【最新Q車事情「レストモッド最前線」輸入車編】ABODA GARAGEが取り組むメルセデス・ベンツ SLの「転生」。毎日、乗っても大丈夫(そう)なオーラ、出てます

さまざまな事業を通して「スマートラグジュアリー」な日常を演出するABODA LIFEが、新たにレストモッド事業を始めました。取り扱っているのは、50~60年代のメルセデス・ベンツSLシリーズ。レストアとしての完成度の高さはもちろん、細部にわたって「使える」アレンジも盛りだくさん。毎日、乗り回したくなるヒストリック・メルセデスって、チート過ぎません?

たたずまいは芸術作品。けれど鑑賞するだけでは我慢できない

同じ東京都港区でも、新橋5丁目(編集部がある)とはだいぶ雰囲気が違う南青山の一角。クリスタルスクエア南青山1階にオープンしたABODA GARAGEショールームは、現代アートの展示もあって、どちらかというと美術品のギャラリーのように洗練された雰囲気が漂う空間でした。

190SL ロードスターは、300SLの美しいプロポーションを受け継ぎダイムラー・ベンツのスポーツモデルとして一躍人気者になった。

そこに並べられたSLたちを見た時、真っ先に思ったのは「これはちょっと、ハンドルを握ってみたいかも・・・」ということ。ただしそれは「珍しいクラシックカーだから」というような、単純な理由ではありません。

確かに、現代のクルマでは望むべくもない思わず触ってみたくなるほどに艶めかしいスタイルと、思わず乗り込んでみたくなりそうな瀟洒なインテリアの誘惑は、かなり強烈。ですが、まずはなにより、このクルマたちがいったい全体どんな走りを楽しませてくれるのか・・・まったく予想がつかない未知の存在であることに、激しく好奇心をそそられたのでした。

裏返せば、今どきまっさらの最新モデルに抱く興味津々と、それほど大きな違いはないのかも、と思い至った次第。

片や1950年代半ば~60年代前半にかけて発売されていた190SL ロードスター。片や、第2世代のラインナップに60年代後半追加設定された280SL パゴダ。どちらもそれなりの年月を経ているはずの個体なのですが。

トランスミッションは、フルシンクロの4速MT。クラシカルなラジオチューナーなど、すべてがオリジナルのまま。実は足もとに、スピーカーが配置されている。

ちょっとしたパラドックスに陥った理由は、工業製品としてのたたずまいが、およそ60年以上も前に街を走っていたとは思えないほど「若々しく」見えたから、なのだと思います。

この年代のヒストリックカーというと、普通は乗ったり運転したりするものではなく、遠慮気味に少し離れたところから鑑賞して愛でるのがふさわしい存在です。けれどABODA GARAGEのSLたちは、魅力的な最新モデルに出会った時についつい思い浮かべてしまう妄想=「このクルマと暮らす毎日」が、シンプルに脳裏をよぎったのでした。

ガレージに飾るためではなく、仕事にも遊びにも乗り回して、ついでに街を行く人の注目を心地よく楽しむ。そういう付き合い方が、似合いそうに思えたのです。もっともそんな妄想が、実はそこそこ実現可能性高めだったりするのですが。

なにしろABODA GARAGEのSLは、現代の日本の交通事情の中で毎日乗っても大丈夫、なんです。なぜなら、そういうふうに作られているから。

あえて繰り返します。

「そういうふうに直されている」のではなく、「そういうふうに作られている」んです。

驚くべき復元率とともに現代風のアレンジも。ETCもオプションで

ABODA GARAGEが手掛けるメルセデス・ベンツSLシリーズは、オリジナルに対して90%の復元率を誇ります。スチールやアルミ製主要部品の多くは、丁寧にレストアされたオリジナルパーツに交換、テキスタイルやプラスティックパーツはすべて、新しい素材に交換されます。

奥の方に立てかけられているのが、着脱式のルーフ。だがその重さはそうとうなもので、大人ふたりではちょっと厳しいほど、だという。

直されているのではなく、作られている、と思えるのはそういう意味あいもあって、のこと。想像するだにその製作風景は手作業ではあるものの、ほぼほぼ新車を作る工程と変わりないようなイメージがあります。

製作を担当しているのは、ABODA GARAGEが関連するドイツの「パートナー企業」です。日本向けは初年度で10台の割り当てですが、グローバルでは相当数のオーダーに対応しているとのこと。つまり、かなりの数のマンパワー、それも熟練した職人たちを擁する事業体なのだと想像できます。

加えてこの車両の場合は、MADE IN GERMANYの職人技でレストアされているだけでなく、現代の交通環境に合わせた、さまざまなキャリブレーションが施されているのが特徴です。ABODA GARAGEがこのクルマたちを「レストモッド」(レストア×モディファイの略)と呼ぶのは、そういう背景があるためでしょう。

乗車定員は2名および、4名乗りの仕様があった。トランスミッションは5速MT。

たとえばオーディオ。オリジナルと同じラジオチューナー(190SLの場合。280SLではカセットプレーヤーがついてます)が装備されていますが、実働しません。実際には、目に見えない場所に取り付けられたBluetoothオーディオを介して、スマホなどのコンテンツを聴くことができるそうです。

メカニカルなオプションメニューとしては、「イージーパワーステアリング」(後付けの電動パワーステアリング)やフロントディスクブレーキを用意。毎日乗っても、筋肉痛にならなくて済みそうです。ちなみに280SLでは、エンジンのグレードアップも受付けてくれます。

エキストラオプションとして、ETC車載器がついているのも今どき。ほかに助手席側サイドミラーやセンターアームレストなど、日常遣いに「あるとうれしい」装備を設定しています。まさに至れり尽くせり。

そうした現代的な機能装備が、オリジナルのたたずまいを一切損なわずに装着されていることにも驚かされます。もちろん、実装にはさまざまな試行錯があったそう。たとえばETCのアンテナは、インパネ上部中央にある灰皿の中身を外して、そのスペースに設置されています。ふたを開けようとしなければ、バレません。

安全要件に関しても、しっかり対応しています。190SLは2点式、280SLは3点式のシートベルトが追加装備されていました。タイヤも、クラシカルなホワイトレタータイヤ(190SLはMAXXIS製、280SLはミシュラン製)ですが、コンパウンドなどは最新の技術で作られているのだそうです。

どうです? ますます「毎日、乗りまわしたくなる」でしょう?

素材としてのベース車両のコンディションは、価格に転嫁されず

さて、それでは実際にこのクルマを購入するにあたっての留意点について、いくつか確認してみましょう。

ボディカラー、内装の素材、色まで、多彩なバリエーションからコーディネイトを選ぶことができる。これもまた、レストモッドならではの魅力と言えそう。

注文してから納車までの期間は?

およそ12カ月。購入希望の方は、公式ホームページ( https://www.abodagarage.com/)から来店を予約、店舗での打ち合わせとなります。「そもそもレストアベースとなる個体を見つけるのが大変なんじゃない?」と思われるかもしれませんが、本国では相当数の車両をすでに確保してあるのだそうです。

つまりは、この12カ月という期間は純粋に製造、輸送、日本でのキャリブレーションと走行性能確認、登録といった「決まり事」をこなすのに必要な時間ということ。つまり、そうとう確約された納期だと考えられます。

燃料は? 日本のハイオクでOKです。もちろん、排ガス規制にも対応しています。

保証は? 2年間のワランティがついています。整備、修理などは、ABODA GARAGEの指定工場で対応してくれます。

こうして見てくると概ね、国産の新車を購入する感覚と大きな差はないような気がしてきました。となると、やはり最大のハードルとなるのは、お値段でしょうか。

そちらに関しても、定価ありの明瞭会計なので安心です。ベースとなる車両のコンディションはまったく関係なく、一律のお値段となります。

公式ホームページで掲示されている金額は、190SLが32万ユーロ、280SLは35万5000ユーロ。円安時代が悩ましいところですが、本日のレート(2024年3月半ば)でおおむね5160~5730万円が必要です。はい、やっぱりそのくらいしちゃいます。

もっとも、同じく円安が進んでいるおかげで、輸入車の新車相場そのものも確実に上がっている今、「持っている人」にとっては十二分に現実的な購入対象となりうる金額と言えそうです。しかも、ガレージの肥やしではなく、毎日乗ることができることを考えれば、コストパフォーマンスはそうとう高いのではないでしょうか。

ABODA GALAGEとレストモッド車両の概容

そういえばもうひとつ、購入するに当たって気になることがありました。走行距離はどうなるんでしょうか?

結論から言えば、生産工場を出る時には実質「ゼロkm」です。もちろん輸送時や日本での動作柵人などが行われるので、ある程度の走行がプラスされます。

とはいえ現代によみがえった60’sの名車はもはや旧車のレベルを超え、中古車ですらなく、現代に蘇った新車じゃん!っていう感じですね。

そう、やっぱりABODA GARAGEのSLたちもまた、過去から現代に向けての魅力的な「転生」にほかならず。絶対性能を追求するのは野暮ってもんですが、所有する悦びに関しては間違いなく「チート級」なのでした。(写真:井上雅行)

【ABODA GARAGEについて】

経営母体となる株式会社「ABODA LIFE」は、ホテル、住宅、アートなどの事業を「スマートラグジュアリー」というコンセプトのもと、展開している企業体です。「ABODA GARAGE」は、その新事業として設立されました。代表取締役の髙島郁夫氏は、インテリア・雑貨類の販売を手掛けるブランド株式会社「Francfranc」の創業者。「世の中にない新しいモノやコトを生み出し、誰も見たことのない景色を創りたい」という思いを抱きながら、多彩な事業に取り組んでいるそうです。

購入を希望する場合は、来店での打ち合わせが基本。公式HPの「アポイントメント」から連絡先などを入力して、来店日時を予約。来店して、カスタマイズ全般・オプションその他を打ち合わせ、希望車には試乗も対応してもらえる。

【190SL ロードスターについて】

1955年から1963年まで発売されていた、オープン2シータースポーツカー。「Sport Leight(軽量なスポーツカー)」を略したその名前のとおり、美しいスタイルと優れた走行性能によって、人気を博しました。エンジンは1.9Lの直列4気筒で、最高出力は105hp、0→100km/h加速は14秒、最高速度は170km/hを謳います。

エンブレムも渋めの仕上がり。

【280SL パゴダについて】

190SLの後を継いで登場したのは230SLでした。凹状に湾曲したハードトップに由来する「パゴダ」シリーズと呼ばれる第二世代のラインナップに、途中から追加設定されたトップグレードが280SLです。エンジンは2.8L直列6気筒で、最高出力は170HPに達していました。最高速度は200km/hを謳い、0→100km/hをわずか9秒で駆け抜けます。

マフラーひとつとっても、繊細なデザイン。メッキバンパーとのコンビネーションに、思わずときめく。

© 株式会社モーターマガジン社