米国「半導体供給網」分散へ…「フィリピン」への巨額投資を示唆

写真:PIXTA

一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、アメリカからの大きな投資が動き始めましフィリピンの最新情報をレポートします。

米・商務長官「フィリピンの半導体工場、2倍へ」

3月12日(火)、アメリカ合衆国商務長官のGina M. Raimondo 氏はマカティ市で開催されたビジネスフォーラムで「アメリカ企業は、自社のチップのサプライチェーンが世界中のほんの数ヵ国に集中しすぎていることにリスクを感じている」と述べました。「なぜ私たちは、1つか2つの国からのみ大量のチップを購入することを許しているのでしょうか? だからこそ、多様化が必要です。そして今がそのタイミングであり、フィリピンにとってチャンスなのです」と付け加えています。

フィリピンには現在、13の半導体組み立て、テスト、パッケージング工場がありますが、同氏は「工場数を倍増させましょう。今は成長のタイミングです。フィリピンには才能があり、専門知識があります」と語り、フィリピンはとサプライチェーンの多様化を高めたい企業にとって最優先の国であるとしました。

米貿易産業省(DTI)は「工場数を倍増させるという目標は達成可能である」とし、目標は半導体産業のために120,000人のエンジニアを育成すること、フィリピンの最大の魅力は人材であり、スキリングとアップスキリングが重要としています。

フィリピンは、アメリカ合衆国が CHIPS and Science 法に基づき、半導体サプライチェーンの多様化のために提携している7ヵ国のひとつです。ちなみに同法律で提携先となっている国は、インド、韓国、ベトナム、台湾、日本、シンガポール、イスラエル。この法律に基づき、アメリカは、チップ製造を支援し、中国での工場を持つチップメーカーをアメリカまたは他の友好国に移転させるために、527億ドルの連邦補助金を提供する予定です。

一方で、フィリピンアメリカ商工会議所(American Chamber of Commerce of the Philippines)は、フィリピンの課題は、高エネルギーコストと安定した電力供給だと指摘しています。もしウェハー工場や半導体工場が一時的にも停止すると100万ドル相当の損失になる可能性があるからです。

米貿易産業省(DTI)は現在、一定額を投資すれば所得税の還付を受けることができる仕組みを作っており、これによって高エネルギーコストをカバーするのに役立つという措置を取っています。

22の米国企業による「貿易投資使節団」フィリピン訪問

米貿易産業省は、10億ドル以上の投資をコミットした22のアメリカ企業の幹部で構成されるアメリカ合衆国大統領貿易投資使節団を率いてフィリピンを訪れました。

この使節団には、GreenFire Energy, Inc.、Google、Black & Veatch Corp.、Visa, Inc.、President’s Export Council、EchoStar、InnovationForce、United Airlines、United Parcel Service (UPS)、Boston Consulting Group、KKR、Marquis、Sol-Go、Capital One、US-Asean Business Council、Bechtel、Apl.de.Ap Foundation International、FedEx、Mastercard、Microsoft Corp.、Ultrapass ID、Ultra Safe Nuclear Corp.などの幹部が含まれ、これらの企業は「フィリピンに新たに多額の投資を行う準備がある。それは巨額投資を行うための素晴らしい基盤があるから」としています。

貿易使節団の一部のメンバーは、ビジネスフォーラム開催中に、フィリピン政府やフィリピン企業とのパートナーシップを発表しています。発表されたパートナーシップの一つは、UltraPass ID がフィリピン予算管理局(DBM) とフィリピンのIT企業NOW Corp.と覚書を締結したものです。

米国とフィリピンの同盟は盤石であり、72年以上にわたって維持されており、引き続き強固な友人であり、繁栄におけるパートナーであるとRaimondo商務大臣は述べています。貿易使節団を通じて電気自動車教育センター、太陽光発電および原子力プロジェクト、そして新しい航空路線が発表されるだろうと話しました。

またフィリピン貿易産業大臣・Alfredo E. Pascual氏は、2つのアメリカ企業がフィリピン人労働者のスキルアップを支援することを申し出ていると述べました。同大臣は、今回の使節団に参加しているMicrosoft や Google などの企業は、デジタル変革と開発を促進する上で主要なプレーヤーであり、また、フィリピン人労働者のスキルアップを支援するための専門知識を提供していると述べました。また、これらのトレーニングプログラムはフィリピン人労働者がサイバーセキュリティ分野で優位性を得るのに役立つと見られています。世界的にサイバーセキュリティ人材に対する需要が高まっており、もしフィリピンが市場シェアを獲得し、フィリピン人が世界で最高のサイバーセキュリティ人材として認められるようになれば、何百万ものフィリピン人にとって素晴らしい雇用機会になると期待されています。

さらに同大臣は、貿易使節団を構成する22のアメリカ企業の幹部が、マルコス大統領と、物流、半導体、再生可能エネルギーなどの分野における投資と拡大計画について話し合ったと述べました。話し合いでは、FedExやUPSなどの物流大手の事業拡大、半導体エレクトロニクス製造業への支援、地熱や太陽光などの再生可能エネルギー事業への投資などに焦点が当てられました。これらの投資はさまざまなスケジュール感で行われることになり、スキルアッププロジェクトはすぐに開始できる可能性がある一方で、Ultra Safeの原子力プロジェクトは今後5~7年程度もタイムスパンで実現する見込みだとしました。

一方でフィリピン側から氏は、衣料品製造業者に関する懸念事項が提起されました。この問題は、アメリカがウイグル少数民族による強制労働で摘み取られたとされる中国新疆産の綿花を使用した衣料品を禁止する動きから生じたものです。

アメリカには、強制労働によって生産された商品を購入することを禁止する法律がありますが、フィリピンの衣料品会社が使用している綿花は中国からではなく、ブラジル、トルコ、そしてアメリカ自身から供給されてるため、フィリピンからの衣料品の使用は禁止されるべきではなかったとフィリピン側は提起しています。

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