『アイのない恋人たち』“愛してるの響き”をいつまでも胸に 踏み出す勇気をくれた最終回

恋愛に奥手な若者たちが増えていると言われる昨今。SNSやアプリで一見繋がりやすくなったように見える現代社会の中で、それでも多くの人が孤独や不安を抱えながら生きている。

令和の若者たちの間に漂う漠然とした不安の本質を、7人の等身大の若者の姿に重ねて丁寧に描いてきたドラマ『アイのない恋人たち』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が、最終回を迎えた。

最終回では、これまで紆余曲折を経てきた登場人物たちの関係性に、ついに決着がつけられる。仕事や夢、家族との関係に悩みながらも、それぞれの道を歩み始めた彼らが辿り着いた答えとは一体何だったのか。

冨田栞(成海璃子)を追って長野へ向かった淵上多聞(本郷奏多)は、“スマホ”がないからこそ見えた景色を栞に話す。「真和や雄馬に負けないように、本当に自分がやりたい仕事を見つけたい」と語る多聞は、有機野菜を使ったオーガニックカフェを栞と共に始めることを提案する。その積極性は、彼がかつて“アイ(自分)”がないと悩んでいたなんて、もはや信じられないくらいだ。栞との結婚を見据えた交際も始まり、男子3人の中でももっとも恋愛に奥手だった多聞の成長も感じられた最終回となった。

一方、近藤奈美(深川麻衣)と郷雄馬(前田公輝)は、結婚への第一歩を踏み出す。奈美の母親の反対に向き合う中で描かれたのは、依存し合う母娘が傷つけ合う姿ではなかった。「これからは精一杯恩返しします。今まで私のことをたくさん愛してくれてありがとう」という奈美の言葉からは、恋愛だけでなく家族愛をも丁寧に描いてきた本作の真骨頂が感じられたのではないか。

そして、視聴者が最も気になっていたであろう愛(佐々木希)と絵里加、真和(福士蒼汰)の三角関係にも決着がつく。「俺は今村絵里加を愛しています」というトレンディな告白シーンは、福士蒼汰の演技も相まって極上の胸キュンシーンとなった。一方、振られた愛は「稲葉愛が初恋の人なのが、俺の人生の誇りだ」という言葉を受けて、爽やかに去っていく。失恋シーンとは思えないほどの清々しさを感じさせたのは、愛と真和の間に信頼関係があるからなのだろう。

全9話にわたって本作の脚本を手掛けたのは、『女王の教室』(日本テレビ系)、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)など数々の話題作を生み出してきた遊川和彦。遊川は、本作について「今の若い人には、恋愛に関心がない人が増えているそうですよ」という監督の言葉から着想を得たと語っている。

「なぜ恋愛しなくていいかといえば、ひとりの方が楽で、他にいろんなものがあるから。そこを全く自分は描けていないと分かった。恋愛関係が大事だと決めつけていたし。それで、『話を変えさせてくれ』とプロデューサーに頼みました」(※)

だからこそ本作では、アラサー男女7人が、それぞれの恋愛観だけでない家族の問題を抱えながらも、愛し合おうとする姿が丁寧に描かれたのだろう。SNSやアプリで繋がりやすくなった現代だからこそ感じる孤独や不安。そんな中で登場人物たちは、人を愛することで他者を理解する以上に自分自身のことを知っていく。『アイのない恋人たち』は、そんな現代の若者の生き様を切り取った、まさに“今”を描くドラマだった。

視聴者の中には、仕事に悩む多聞や、家族との関係に悩む奈美など、それぞれのキャラクターに共感を覚えた人も多かったはずだ。SNSでは、毎話放送終了後に「自分は〇〇に似ている」「〇〇の気持ちがわかる」といった声が多数上がっていた。それは、遊川が丁寧に描き出した等身大の若者たちの姿が、リアリティをもって視聴者の心に響いたからに他ならない。

最終回で真和たちは自らの選択で新たな一歩を踏み出し、それぞれの「幸せ」を掴んでいく。彼らの成長と変化の物語は、現実の世界で同じような悩みを抱える若者たちにとって、一つの道しるべになったのではないだろうか。

もちろん、現実の恋愛や人生は、ドラマのようにすべてがうまく収まるわけではない。時には辛く苦しい経験をすることもあるだろう。挫折や失敗、別れの痛みに直面することもあるかもしれない。だが、『アイのない恋人たち』の7人が私たちに教えてくれたのは、そんな逆境の中でも、誰かと繋がり、愛することの尊さなのだ。

最後に7人が紡ぐ「ここにいる」というセリフが、「(それでも僕らが)ここにいる」と聞こえたのは私だけではないはずだ。たとえ孤独や不安に苛まれても、私たちは一人ではない。誰かと繋がり、愛し合うことで、再び立ち上がる力を得ることができるのだと、彼らは示してくれたのかもしれない。

〈“愛してる”の響きだけで 強くなれる気がしたよ〉

ドラマの放送が終わり、私たちの日常に別れと出会いの春がやってくる。新しい生活に踏み出す人もいれば、大切な人との別れを経験する人もいるだろう。それでも恐れることはない。ふと寂しさや不安に襲われた時には、どこかの桜の木の下から聞こえる、“愛してる”の響きが勇気をくれるはずだから。

参照
※ https://www.asahi.com/articles/ASS3163QZS2WUCVL00G.html

(文=すなくじら)

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