広告は地球に良いものになり得るか?――広告を見ることが寄付になる「グッドループ」創業者に聞く

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広告業界に向けられる視線は年々厳しくなっている。ブラックフライデーに代表される過剰消費文化に加担し、オンライン広告に使うエネルギーも莫大だ。また消費者がオンライン広告をブロックする傾向が強まり、企業が消費者の目を引くことはますます難しくなっている。こうした中、「広告を見ることで地球や社会に良い活動を支援できる」という英国発の広告サービス「グッドループ(Good-Loop)」が注目を集める。(翻訳・編集=茂木澄花)

2023年は「反ブラックフライデー」の動きが盛り上がりを見せた。大量消費主義が環境に与える悪影響を懸念する人が増え、企業の間でも支持する動きが拡大。コスメブランドのラッシュ(Lush)や靴メーカーのヴェジャ(Veja)などが、アールイーアイ(REI)やパタゴニアの前例に倣ってブラックフライデーをボイコットした。英国の家電販売店カリーズ(Curry’s)は、通常の値引きセールではなく、省エネ家電のキャンペーンを行った。

過剰消費の悪影響は、環境だけでなく人々のメンタルヘルスにも及ぶ。「金銭とメンタルヘルスの政策研究所(Money and Mental Health Policy Institute)」は次のように指摘する。「(ブラックフライデーなどは)人々の購買行動に大きなストレスを与える。心の健康が損なわれているときには、衝動的な意思決定をしやすくなることがあり、不安や将来への懸念も伴う」。消費者にとって本当は必要ないものを売るために不安をあおり、売り上げを促進するために強引な手段もいとわない。そんな広告業界には、当然厳しい視線が向けられている。

環境への悪影響が特に大きい産業については、売り上げを促進する広告を規制する動きも見られる。例えばフランスでは、化石燃料関連のエネルギー製品の広告を禁止する法律が施行された。豪州シドニーでも、施設やイベントにおける化石燃料関連広告が規制されている。

またオンライン広告特有の環境への影響もある。広告業界で気候変動に取り組む人たちのネットワーク団体「パーパス・ディスラプターズ」によると、平均的な消費者のカーボンフットプリントの約28%がオンライン広告によるものだという。また別の調査でも、オンライン広告が消費するエネルギーは、インターネットインフラ全体の消費の20%にのぼることが分かった。

とはいえ、広告業界が人々の行動に大きな影響を与えていることは紛れもない事実だ。広告が環境や社会に良いものになり得るとしたらどうだろう。

「広告を世界の前向きな力にする」――広告代理店グッドループ

エイミー・ウィリアムズ氏は「広告を世界の前向きな力にする」ための広告代理店、グッドループを立ち上げた。彼女は以前、「サステナビリティの対極」にある仕事をしていたが、「図らずも“サステナビリティおたく”になった」という。

「前職で自分の仕事を振り返ってみたとき、あまり重要性を感じなかったのです」。ウィリアムズ氏はそう語る。「柔軟剤の売り上げを増やすことは、たいして重要ではありません。『退職して弁護士か医者になるために勉強し直すか。それとも、この場所にとどまって業界を良いことのために使い、巨大な船を正しい方向に向けるか』と考えていたのを覚えています」

ウィリアムズ氏は、広告業界の可能性を感じて後者を選んだ。パンパースがユニセフとともに実施した「1パック=1ワクチン」プログラムによって、複数の国で新生児破傷風が予防されたことを知ったのだ。「大企業が世界を救うとは考えていません。企業は利益を得るために手段を選びません。ですが、社会に良いことをして利益を得る方法を企業に示すのが私の仕事です」

グッドループのビジネスモデル

グッドループのアイデアが生まれた背景には、広告ブロックの問題がある。インターネットを利用する人の3分の1が広告をブロックしているという現状は、企業にとって不都合だ。企業は消費者に嫌われたくはないが、広告を見てもらい、信頼とつながりを築きたいと考えている。「クリック数と閲覧数、可能な限り費用を抑えて表示回数を最大化することばかりを追い求めてしまっています。これらの動機付けが合わさって望ましくない方向に作用し、広告を非常に不快なものにしてしまっているのです」とウィリアムズ氏は言う。

同社が編み出したビジネスモデルは次のようなものだ。顧客企業は、閲覧数の獲得と慈善団体への寄付を連動させることができる。インターネット利用者が企業の広告をブロックしなかった場合、その企業によって寄付が行われるという仕組みだ。例えばこういった事例がある。健康志向の菓子大手ネイチャーバレーのパーパスは、「人々を自然の中に連れ出すこと」だ。国立公園を保全するための大規模なプラットフォームを持つ同社は、グッドループと連携して特別な広告を制作した。視聴者が動画の「広告をスキップ」ボタンを押さないことが、同社による国立公園保全の取り組みへの寄付になる、というものだ。

「ネイチャーバレーは昨年、ユーザーが広告をスキップしなかったことで生み出された資金を使って、米国の国立公園に6万6000本の木を植えました」とウィリアムズ氏。「ちょっとした価値交換です。『この広告にちょっと注目してくれたら、当社から寄付をします』と言っているのです」

グッドループは、オンライン広告自体も極力サステナブルなものにしている。具体的には、フォントファイルを圧縮したり、アニメーションを減らしたりすることで、使用するエネルギーを減らすといったことだ。また、デジタル広告キャンペーンによるCO2インパクトを計測するサービスも提供している。カーボンクレジットを購入してインパクトを軽減することも可能だ。

グッドループの軌跡とアドバイス

グッドループのビジネスはどのように始まったのだろうか。ウィリアムズ氏は広告業界での仕事を辞め、南米で女性限定の起業家養成コースに参加した。その際、チリのビーチでグッドループのアイデアを思いつく。英国に帰国した後、新しい広告技術を開発中のダニエル・アペル氏とインターネット上で出会い、新たなビジネスを共同で作っていくことにした。

「それは10月のことでした。クリスマスまでに私たちは出資を受け、グッドループのアイデアをかつて自分のクライアントだったユニリーバに売り込みました。そして私たちは『ユニリーバ・ファウンドリー』というすばらしいインキュベーター(新規事業支援プログラム)に参加したのです」とウィリアムズ氏は語る。「ユニリーバの協力を得るとすぐに、『ザ・ドラム』(マーケティング・メディア業界向け媒体)に連絡しました。トップページに掲載されると、ビジネスは一気に軌道に乗りました」

サービス開始から7年で、同社は世界で800万ユーロを超える寄付を実現している。「世界のトップ100ブランドのうち80%と提携してきました。また広告技術の企業としては世界初となる、Bコープ認証を受けたことも誇らしく思います」。こう語るウィリアムズ氏も、最初はグッドループが、ここまで大きな影響力を持つことになるとは想像していなかったという。

「私がチリのビーチで考えていたビジネスとはかなり違うものになりました。しかし、世界最大級の企業のビジネス力と範囲、影響力を利用するという根本の考え方は変わっていません」

ウィリアムズ氏は、パーパスを原動力としたビジネスを始めようとしている人に向けて、こうアドバイスする。「大きな利益を得ることを後ろめたく思わないでください。多くのソーシャルビジネスに対し、清貧であることが求められているように思います。ミッションが大きくて価値があるあまり、すべての資金がそこに投じられるべきだと考えられるからです。しかし、わずかな利益で事業を行うことは持続可能ではありません。本当に変化を起こしたいのなら、サステナビリティの心配をする前に、まずは持続可能な事業を築くべきです」

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