円安再燃。米ドル/円は「1ドル150円」を試す展開も…米ドル高・円安は「この水準が限界」といえるワケ【国際金融アナリストの見解】

(※画像はイメージです/PIXTA)

米ドル/円は、先週3月11日(月)に146円台をつけると、その後は一方向に円安が進み、足元では節目となる「1ドル150円」を試す展開となっています。年初来の円安更新も視野に入るなか、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は、「年初来の米ドル高・円安を更新するのは難しい」といいます。その根拠について、詳しくみていきましょう。

3月19日~25日の「FX投資戦略」ポイント

〈ポイント〉

・先週は米インフレ指標の予想より強い結果を受けて米金利上昇、それに連れる形で米ドル/円も149円まで反発。

・今週は火曜の日銀会合、水曜のFOMCに注目が集まり、米ドル高・円安をトライする可能性が高そう。

・ただ年初来の米ドル高値更新には至らないとの考えから、今週の米ドル/円の予想レンジは148~151円で想定したい。

先週の振り返り…前週から一転、米ドル高・円安に戻る

先週の米ドル/円は、火曜日以降ほぼ一本調子で149円台まで上昇しました。CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)といった米インフレ指標が予想より強い結果となったことから、米利下げ期待が後退、それを受けた米金利上昇に伴う金利差米ドル優位拡大に沿った展開だったと言えるでしょう(図表1参照)。

[図表1]米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

もうひとつのポイントは、前週の146円台までの米ドル急落に大きく影響した、米ドル買いポジション手仕舞い売り圧力の低下です。

ヘッジファンドなどの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(対米ドル)は、2月末には13万枚以上に拡大し、経験的には米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念が強くなっていました(図表2参照)。そういったポジションの損益確定の動きが急拡大したことが、一時146円台まで米ドルを急落させた大きな要因だったと考えられます。

[図表2]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

ところで、ヘッジファンドは過去半年平均が売買転換点の目安になっているとの見方があります。具体的には、過去半年平均、週足なら26週MA(移動平均線)、日足なら120日MAを割れると米ドル売りが広がり、上回ると米ドル買いが広がるということです(図表3参照)。

[図表3]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

過去半年平均、120日MAは足下で147.8円程度。その意味では、先々週は120日MAを割れたことで、テクニカルに米ドル買いポジションの手仕舞い売りが加速した可能性はあったでしょう。

一方先週は、上述のように米金利上昇、米ドル買いが広がるなかで、この120日MAを一転上抜けることになりました。これにより、前週とは逆にヘッジファンドなどの米ドル買いポジションの手仕舞い売り圧力が低下し、米ドル反発が広がりやすくなった面もありました。

今週の注目点…日銀会合、そしてFOMC

今週は、先進国と新興国とも金融政策決定会合が集中する予定となっています。そのなかでも特に注目を集め、相場が大きく動くきっかけになりえるのは、やはり火曜日の日銀、そして水曜日のFRB(米連邦準備制度理事会)の会合でしょう。

日銀は、今回の会合でマイナス金利解除など現在の大規模な金融緩和の見直しを行うとの見方が強くなっています。では、これを受けて「円金利上昇=円高」に動くかといえば、それは限定的でしょう。

私は、現在の米ドル/円を取り巻く状況は、大幅な金利差のなかで円売りが「バブル化」した2007年と似ていると考えています。

ところで、この2007年にかけて、日銀はゼロ金利解除、さらに追加利上げに動きましたが、そのなかでも米ドル高・円安の流れは変わりませんでした。これは、大幅な金利差のなかでは、日銀の政策変更が為替に与える影響が限定的であることを示しています。

そんな2007年にかけてと最近の米ドル/円を取り巻く状況は、大幅な金利差が象徴的なように似ていると思います。その意味では、今回も日銀マイナス金利解除の円金利上昇、円高への影響はやはり限定的でしょう。

次に水曜日予定のFRBの会合、FOMC(米連邦公開市場委員会)について考えてみます。FOMCは、2回に1回、メンバーの経済見通し、「ドット・チャート」を公表しますが、今回はそのタイミングになります。

そこで、前回の「ドット・チャート」で2024年中に3回の利下げ見通しとなっていたところから、足元までの経済状況の変化をみていきましょう。

まず、景気は予想以上に底固く推移しています。また、株価も最高値圏での推移が続き、さらにインフレ懸念も微妙に再燃の兆しが出てきています。これらの状況から、この利下げ見通しを2回以下に下方修正する可能性が注目されています。

もしも実際に利下げ見通しが下方修正されたら「米金利上昇=米ドル高」を試す可能性があります。

とはいえ、米ドル/円は5年MAかい離率でみると、すでに循環的な高値圏に達しています(図表4参照)。

[図表4]米ドル/円の5年MAかい離率(1980年~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

また、CFTC統計の投機筋の円ポジションは、一時に比べて米ドル買い・円売り「行き過ぎ」が修正されたものの、先週の段階で円売り越しが10万枚程度となっており、なお米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」圏にあります。

以上のように見ると、米ドル高・円安トライとなった場合でも、その動きには自ずと限界があり、年初来の米ドル高・円安を更新するのは難しいでしょう。

以上を踏まえて、今週の米ドル/円の予想レンジは148~151円中心で想定します。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

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