米下院、TikTokのアメリカでの利用禁止できる法案を可決

米連邦下院は13日、動画投稿アプリ「TikTok」のアメリカ国内での利用を禁止できる法案を可決した。中国の親会社バイトダンスに対し、6カ月以内にTikTokの議決権株式を売却しなければ、アメリカでのアプリ販売を禁止するとしている。

正式名称「アメリカ国民を外国敵対勢力管理アプリケーションから保護する法律」は超党派で可決されたが、施行されるにはなお、上院での可決と大統領の署名が必要となる。

アメリカの政治家らは長らく、中国政府がTikTokにおよぼす影響を懸念している。

TikTokは2012年、中国のバイトダンスが運営を開始。北京に本社を置く同社はケイマン諸島に登記されており、欧州各地やアメリカにも事務所を構えている。

ジョー・バイデン米大統領は、この法案が上院で可決されればすぐに署名すると述べている。だが、中国との外交問題に発展する可能性もある。

バイトダンスが強制的な事業売却を完了させるには中国当局の承認が必要だが、中国政府はこれを拒否すると断言している。中国外務省の王文斌報道官は、こうした動きは「アメリカに跳ね返ってくる」と述べた。

中国とのデータ共有が焦点に

中国では企業に国家安全保障法が適用され、要請に応じて政府とデータを共有することが義務付けられている。

TikTokはこれまで、中国バイトダンス従業員がアメリカ国内の1億5000万人のユーザーのデータにアクセスできないと保証するための措置を講じたとして、規制当局を安心させようとしてきた。

TikTok最高経営責任者(CEO)の周受資氏は、同社はデータの安全性と「外部から操作できない」プラットフォームを維持すると約束すると述べた。

一方で、法案の可決はアメリカでのアプリ禁止を意味し、「他の一握りのソーシャルメディア企業に大きな力を与え」、何千人ものアメリカ人の雇用を危険にさらすと警告した。

しかし、今年1月に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が行った調査によると、TikTokが導入したシステムはまだ「穴だらけ」で、アメリカのTikTokと中国のバイトダンスの間で非公式にデータが共有されていることが判明した。また、中国のバイトダンス従業員が情報源を突き止めるためにジャーナリストのデータにアクセスするなど、注目を集めた事件が懸念をあおった。

法案を共同立案した共和党のマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州宇選出)は、 「アメリカで圧倒的な地位にあるニュース・プラットフォームを、中国共産党の影響下にある企業が支配もしくは所有するなど、そのようなリスクをアメリカとして取ることはできない」と述べた。

採決に先立ち、民主党のハキーム・ジェフリーズ院内総務はこの法案を歓迎。「TikTokのユーザーデータが悪用され、外国の敵対者によってプライバシーが損なわれる可能性」が減少すると述べた。

上院のチャック・シューマー院内総務(民主党)は、上院は間もなくこの法案を検討すると述べた。

しかし、今年の大統領選の共和党候補になる見通しのドナルド・トランプ前大統領が法案に反対しているため、上院での見通しは不透明だ。

トランプ前大統領は、在任中にこのアプリを禁止しようとしたが、バイトダンスの少数株式を所有しているとされる共和党の献金者ジェフ・ヤス氏と会った後、立場を変えた。

一部の民主党議員もTikTok禁止に反対している。民主党が若い有権者の支持を維持するのに苦労している中、アプリの若いユーザー層を遠ざけることを恐れている。

「生活に影響」とユーザー

ホワイトハウスの外にはこの日、法案に抗議する支持者が数人集まった。ロサンゼルスで障害者支援を行っているティファニー・ユーさんは、TikTokは自分の活動にとって不可欠だとBBCに話した。

「15年前には、30~40人に(自分の声が)届けばいいと夢見るだけだった」

別のデモ参加者、オフィーリア・ニコルズさんは、法案が複数のアメリカ企業に悪影響を与えると強調した。

コンテンツクリエイターのモナ・スウェインさん(23)は、アプリから得た収益で母親の住宅ローンや、きょうだいの大学教育費をまかなっていると語った。

ロイター通信の取材でスウェインさんは、「私の人生において、そして他の多くのクリエイターの人生において、今のような大変な時期に仕事を奪われることは、本当に、本当に恐ろしいことだ」と述べた。

中国は「弾圧だ」と非難

議決に先立ち、中国外務省の王報道官は、「TikTokが国家安全保障を脅かすという証拠は見つかっていない」にもかかわらず、アメリカが「TikTokを弾圧している」と非難した。

「公正な競争に勝てない、いじめのようなこうした行為は、企業の正常な事業活動を阻妨害し、投資環境に対する国際投資家の信頼を損ない、正常な国際経済・貿易秩序を損なうものだ」

「最終的に、これはアメリカ自身に跳ね返ってくることになる」

一方、米ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は、この法案は単に、アメリカで運営されている主要なテクノロジー・プラットフォームの所有権が「それを悪用できる者の手に渡らない」ようにするためのものだと主張した。

アメリカの動きは中国メディアからも同様に非難され、いくつかの新聞はアプリを禁止しようとするアメリカの努力を嘲笑する風刺漫画を掲載した。

「環球時報」は、アメリカが「醜い行動」をとり、「国家安全保障の概念」を乱用して「力ずく」でアプリを押収したと非難した。

他のソーシャルメディア・プラットフォームと同様、TikTokは中国では禁止されている。中国のユーザーは中国版の「抖音(ドウイン)」を使用しているが、これは同国内でのみ利用可能で、政府による監視と検閲の対象となっている。

TikTokは今回の議決後、議会への働きかけを再開するため、自分の選挙区の議員に連絡するよう促す通知をユーザーにあらためて送ったもよう。先週も同じような動きがあったが、それによって同社への反発が高まったとBBCに話すスタッフもいた。

下院の中国特別委員会は先週、同社に対し、「中国共産党のためにアメリカ市民を操り、動員するキャンペーンで虚偽の主張を広める」ことをやめるよう書簡を送っている。

売却は可能なのか

バイトダンスが中国当局からTikTokの株式売却の承認を得たとしても、競合他社が入札資金を持っているかは不明だ。同社は以前、このアプリを約2680億ドル(39兆5800億円)と評価している。この評価額が、一部の投資家を脅かす可能性がある。

しかし、アナリストらはBBCに、アメリカには買い手候補がたくさんいると語った。だが最終的にどのような取引が成功するかは別の問題で、コストや独占禁止への懸念が重くのしかかっている。

市場調査会社「Emarketer」のアナリスト、ジャスミン・エンバーグ氏はBBCの取材で、「大手ソーシャルメディア企業はすべて興味を持つだろうが、独占禁止法のハードルに直面するだろう。スナップチャットのような小規模なソーシャル・メディアも興味を持つだろうが、買収できるような余裕はないだろう」と述べた。

トランプ政権が2020年に売却を命じた際には、国内の大手企業が入札を検討した。その結果、TikTokの評価額は約500億ドルに達したと報じられた。

米マイクロソフトは最終的に、トランプ政権とつながりのあるウォルマートやソフトウェア大手のオラクルなどに敗れた。この取引は、裁判とバイデン政権への移行によって決裂した。

現在、TikTokのリーチと広告収入は大幅に増加している。Emarketerによると、TikTokが今年、アメリカから得る広告収入は約86億6000万ドルと、2020年の10億ドル未満から大きく伸びると予想される。

(英語記事 US House passes bill that could ban TikTok nationwide/ China says TikTok ban would 'come back to bite' the US

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