「あとは君に任せた」の言葉を鵜呑みにして大失敗…オーナー会社の後継者に必要な「裏スキル」3選【キャリアのプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

オーナー企業の後継者になるにあたっては、さまざまなスキルが求められます。なかには「そんなことまで必要なの?」という意外なポイントも。そこで今回は、東京エグゼクティブ・サーチの代表取締役社長・福留拓人氏が、教科書的な内容ではない「後継者にとって本当に必要なスキル」をお伝えしていきます。

オーナー会社の後継者に必要なスキルとは?

最近は後継者不足からくる事業承継の問題が大きく扱われるようになってきて、以前よりM&A(会社や事業の売却)も注目されるようになりました。後継者を会社の内外から抜擢して、企業の存続を図ろうとする創業者やオーナーの決断も昨年あたりから急激に増えてきたのを実感しています。後継者については必ずしも外部から招くわけではなく、社内の優秀な人材に託すことが期待できる場合もあります。

こうした背景から、本記事では「オーナー会社の後継者に必要なスキル」についてご紹介してみたいと思います。このテーマでお伝えしようと思うと無限に項目が出てきてしまうので、ここでは、みなさまがご存知のスキルやノウハウとは違う視点から解説しようと思います。本音の部分に立った内々の裏側というところでしょうか。多少ドロドロとした本音も、みなさまの興味があるところだと思います。

(1)オーナーを後ろから刺さないこと

オーナー会社の後継者に必要なスキルの1つ目は、「オーナーを後ろから刺さないこと」。一般的に、オーナー経営者は警戒心や猜疑心が強く、疑り深い人物が多いようです。そして余人がなかなか想像できないような独特な考えを持っています。経営者として持っているステイタスや資産というものからは、想像のつかない面があるものです。ですから、「後ろから刺すようなことはしない」ことが肝要です。

どういうことかというと、表面上は上手にコミュニケーションを取っていながら、クーデターを画策するようなことをするなということです。オーナー経営者は後継社長等に権限を与えても、役員や社員が徒党を組んで自分を追い落とそうとするようなことは許しません。その気配を感じると異常に警戒するのです。次期社長を後継者として抜擢してからも、スパイのような人物を社内に送り込んで、自分を裏切ろうとしていないかと目を光らせています。後ろから刺そうとしても、不思議なことに企みは露見します。

ですから、後ろから刺そうとしないことがいちばんです。オーナー経営者は会社への忠誠心が強く、事業を大きく発展させることを最優先としているように見えますが、本音のところはそれよりも「自分が刺されないこと」にすべてをかけています。つまり、自分の不要論などを決して社内外に醸成させないということです。自分の権威を傷つけるような言動をしていないかどうか、これを後継者の第一条件にしています。これには後継者も注意したほうがよろしいかと思います。

(2)自分の没後、残された家族を大事にしてくれるかどうか

オーナーは、自分が亡くなったあとに残される家族のことを憂う気持ちが強いものです。また、自分が亡くなったのをよいことに、後継社長がまるで最初から自分がオーナーであるかのように振舞って暴れまわるようなことを良しとはしません。自分という絶対的存在が消えても、ある程度、自分の家族に温かく接してくれるかどうか。そうした気くばりや心くばりができる後継者を望むわけです。

温厚、穏便、誠実な人柄を有しているかどうか。これは能力が高く会社の業績を伸ばせるオーナーの優先事項とは違った意味合いがあります。オーナー会社という環境のもとで後継候補になっている場合は、オーナーの家族との人間関係も生前からよくしておくことを心掛けたいものです。

株式等をすべて手放した場合は別にして、多くの場合、オーナーの持っていた株式は相続の問題で家族に譲渡されることになります。そういう意味でも、将来的にいろいろなことを円満に運ぶには、念入りなコミュニケーションが大切です。創業家の方が相続税対策で株式を売却する際に、自社に売ってくれるか、第三者に売ってしまうかの分かれ目になります。

細かな手続きも出てくるため、オーナー一族との人間関係をしっかり醸成しておくようにしたいものです。昨今の日本では、こういうことをきちんとできる人は少なくなってきているので、時代が変わっても昭和を見習う必要があるかもしれません。人と人との心のつながりというのは、大事にしていくべきではないでしょうか。

(3)任せたと言われても「ほう・れん・そう」を怠らない

すでに会長に退いた創業者から、「〇〇くん、あとは社長の君に任せたから、ぼくのことは気にせずしっかりやってくれたまえ」と言われたとします。すると、後継社長は「全権委任された」と思うのではないでしょうか。実は、私もこれで何回も失敗しました。

オーナーに権限委譲されたと思っても、オーナーは、これを簡単に撤回します。言ったことを忘れていることも多いのです。そして非常に細かいことも報告・連絡・相談がないと烈火のごとく怒り、不信感を持ち、それが積み重なると失脚の要因にさえなります。

「君に任せた」と言われたあとは、それを拡大解釈せず、経理、財務、人事のことなどを一層こまめに「ほう・れん・そう」するようにします。任せたといわれてから3年ほどは、オーナーとのパイプをむしろ太くするように心掛けるべきでしょう。

これをしなかったことで、たくさんの雇われ社長が解任されていることをお忘れなく。「君に任せた」は忘れていることもあるし、試している場合もあります。特に経理や人事は権力の源泉ですから、この2つをオーナーが同時に手放すことは経験上あり得ないことだと私は思っています。

また、「任せた」と言われたとたん、後継社長の使うお金が増えたという話もよく聞きます。放蕩経営をしているといううわさが経理から聞こえはじめたら、これはもう社長失脚のタイミングです。

ここまでご紹介したオーナー会社の後継者に必要なスキルは、おそらくみなさまが文献などで学ぶのとはまったく違う3項目だったと思いますが、実はこれが現実です。これからもオーナー経営者と上手に付き合うための、生きたスキルをご紹介していきたいと思いますので、参考にしてみてください。

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長

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