谷」にも気をつけましょう。収入の谷とは、転職・育児休業、退職などで給料が減少する可能性のある時期のことです。Aさん一家の場合、妻が育児のために退職したことにより収入が減少し、収支のバランスが崩れてしまいました。

住宅ローンを組む際は、一度家族の各ライフステージにおける収支の推移を予測してグラフにした「キャッシュフロー表」の作成をお勧めします。

Aさんの家計の改善策

Aさんにも「キャッシュフロー表」を作成していただき、将来の収支バランスについて一緒に確認しました。Aさん一家の場合、妻の再就職により収支が大幅に改善することはわかっていたので、子育てが落ち着いて再就職をすることによる黒字転換の時期と、それまでの金融資産の取り崩しを計算しました。

再就職の見込み時期までは、今まで積み立ててきた金融資産の取り崩しにより住宅ローンも滞りなく返済できる予想となりました。

「督促状が届いたときはどうなるかと思いました。最初は6,000万円も住宅ローンを組めるなんて思っていなかったですが、夢のマイホームを想像するとなんだか返済していけるんじゃないかという気になってしまい、将来のことまで深く考えていませんでした。ライフプランを再構築したことで、なんとか足元は落ち着きそうでほっとしています」

「ですが、これから教育費がかかる時期だし、そのあとは老後の準備もある。これまでのことを教訓に、これからは堅実にお金のことについて考えていきます」とAさんは話します。

<参考>

伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス
代表

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