津田健次郎「僕のTHE CHANGEは、“表現との再会”です」“イケボ”声優としての成功がもたらした俳優への再挑戦

津田健次郎 撮影:有坂政晴

キャリアを重ねるにつれ、職業づけするのが無意味に思えてくる津田健次郎。声優に俳優、ナレーター、さらに2019年には映画監督としてもデビューした。そもそもは声優として、アニメ『呪術廻戦』の七海建人、『ゴールデンカムイ』の尾形百之助、『極主夫道』の龍と、様々な役でその存在を知られ、いまや連続テレビ小説『エール』、連続ドラマ『最愛』を皮切りに、特に2020年以降、俳優としても引っ張りだこ。そんな津田さんのTHE CHANGEとはーー。【第1回/全5回】

「大丈夫ですか?」

昼下がりの午後。スマートにふるまう男性の“イケボ”がスタジオの通路に響く。声の主は津田健次郎である。

その日、スタジオは取材者でごった返していた。するとひとりの女性記者が、ロールスクリーンカーテンにリュックの端を引っかけてしまった。そこに津田さんがあのイケボで現れ、絡まりを外してあげたのだ。

さすが、いまエンタメ界を股にかけてノリに乗る男、取材前から印象付けてくる。1995年に声優デビューした津田さんだが、もともとキャリアのスタートは俳優だった。たまたま声優としてのオーディションに受かったことから縁が続き、『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』『テニスの王子様』など、声優として大成。厚い支持を得てきた。

現在も、『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』をはじめ、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』と劇場アニメ作品が続く。さらに近年は俳優としても大活躍。今年も1月期ドラマ『グレイトギフト』、森崎ウィンが監督を務めたWOWOWのアクターズ・ショート・フィルム4『せん』、公開中の『映画 マイホームヒーロー』に出演。声優としての代表作のひとつに挙げられる『ゴールデンカムイ』の実写化作品でナレーションを務めたことも話題になった。

映像作品への参加が増えたあとも、声優としての仕事も減っていない。むしろそちらも勢いが増しているかもしれない。大変な忙しさである。

――声優業と俳優業では現場での雰囲気も違うと思いますが、映像作品への参加で影響を受けたことはありますか?

「実写の映像をやらせていただくようになって、改めて芝居を見つめ直せたと思います。自分が思う“本当に素敵な芝居って”“すごい芝居ってなんだろうか”と。本当にまだまだだなと心の底から思える。すごくいいきっかけになったと思っています」

ドラマのヒットを呼び込んだのは作品への“愛”

――違う現場に出たことで、それぞれの仕事への還元や相乗効果は感じますか?

「もっと豊かでもっと自由な表現。もっと力を抜いて“捨てて”いくことをより意識するようになりました」

――捨てていくこと、ですか?

「はい。ひとつの大きなテーマです。映像の芝居として、声優として培ったものや、自分だからこそ出せる強みもあると思いますが、あまり意識していません。それと“ああやろう、こうやろう”というのは、芝居のビジョンとして大事なことですが、そういったことを捨てていくことは、それ以上に大事なことですし、同時に難しいことだと感じています。
そして言葉にするととても青臭いようですが、近年の映像作品への参加で、作品や表現がよくなるために必要なのは“愛だな”という実感に、もう一度出会うことができました」

――ステキですね。そう感じる出来事があったと。

「作品やキャラクターに対して、すごく愛の深い俳優さんやプロデューサー、監督、作家さんがいらっしゃることによって、作品がものすごくよくなる。あるドラマでとても実感しました。そこで、特にチーフのディレクターとプロデューサーの方が、とても愛を持って臨んでいることがビシビシ伝わってきたんです。
僕の演じたキャラクターや、俳優としての僕自身についてもすごく考えてくれて、“こういう動きをしましょう”“こうするともっと膨らむと思うんです”と、考えていってくれました。本来、そういったことを考えるのは役者の仕事だと思っていたのですが、そのとき、自分が思ってもいない演出を受けることで、“ああ、僕がやらせていただいているのは、そういう人物なんだ”と発見があったりして、コラボ感がすごく面白かったんです。実際にそのドラマはヒットしましたし、それを呼び込んだものは“愛なんだな”と感じました」

正直、愛のない現場も体験してきました

――愛の偉大さを肌で感じたんですね。

「昔から情熱や愛情が作品を良くしていくと言いますが、そりゃそうだよなと。正直、愛のない現場も体験してきました。お金を第一に考えることも重要ですし、仕事ですから稼ぐことは大事です。でも根本にどれだけ愛があるかで、やっぱり変わります。見た目には分からないことかもしれないけれど、神は細部に宿るというか、魂は細部に宿る。筋には関係ないんだけど、作品の隅々、ディテールに生きてくるんですよね。それがやっぱり観る方たちにも伝わるのだと思います。
頭で理解していないとしても、どこか違う部分で、肌で感じて“なんかいいよね”って。その“なんか”が大事なのかなと。だから僕も、丁寧に、愛を持ってものごとにあたりたいと思っています」

――作品作りのベースに立ち返ったと。

「このふたつはとても大きいです。芝居と改めて出会えたことと、作品や表現が立ち上がる根源には“愛情”が必要だということ。いずれにせよ、近年の僕のTHE CHANGEは、“表現との再会”です」

表現との再会。それは役者としてとてつもなく大きな出来事だろう。言葉を裏付けるように、ばく進中の津田さんだが、本人的には「まだまだこれから」といったところなのかもしれない。

津田健次郎(つだ・けんじろう)
1971年6月11日生まれ、大阪府出身。1995年に声優デビュー。近年は俳優業でも活躍。声優業の近年の代表作として、『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』や『薄桜鬼』『ゴールデンカムイ』『呪術廻戦』『チェンソーマン』など。俳優業として、2020年のNHK連続テレビ小説 『エール』(兼ナレーション)、ドラマ『最愛』『ラストマン-全盲の捜査官-』『大奥 Season2』、映画『映画 イチケイのカラス』『わたしの幸せな結婚』『映画 マイホームヒーロー』など多数。

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