「中絶も進められた」難病を抱える5歳の息子を支える母親 「生きたいだけ、生きたらいい」その思いに迫る

生まれてくる子どもに重い疾患があるとわかったとき、家族にはどのくらいの覚悟が必要になるでしょうか。

今回紹介するのは『チャージ症候群』をもつ5歳のたけちゃんと、お母さんのみきこさん(@hobonichi_takechan)。みきこさんはInstagramにて、日常的に医療的ケアが必要であるたけちゃんとの暮らしを発信しています。

SNSの発信について、みきこさんに話を聞きました。

チャージ症候群

チャージ症候群は遺伝子変異により成長発達の遅れ、視聴覚障害、多系統の内臓疾患を伴う先天異常症候群です。
チャージ症候群があるたけちゃんは呼吸できない、食べられない、声が出ないという状態で生まれてきました。喉、口、目、心臓などそれぞれ多くの疾患を持っています。

医者からも「心疾患を患っており、起き上がるだけの体力はつかないだろう」と言われていたようですが、身体の発達とともに心臓も少しずつ成長しているとのこと。よくはならないけど、悪くもならない一進一退の状況が続いています。一度も手術せず、定期的にカテーテル検査やエコーで経過観察を続けているようです。

たけちゃんは、生まれて数ヶ月の頃は強い光にも反応しませんでした。今もなお、どのように見えているかは検査でも測定できず、わからないそうです。

耳もあまり機能していないようですが、空気の振動を敏感に感じているたけちゃん。太鼓や鈴、ピアノなどが大好きです。その他にもいくつもの疾患を抱えているとのこと。

絵具遊び中(hobonichi_takechanさんより提供)

最近、コミュニケーションの手段として手話を始めたばかりのたけちゃん。これからコミュニケーション力が上がっていくことが楽しみです。

みきこさんは手話を使い始める前、集中治療室にいる頃から「聞こえない、見えない」ことに関係なく、無意識を意識化させる『かしこ式言葉がけ法』でコミュニケーションをとっています。
『か(感情)』声に出せないたけちゃんの感情を代弁して私が気持ちを言葉にして伝える。
『し(視覚)』私が見えているものや、たけちゃんの目の前にあるものすべて言葉にして伝える。
『こ(行動)』たけちゃんの動きや周りの人の行動を実況中継のように伝える。

「反応のない赤ちゃんに言葉がけを続けるのは、ものすごく地道で虚しくなることもたくさんあります。しかし、これを続けていくことで、たけちゃんからも指差しがでたり、遊んでほしいもの、やってほしいものを持ってきてくれるようになってきました。言葉がけを丁寧にすることで、私自身がたけちゃんのことを『何もできないのではなく、何か伝えようとしているのだ』と理解できるようになりました」

『かしこ式言葉がけ法』はたけちゃんに合った方法だったようです。

発音の勉強中(hobonichi_takechanさんより提供)

これから先、どうしたら

たけちゃんに病気があるとわかったのは妊娠11週目の出来事でした。
医者からは何かしらの重い病気があると言われ、お腹のなかで亡くなる可能性も高く、中絶も進められたとのこと。

「赤ちゃんは生きたいだけ、生きたらいい」と心に決め、受け入れる覚悟をしたみきこさん。実際に生まれてきたたけちゃんの姿を見て「かわいい」と口には出したものの、これから先どうしたらよいのかと思うと、奈落の底に落ちたような感覚だったといいます。

みきこさんはケアが必要なたけちゃんと暮らすため、3年間の育休後、小学校教員を退職。みきこさんが教職に復帰して仕事ができるだけの預かり先はなく、現在はデイサービスが利用できる限られた時間を使って、リモートで色彩知育®︎講師をしています。

物で遊ぶたけちゃん(hobonichi_takechanさんより提供)

現在、たけちゃんは気管切開をしているため、24時間吸引などのケアを行う必要があります。少ないときで30分に一度、多いときで5分に一度吸引が必要です。昼間はデイサービスや訪問看護師さんがいますが、それでも休日・祝日・夜間は代わりの人が誰もおらず、辛い日もあるとのこと。特に夜間は、1時間以上続けて睡眠をとることもできません。その他にも、浣腸を1日2回、飲み物の注入を鼻から胃に管を通して5回ほど行っています。

辛いことは小さなことでも、お友達や訪問看護師さんなど、話せる人に話すようにしているみきこさん。すぐに悩みが解決しなくても心が軽くなるようです。

どんな子も同じように子育てしよう

たけちゃんは絵の具で絵を描いたり、ピアノをしたり、色々なことにチャレンジしています。ピアノや絵の具遊びは10歳のお姉ちゃんと7歳になるお兄ちゃんの育児で取り入れていて、自然と一緒にやっているとのこと。たけちゃんと一緒にできることは、姉弟たちもとても嬉しいようです。

生まれてから次々にさまざまな病気がわかったとき、悩んだ末に「どんな子も同じように子育てしよう」と決めたみきこさん。たけちゃんは、音には反応しないけれど、ピアノが大好きとのことです。

色彩知育®︎教室は、障がいの有無や年齢を問わず同じ時間に同じ内容でできるのが良いところ。たけちゃんが退院してからは、3人一緒に4年間続けています。

発音の勉強中(hobonichi_takechanさんより提供)

ただ、知らないだけ

みきこさんがたけちゃんとの日常をSNSで発信するようになったきっかけは、小学校教員としてたくさんの子どもたちと接してきていたのに、社会に出られない子どもたちと初めて出会ったことだったといいます。みきこさんは、この事実に衝撃を受けました。

また、障がい児は医療現場では手厚いフォローがあるのに、地域で暮らすにはあまりにも大変で苦しいと感じたことが挙げられました。かつての自分と同じように『ただ、知らないだけ』という人が多いことに気がついたみきこさん。
『いろんな子どもと家族がたくましく生きていることを知ってもらいたい』『どんな子もどんな人も、地域で心地よく過ごせるようにしていきたい』このような思いを知ってもらうため、みきこさんはSNSで発信しています。

発信に対する反響として「元気をもらえます。諦めずに頑張ろうと思った」「希望です。たけちゃんの笑顔が大好きです」「ありがとう、頑張って」というメッセージが多く寄せられます。育児や障がいとまったく関係のなかった人からのメッセージもあり、これこそ知ってもらうための一歩だと嬉しく思っているみきこさん。

みきこさんは今後の目標について語ってくれました。
「変わりなく、日々の生活のこと、どんなことで困ってどんなことが嬉しいか、見てくれる人と共有できるような発信をし続けていきたいです。その方々が、身近に同じような親子を見かけたときに優しい声かけをしてもらえたら嬉しく思います」

長年教員として働いていたからこそ、子どもたちに優しいみきこさん。みきこさんの思いが1人でも多くの人に届くことを祈っています。

【参考文献】
CHARGE症候群の理解と将来に向けて

ほ・とせなNEWS編集部

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