マクロン仏大統領、なぜハト派からタカ派へ……ロシアのウクライナ侵攻に対して

ヒュー・スコーフィールド、BBCニュース(パリ)

いったいエマニュエル・マクロン仏大統領に何があったのか? なぜいきなり、ロシアとウクライナの問題について姿勢を変えたのか。かつては和平仲介を模索していたはずが、なぜここへきて、欧州全体を巻き込むような好戦的な発言をしたのか。

欧州各国の首脳が、マクロン氏の変化に首をかしげている。そしてマクロン氏本人は自ら率先して、反プーチン勢力の欧州代表となった。

バルト諸国やポーランドといった国々は、マクロン氏が自分たちと同じように、ロシアの意図を「現実的」に見極めるようになったと、その転身を歓迎している。

他の国では、特にドイツのオラフ・ショルツ首相を筆頭に、フランス大統領がいきなり好戦的になったと、あっけにとられて青ざめている。

誰もが混乱して、不安な思いでいる。マクロン氏のこの新しい姿勢は、どこまで本物なのか? 最近になって彼がウクライナ派兵の可能性を排除しなかったのは、人の意表を突くことが好きなマクロン流の立ち回りなのか? 外交舞台でどうしても目立ちたがる、そうせずにはいられない彼特有の。

あるいは、この新しい姿勢はどこまで純粋に政治的なものなのか?

欧州では今年6月に欧州議会選挙が行われる。フランスでは現時点で、極右マリーヌ・ル・ペン氏とジョルダン・バルデラ氏が、マクロン派の候補たちを打ち負かす勢いだ。

だとすると、マクロン氏は自陣と対立陣営の間にくっきりと線を引くために、ウクライナを利用しているのだろうか。自分は明確にウクライナ支持だと示すことで、ル・ペン氏が過去にいかにロシアと曖昧模糊(あいまいもこ)とした協力関係にあったか、対比を鮮明に示そうとしているのか。

フランスで14日夜に生中継されたインタビューで、確かにこうした大事な問題も議論の俎上(そじょう)に上っていると、大統領は認めた。

しかし、典型的なマクロン話法で、大統領は聞き手をなだめようとするどころか、持論をむしろ力説した。ロシアへの危機感を新たにしたのはなぜか、主張を薄めるどころか、むしろその危機感をマクロン氏は解説した。

自分がハト派からタカ派に急に転身したことについて、大統領は特に悪びれる様子もなく、どちらかに転じるにはまずは逆の立場でいる必要があったのだと説明した。

敵に手を差し伸べるため万策を尽くして初めて、この敵は和睦の余地などないどうしようもない相手だと、結論することができるとマクロン氏は述べた。

さらに……と、マクロン氏は自分の正当性を説明し続け、ロシアによる侵略行為は新しい段階に突入したと語った。

クレムリン(ロシア大統領府)はこの数カ月で「あからさまなほど強硬姿勢」に転じたと、マクロン氏は指摘した。永続的な戦時経済体制を確立し、国内の反体制派の抑圧を強化し、フランスなど諸外国へのサイバー攻撃を激化させていると。

ウクライナの苦境が悪化し、アメリカがもはや協力国として頼れなくなった以上、欧州は新しい世界に足を踏み入れているのだとも、マクロン氏は述べた。

そしてそれは、「かつてあり得ない思っていたことが、実際に起きてしまう世界」だと。

だからこそ、この新しいマクロン主義によると、フランスと欧州は備えなくてはならないのだという。死にゆく時代に確かだったはずの安穏な状態から、いっきに目覚めて、頭を切り替え、新時代の厳しい現実に立ち向かわなくてはならないと、マクロン氏は述べた。

あえてチャーチル的な物言いでマクロン氏は、平和を維持するためには欧州は戦争に備えなくてはならないと力説した。

そしてマクロン氏は常にそうだが、彼の論理に非の打ちどころはない。その主張には常にすきがない。

しかし、マクロン氏は常にそうなのだが、この疑問もつきまとう。彼の言うことに相手は納得するかもしれないが、果たして相手を説得できるのだろうか?

このフランスの指導者は常に、その頭脳力においてはずば抜けて優れている。それは明らかだ。しかし、その傑出した英明ぶりを、指導力という別の能力に転換できるのか。その点において、マクロン氏はたえず苦労してきた。彼に人は従うのだろうかという、そのリーダーとしての力の部分で。

そしてこの問題について言うなら、他の諸国がマクロン氏に続くのかどうか、とてもではないがはっきりしない。

特に顕著なのが、欧州で最も近い関係のはずのオラフ・ショルツ独首相との温度差だ。

フランスとドイツは長年の慣習に沿って、今では表向きは関係を修復し、共同戦線を張っている。そうでなくてはならないからだ。だからこそマクロン氏は15日にベルリンを訪れた。

しかし、両首脳がどれだけ男らしく抱擁(ほうよう)し合ったとしても、根本的な不和は隠しようもない。

フランスは、ドイツのウクライナ支援がのろのろしすぎていると批判する。そして、ドイツがわざと現実に目をつぶり、アメリカの安全保障の傘は恒久的なはずだとしがみついていると。

逆にドイツは、フランスが無謀に好戦的で、偽善的だと批判する(実際にはフランスからのウクライナへの武器提供はドイツよりはるかに遅れている)。そして、いかにもこれみよがしなマクロン流のスタンドプレーだと。

しかしフランス国内でも、マクロン大統領の対ウクライナ方針への支持は、本人が期待するほど確かなものはない。

世論調査によると、約68%が西側の部隊をウクライナに派兵するという大統領の案に反対している。さらに全般的な話では、調査会社IFOPの世論調査によると、ほとんどの人はロシアに明確に反対しているものの、「ウクライナへの支持は低下を続けている」のだという。

そして、マクロン氏がいきなり対ロ強硬姿勢をとったことの背景に、選挙という文脈があるとするなら(極右の対ロ姿勢がいかに矛盾に満ちたものかを強調するためという)、それはあまりうまくいっていないようだ。世論調査では、ル・ペン氏率いる「国民連合(RN)」の支持率は右肩上がりだ。

欧州筆頭の反・融和リーダーに転身することで、マクロン大統領はまたしても新境地に足を踏み入れた。

彼は先頭に立ち、欧州人に自分たちの安全保障について熟慮するよう迫っている。まもなくどういった犠牲が必要になるかもしれないか、しっかり考えるようにと。

これはいずれも、歓迎すべきことだ。

しかし、彼のやることに否定的に反応する人が、あまりに多い。それが、マクロン氏にとっての難題だ。

マクロン氏は自分を信じている。それを大勢が毛嫌いしている。そして、欧州や世界にとって正しいことを、フランスにとって正しいこと、あるいは自分にとって正しいことと混同しすぎではないかと、多くの人がいぶかしんでいる。

(英語記事 Macron switches from dove to hawk on Russia's invasion of Ukraine

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