奥平大兼、デビュー作で母親役だった長澤まさみと再会「今度は血がつながらない役で共演したいです」進化し続ける二十歳の感性

奥平大兼 撮影:冨田望

『さよなら渓谷』『タロウのバカ』の鬼才・大森立嗣監督が、実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」に着想を得て、長澤まさみさんを主演に放った衝撃作『MOTHER マザー』。同作で、長澤さん演じる母の呪縛から逃れられない息子役を演じた奥平大兼。奥平さんは、初めてのオーディションで勝ち取ったこの役でセンセーショナルなデビューを果たし、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。また昨年はドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』で、改めて大きな注目を集めた。まだ20歳にして大器の予感たっぷりの奥平さんが語るTHE CHANGEとは。【第1回/全4回】

爽やかな白いカーディガンを基調に、穴アキやヨレのあるラフなスタイルで現れた奥平さん。鈴鹿さんとW主演を務めた映画『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』では、金髪の高校生を演じているが、現在は少しふわっとクセの入った黒髪だ。

「正直eスポーツのことは全然分からないのですが、映画はとても面白かったです」と伝えると、「ありがとうございます。よかったです!」と柔らかな笑顔を見せた。

『PLAY!』は、eスポーツに熱中する高等専門学校生による、実話をヒントに生まれた青春物語。『ロボコン』『ホームレス中学生』の青春映画の名手・古厩智之監督がメガホンを取った。

昨年、松岡茉優さん主演、芦田愛菜さん共演により放送されたドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』でも物語のキーを握るキャラクターを演じて高い評価を得た奥平さんだが、やはり奥平さんといえば、鮮烈なデビューとなった映画『MOTHER マザー』が思い起こされる。

『新聞記者』などを手掛けた故・河村光庸氏が企画・製作を手掛けた『MOTHER マザー』は、長澤まさみさんが主演を務め、実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」をヒントに、社会の底辺で生きる親子の現実を描いた。初のオーディションで大役をつかんだ奥平さんは、長澤さん演じる母親に支配され、ちゃんとした教育も受けられず、やがて凄惨な事件を引き起こしてしまう少年・周平を演じ切った。

当時、奥平さんに取材した際、「周平のような役でもすごく楽しかったので、ほかの役をやったらどうなっちゃうんだろうと思ってるんです」と話していた。そのことを本人に伝えると、「え、僕、そんなこと言ってたんですか?」と恥ずかしそうにしながら、実際にさまざまな役を経験したいま、「それぞれ違った面白さがありますけど……」と考えながら、「でも、本当に面白いです」と言い切り、続けた。

「今回の『PLAY!』では、eスポーツ、ビギナーの翔太を演じました。けどそれこそ、翔太も家庭環境があまりよくないという意味では、周平と似通っているかもしれません。でも性格も立ち振る舞いも全然違いますし、まったく別に考える必要があります。それを考えていくのも面白いし、仮に周平をもう一度演じることがあったとしても、周りのキャストの方が違ったりしたら、また全然違ったものになるだろうし、ほかにも無限に広がりがあります。僕はまだ演技をはじめて4年ですけど、お芝居って本当にすごいものだなって思います」

映画『MOTHER マザー』の長澤まさみ、木野花と再会

――たしかに、まだデビューから5年目ですね。それでも変化を感じることはありますか?

「あまり変わっていない気がします。別に意識的に変えていないわけではないですけど。変わったといえば、知識が増えたことですかね。それこそ『MOTHER マザー』のときは、バミリ(役者の立ち位置などに付ける目印)と言われても、なんのことか分からなかったですし。カメラのことも意識したことがなかったですが、今はある程度意識するようになりました。でもそれくらいです。お芝居の仕方も変わっていないし。逆に、ずっと同じ感覚でいられるのは、僕は嬉しいし、忘れたくないと思っているんです」

――『MOTHER マザー』のあと、長澤さんと再会することはありましたか?

「1年か2年ぶりくらいに会いました。“久しぶり~”の様に話しかけていただいて、“お久しぶりです”って。特別なお話はしてないんですけど。阿部サダヲさん(母親と一緒に暮らし始めるホスト)は、あれからまだお会いしていませんが、木野花さんとは違う作品(『ヴィレッジ』)のときにお会いしました」

――『MOTHER マザー』のときは、祖母と孫の関係でしたね。再会したときの感覚は?

「言葉には表現しづらいんですけど、自分の一番最初を知っている人だと思うと、やっぱり何かちょっと違う感覚はあります。木野さんに“大きくなったね”と言って頂いて、すごく嬉しかったですし、3年ぶりくらいだったので“大きくなった”の意味にもいろんな意味があるんだろうし、僕の最初を知っている人だからこその言葉だなと思いました」

――長澤さんと再共演するなら、どういった役で対峙したいですか?

「なんだろう。先生と生徒とかがいいですかね。今度は血がつながっていない役を演じてみたいです」

まだ5年目。長澤まさみだけでなく、多くの先輩や、鈴鹿央士といったキャリアを同じくする俳優たちとも、再共演する機会が出てくるだろう。どんなジャンル、関係性だろうと、こちらとしては楽しみだ。

奥平大兼(おくだいら・だいけん)
2003年9月20日生まれ、東京都出身。2020年、『MOTHER マザー』で長澤まさみ演じる秋子の息子・周平を演じてデビュー。同作にて第44回日本アカデミー賞新人俳優賞、第94回キネマ旬報ベスト・テン 新人男優賞、第63回ブルーリボン賞新人賞、第30回日本映画批評家大賞新人男優賞を受賞した。2023年度は、『あつい胸さわぎ』『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』『ヴィレッジ』『君は放課後インソムニア』にて第15回TAMA映画賞最優秀新進男優賞に輝いた。ほか主な出演作に映画『マイスモールランド』『パレード』(Netflix)、ドラマ『恋する母たち』『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』など。鈴鹿央士とW主演を務める映画『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』が公開中。3月26日にドラマ『ケの日のケケケ』(NHK総合)が放送予定。

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