主体的な学びに寄り添う 沖縄タイムス教育賞 正賞2氏、奨励賞4氏を紹介 贈呈式は3月25日タイムスホール

(左)門林良和教諭(右)手登根千津子さん

 沖縄県内の教育分野で優れた研究、実践を続け、顕著な成果を上げている個人、団体を顕彰する第61回(2023年度)沖縄タイムス教育賞に、教育賞正賞2氏、今回から新設の教育奨励賞に4氏の計6氏が選ばれた。受賞者の活動や抱負を紹介する。贈呈式は25日午後6時半から、那覇市久茂地のタイムスホールで開催する。一般参加も受け付ける。入場無料。祝賀会は開催しない。

 問い合わせは沖縄タイムス社事業局文化事業部、電話098(860)3588。

正賞 手登根千津子さん(65) 桜野特別支援学校司書

読書は生きる力を育む

図書館司書の役割の大きさを語る手登根千津子さん=8日、名護市・桜野特別支援学校

 学校司書として定年退職後の再任用の5年を含め、37年間勤務してきた。現在は桜野特別支援学校で誰もが利用しやすい図書館づくりを進める。長年の実践で実感しているのは、各学校の特色や児童・生徒に合わせた図書館教育を展開するためには専門性を有する司書の存在が不可欠ということだ。「読書は生きる力を育むもの」と語る。

 本部高、北山高では毎朝10分間、図書委員を中心に朝の読書活動(朝読)を実施。学校全体で取り組み、1年間に1冊も本を借りない生徒の「不読率」の改善や1人当たりの平均貸出数の倍増などの効果を上げ、優秀実践校として文部科学大臣賞を受賞した。

 定年退職後は再雇用で辺土名高、名護特別支援学校を経て3年前から同校に勤務する。

 児童・生徒の実態に合わせて取り組んだのは「読書バリアフリー」だ。車いす利用者が本を手に取りやすいよう、レイアウトなどを変えた。発語が困難な子には意思表示ができる機器やタブレット端末などで読書を楽しめる「マルチメディアDAISY図書」を導入。卒業後の生涯学習につなげるため、県立図書館などとの連携を図った。

 「学校図書館は読書だけではなく、調べ学習や探究学習を深めることができる。多くの先生方も利用してほしい」と呼びかける。

 現在は沖縄国際大学でも非常勤講師として人材育成に励む。「教諭と同様、学校司書も子や学校、地域に変化をもたらす可能性を秘めている」。全ての学校図書館に正規・専任の司書が配置されることを願っている。(社会部・新垣亮)

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 てどこん・ちづこ 1959年生まれ。読谷村出身。79年沖縄キリスト教短期大学卒業。80年図書館司書資格を取得。2019年に定年退職し、再任用で21年から現職。「やんばる民話の会」でも活動。

正賞 門林良和さん(43) 興南中学・高校社会科教諭

地域の中での体験重視

「生徒たちには社会で生き抜く力を身に付けてほしい」と語る門林良和教諭=8日、那覇市の興南中学・高校

 「沖縄は魅力的な地域教材がどこよりもある場所。学校と地域をつなげて子どもたちの学びの場をつくるのが自分の使命」。興南中学・高校で、地域社会の中での学びを重視した指導に力を注いできた。偏差値という物差しだけでなく、自身の「興味・関心の物差し」を持ってほしいと願いながら、子どもたちに向き合い続けている。

 2014年に立ち上げた中学の総合的な学習の授業「まなVIVA」は生徒たちが実社会に飛び出し、多様な大人の価値観と出合いながら課題解決を目指す同校独自のプログラム。ヤギミルクを使った商品開発など、これまで多様なプロジェクトが立ち上がってきた。

 「本気の大人に触れさせることが一番の学びになる」と強調。今は高校向けに「自分たちの行動が社会を動かす」ことを体験し、生徒の主体性を育む授業の在り方を模索する。

 「地元の魅力を理解し、自分の言葉で語れる力を持ってほしい」と、10年には興南アクト部を立ち上げた。首里城のガイドを通して全国からの修学旅行生との交流を続けている。これまでに受け入れた修学旅行生は1万人を超えた。

 自身が沖縄に初めて訪れたのも高校時代の修学旅行だった。独自の文化や社会課題に関心を持つようになったきっかけという。「社会と自分の接点をつくってくれた沖縄での賞は特別」と受賞を喜ぶ。「これからも生徒たちに、地域の魅力やおもしろい大人たちをつなげていきたい」と意気込んだ。(社会部・普久原茜)

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 かどばやし・よしかず 1981年大阪府生まれ。関西大学卒業。大阪府内の学校で勤務後、2008年から興南中学・高校に社会科教諭として赴任。11年に読売教育賞の社会科教育部門で最優秀賞を受賞。

奨励賞 松田美奈子さん(53) 読谷村立読谷中教諭

教材に新聞活用を継続

「子どもたちの成長を直接見られるのがうれしい」と話す松田美奈子さん=12日、読谷村・読谷中学校

 NIEを活用した授業づくりやキャリア教育の視点に立った指導で生徒の学力向上に寄与してきた。新聞スクラップコンテストなどで受賞する教え子も多く、新聞を活用した学習が生徒の主体的な学びにつながっていると感じている。

 小学生の頃、毎週末に祖父が新聞を読み聞かせてくれた経験がNIEの原点だ。最新のデータや出来事を知れる新聞は「子どもたちが自分の目で見つけ、ものの見方を身に付ける教材になる」と強調する。

 約30年間NIEを継続。2015年に日本新聞協会のNIEアドバイザーに認定され、教員への授業改善指導も担う。

 キャリア教育の教材に使われる県版「キャリア・パスポート」の制作メンバーとしても活躍。生徒の自己肯定感や他者理解を育み、やらされるのではなく「やってみたい」と思うよう背中を押すのが教師の役目だと考えている。

 「子どもたちが自分の力で将来を切り開く道しるべになれるよう、これからも続けたい」と力を込めた。(社会部・普久原茜)

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 まつだ・みなこ 1970年、那覇市生まれ。立正大卒業。2022年から読谷中に勤務。23年度県教育関係職員表彰を受賞。

奨励賞 當真由紀子さん(47) 南城市立玉城中教諭

子の願い チームで支援

子に寄り添うチーム支援の重要性を語る當真由紀子さん=6日、南城市・玉城中学校

 島尻教育研究所で2019年の1年間研修が転機となった。不登校の児童・生徒を対象とする適応指導教室「しののめ教室」を担当。常時10人程度の児童・生徒が通い、「子や保護者の、学校の中では聞けない思いに触れることができた」と振り返る。

 研修をきっかけに、琉球大の教職大学院で学びを深めた。勤務する南城市立玉城中では伊敷尚也校長らの理解もあり、校内の自立支援教室「チャレンジルーム」を整備し、子の願いに寄り添うチーム支援の体制づくりに尽力した。

 22年度からはいじめや不登校、非行、ヤングケアラーなど困難を抱える子を早期発見し、適切な支援につなげるスクリーニングシステム「YOSS(ヨース)」に取り組む。

 福祉や行政などと連携しながら、チームで地域の子を育て支える仕組みだ。「スクリーニングに可能性を感じる。どの場所でも生かせるシステムを目指し、自分に磨きをかけたい」と意欲を語った。(社会部・新垣亮)

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 とうま・ゆきこ 鹿児島県出身。1977年生まれ。琉球大卒。22年同大学教職大学院高度教職実践専攻を修了。

奨励賞 川満大輔さん(43) 北部農林高校教諭

カラキ研究 生徒と成長

「カラキの有効活用」をテーマに生徒たちと探究活動を続ける川満大輔さん=名護市宇茂佐の北部農林高校

 大宜味村に自生するシナモンの仲間のカラキ。地域活性化のため活用できないかと地元から協力を依頼され、課題研究の授業に取り入れた。現状把握から「カラキケーキ」商品化まで、足かけ4年の取り組みは高く評価され、昨年、日本学校農業クラブ全国大会で最優秀賞に輝いた。

 「どう今のニーズに合わせていくかが大変だった」と話す。生徒たちは放課後や休日も使い、スイーツを中心にさまざまな加工品を試作した。ただ新型コロナ拡大の時期と重なり、商品として成り立つのかが試せない。持ち込んだ協力企業での厳しい評価に「もの作りは簡単じゃない」と唇をかむ生徒の姿も見た。

 「そんな経験から、生徒たちは打たれ強く自分で考え解決する力を養った」

 実は専門は畜産。カラキの話を引き受けたのは、北部農林高校赴任直後で大きな課題を抱えておらず、生来の菓子好きの影響もあったとか。「生徒たちの成長が見られ、自分も成長できた。教師の醍醐味(だいごみ)です」(北部報道部・前田高敬)

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 かわみつ・だいすけ 1980年宮古島生まれ。東京農業大学卒業。2014年県立高校教員に採用され、20年から北部農林高校勤務。

奨励賞 宮城通就さん(56) 辺土名高校教諭

生徒自ら探求する授業

生徒が主体的に考える授業を探究する宮城通就さん=13日、大宜味村・辺土名高校

 地理歴史・公民の教諭として、これまで赴任してきた各県立高校で「生徒が主体的に考える探求授業」を実践してきた。

 糸満高では沖縄戦を自分事として感じてもらうため、当時の住民らが逃げた各戦跡を生徒自らが歩いて回るスタンプラリーを実施。辺土名高では、学校前の海岸で拾ったごみからアート作品を作る試みや、大宜味村喜如嘉の何げない集落の風景を生徒の感性で写真に収め、足元にある魅力を発見する授業に取り組んだ。

 知識を詰め込む授業ではなく、生徒がそれぞれの答えを導く形にこだわる。「言われたことは忘れてしまうが、主体的に関わったことは覚えている」と考えるからだ。

 流れが速く、生き方や価値観が多様化する時代。「生徒たちは正解のない世界を生きていく。先生から一方的に知識を与えられるのではなく、いろいろなことに関わっていき、自分なりの答えを探しながら生きてほしい」と願い、教壇に立つ。(北部報道部・松田駿太)

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 みやぎ・みちなり 1968年、那覇市出身。駒沢大学卒業。2019年から辺土名高勤務。日本新聞協会認定のNIEアドバイザー。

講評 上間正敦選考委員長

奨励賞創設 優れた実践続々

 沖縄タイムス教育賞は今年で61回を数えました。人生に例えると、還暦を越えて新たな一歩を踏み出したところで、この教育賞もまた、選考委員の先生方からアドバイスを得て新たに「教育奨励賞」を創設しました。教育賞(正賞)一本の評価だけではなく、さらなる精進を続け将来、正賞に値する成果を期待したものです。

 今回は全体で19件(12個人・7学校・団体)と例年より多くの推薦がありました。奨励賞創設の効果とみていますが、教育実践の内容が優れたものが多く、選考委員会で議論を尽くし、教育賞正賞2件、教育奨励賞4件のいずれも個人の先生方の受賞を決めました。

 教育賞正賞の興南中学・高等学校社会科教諭で興南アクト部顧問の門林良和先生は「学びの場は学校に限らない」と考え、生徒が主体的に地域の課題に向き合う総合的な学習の時間「まなVIVA」や「興南探究プロジェクト」を推進し、生徒の成長に大きく貢献しました。

 もうお一人は桜野特別支援学校学校司書の手登根千津子先生で、40年近い図書館教育の実践が評価されました。「読書のバリアフリー」「学校図書館での平和学習」を展開し、イベントや展示方法の工夫で障がいのある児童生徒の読書の意欲を高め、楽しさを伝え続けています。

 教育奨励賞の受賞者は実践的・体験的な総合的な学習やNIE教育、生徒指導・進路相談分野の先進的な取り組みが評価され、今後の活動が期待される先生ばかりです。

 受賞には至らなかったものの、学校を支援、連携する団体の活動も複数応募があり、社会全体で支える開かれた教育の大切さをあらためて考える機会になりました。

 教育賞が1964年に創設された際、「一般の教育に対する理解と関心を深める」(初代選考委員長・豊平良顕)ことも掲げました。

 複雑化、多様化する社会の中で、沖縄タイムス社は、今後も教育現場で奮闘する教師、団体を盛り上げ、次代を担う子どもたちの成長につながるよう広く社会へ呼びかける考えです。(沖縄タイムス社執行役員)

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