障がいのある兄妹を育てる父親、自身も昨年難病に SNSの発信を通して「孤独から大きな励みになった」 発信に込めた願いに迫る

障がいのある子どもの子育てや日常についてSNSで発信するyasu family(yasu.family1969)さん。yasuさんの2人のお子さんには障がいがあります。

「優しさが広がれば障害への偏見、差別、虐めはなくなると信じて」という思いで日常の発信をしているお父さんに、2人のお子さんについてや、SNSでの発信について話を聞きました。

2人のこだわり

兄の翔輝さんと、娘の姫歌さんはともに知的障がいを伴う自閉症スペクトラムです。兄の翔輝さんは重度知的障害(IQ30)、妹の姫歌さんは中度知的障害(IQ43)・場面緘黙です。

翔輝さんは現在、就労支援継続支援事業所に通っており、自動ドアの窓拭きをメインで頑張っています。

幼い頃からこだわりが強い傾向があり、初めはタイヤ、扇風機、換気扇の羽根などの回るものに興味があった翔輝さん。現在では他にも、自動ドアやiPhoneにも興味があるとか。

お父さんによると「車のオモチャなどはすべてタイヤを取り外してしまったり、走っている車のタイヤに向かって走り出したりしました。羽根は電気量販店で見かければ30分は眺め、それを止めればパニックになります。外に不法投棄されていたら欲しくて、脱走していなくなるなど警察には何度もお世話になりました」とのこと。

また、翔輝さんにかかせないのがぬいぐるみのユキちゃん。肌身離さず持っていて、翔輝さんの分身のような存在であり、さまざまな役目を担っています。お父さんの言うことを聞かない場合でも、ユキちゃんを通して言うと素直に聞いてくれることもあるのだとか。

妹の姫歌さんは幼い頃から絵を描くことが好きで、独学だというそのクオリティは驚くほど。イラストを掲載した投稿には「上手すぎて感動」「いつ見ても素敵です」などのコメントが寄せられています。好きなことへの集中力がすさまじく、細かい作業なども長い時間かけて完成させることができます。
また、洋服はグレーしか着ないといったこだわりも持っています。

姫歌さんはいじめによるショックとストレスで場面緘黙になり、家族以外とは言葉を発することや会話ができず、合わせて視線恐怖もあるといいます。現在はSNSで会話を練習中です。

「2人に共通しているのは、好きなことへの集中力が高く、兄は言葉、娘はイラストを独学で楽しんで学んでいます。目視優位で自然と学ぶことができています。整理整頓や掃除が苦手で、清潔面も苦手です。規則的なことを守ることがストレスになり、自己中心的思考です」とお父さんは語ってくれました。

自動ドアが好きな翔輝さん

翔輝さんが自動ドアに興味を持ち始めたのは中学1年生の頃。障がい児向け放課後デイサービスで興味を持ったそうです。椅子に座って出入りする人に対して自ら開閉係をした翔輝さん。「ありがとう」と感謝されることが嬉しかったようです。

そこからセンサーや、貼ってあるステッカーにも興味を持ち始めました。しかし、外出時に自動ドア前で固まってしまったり、開閉を動画で撮影したがったりと、お父さんは悩んでいたようです。

ある日、コンビニで自動ドアステッカーが欲しくて剥がそうとしていた翔輝さん。お父さんは、無理を承知で自動ドア会社に問い合わせたところ、支店長さん自ら自宅付近までステッカーと販促物一式を持って来てくれたことがありました。これには翔輝さんも大喜び。

「自動ドアメーカーさんの対応に驚きましたが、これで私の悩みが解消されました。息子の強いこだわりに協力することで、親子ストレスも軽減されることを息子から教わりました」とお父さん。行きつけのドラッグストアでは、許可を得て笑顔でドアマンをしています。出入りしたお客さんに感謝されており、翔輝さんにとっては生き甲斐のようなこだわりです。

翔輝さん(yasu.family1969さんより提供)

翔輝さんは高校3年生を不登校で卒業し、引きこもり状態に。就労支援継続支援事業所にも行けていませんでした。そこでお父さんが提案し、19歳で初めて髪染めをすることに。美容室で茶色に染めたところ「みんなに見せたい!」と翔輝さんは外出するようになりました。

また、祖父が亡くなったことをきっかけに自身の将来像を考えるようになったとお父さんは話します。生活を気にして動くことができるようになり、現在では毎日事業所に行けるようになったとのこと。

絵が大好きな姫歌さん

姫歌さん(yasu.family1969さんより提供)

姫歌さんは3歳から絵を描き始めて、塗り絵をたくさんやっていたそう。小学3年生のときに描いた猫の絵が繊細で「これは伸びるかもしれない」と感じたお父さんは、イラスト教本を買ったそうです。

独学で上達してきた姫歌さん。中学1年生の頃のいじめが原因で、一度絵を描くことを辞めてしまいました。不登校になり、お父さんは「いじめたやつらを見返してやろうよ!」と姫歌さんを励まします。時間をかけて姫歌さんは絵を再び描き始めました。TikTokに描いた絵を投稿すると、55万回再生されたとのこと。そこからイラストを描くことに対して前向きになったそうです。そこから、テレビで取材を受ける、グッズ販売を行う、道の駅でイラスト販売など、かなりの腕前になりました。

姫歌さんが描いたイラスト(yasu.family1969さんより提供)

子どもの好きなことは自由に

「私は子どもたちの好きなことは自由にやらせたいと考えています。あまり口出しもしません。多少のアドバイスはしますが、基本自由です。健常児であれば言葉で教えることで、できるようになることもあると思いますが、知的障がいがある子には言葉の理解が困難です。『こう教えたらできるよね!』これでは通じません。この特性を理解してからは言葉で教えるより、好きなことから自由に学ぶスタイルが子どもたちに合っていることを、子どもたちから教わりました」

色々な考え方がありますが、お父さんは知的障がいを伴う自閉症スペクトラムの子どもには、自由から楽しく学ぶことがベストだと考えているようです。だからといって楽ではなく、苦労が伴うそう。翔輝さんのこだわり、姫歌さんの場面緘黙の理解には10年以上かかったと話してくれました。

普段の過ごし方

普段の翔輝さんは朝に起きるのが早かったり、昼まで寝ていたり。起きたら飼い猫のお世話をしてから自動ドアの窓拭きをしているとのこと。事業所にはお昼ご飯を食べてから行っているそうです。

姫歌さんはイラストに集中するときは夜中がいいようで、昼夜逆転気味です。学校を辞めているので、今はお昼に起き、昼間はイラストに集中。他にはゲームや映画鑑賞をしています。

たまに兄妹で散歩に行っているとのこと。夕ご飯は別々に食べていますが、face Timeで会話しながら食べることもあるそう。「ささいなことや、翔くんのこだわりが原因で兄妹喧嘩になることもありますが仲良く過ごしています。外では一人行動ができない姫ちゃんにとって兄の翔くんが一緒にいることで安心してできることが増えました」とお父さん。

日常をSNSで発信するようになった経緯

SNSは2018年にTikTokから始めました。当時流行っていたアプリを何となく入れただけで、当初は障がいについて発信する考えはなかったとのこと。「ただ、障がいのことを周りに知って欲しいとはいつも思っていました」とお父さん。

あるとき、TikTokで子どもの重度知的障がいを発信している人を見つけると「子どもの障がいを発信!その手があった!」とお父さんは気づきます。そこから今まで思っていたことや、伝えたいことを発信していきます。姫歌さんはTikTokを見ていたので、理解して遊び感覚で撮影に協力してくれました。翔輝さんは当時はよくわかっていない様子だったものの、次第に理解し始め2020年にYouTubeも始めました。翔輝さんは、動画に出ているのを見て嬉しそうにしているのだとか。

投稿はお子さん二人を主体にしているため、ストレスを感じないよう撮影の際は二人に合わせています。翔輝さんは撮影されることが好きなので、あまりに遅いと「撮影しないのか!」と催促してくるそう。姫歌さんはイラストが完成したときに投稿をしていて、現在はXで自身のアカウントも立ち上げて頑張っているのだとか。

すべて親次第です

「障がい児育児では、親の思考が子どもの行く末をすべて決めてしまうことが多いと思います。なので、すべて親次第だと思っています。健常児であれば自立していきますが、中度、重度の知的障がいは、進路を作っていかなくてはいけません。今は、私が将来的に死んでいなくなることを理解させ、自分の将来像を考える力をつけるサポートをしている最中です。これは娘が学校を辞め、イラストで頑張っていくと覚悟したタイミングで2人に話し始めました。祖父母が亡くなったのを見ているので『死』について話せると思いました。無理と思わずにさまざまな将来像を話しています。例えば、免許取得なども親が無理と思った時点で可能性はなくなります。1番近くにいる親が子どもの可能性を1番信じてあげることが大切です。私は子どもたちが頑張ったことに対しては全力で褒めています。この繰り返しが可能性を引き出す力になり、親子関係もよくなっていきます。子どもが家庭で笑顔でいられることもすべて親次第です。親の理解は子どもの希望です」
お父さんは、子どもの将来までをしっかりと考え、今日も二人と向き合っています。

また、SNSでもらうコメントに対し「SNSでは、ありがたいことにたくさんの応援コメントをいただいています。すべて拝見しています。子どもたちへの応援コメントはできる限り本人に伝えています。子どもたちが嬉しくなったり自信を持ったりすることにも繋がります。お褒めのお言葉は特に伝えています。姫ちゃんのイラストに関してのコメントはさまざまな立場の方からいただき、とても貴重です。視聴者さんの経験からのアドバイスは本当に貴重で、検索するより内容が濃いです。私への応援もいただきます。優しい気持ちをたくさん受けて、孤独だった私にも大きな励みになり、感動しました。7年間続けているので視聴者さんの言葉が子どもたちの一部を育てていると言っても過言ではないです。私たちにとっては宝物です」
お父さんからは感謝の言葉があふれ出ていました。

これからの夢

これからの兄妹の夢についてお父さんに聞いてみました。「兄の翔くんは、視聴者さんから多くのコメントをいただいた、ファッションモデルをやらせてみたいです。また、翔くんの部屋に本物の自動ドアを設置できたら喜びそうです。自動ドアのこだわりを活かして何かを形にできれば思いますが不透明です。妹の姫ちゃんはプロイラストレーターとして独立し、活躍して欲しいです。イラストに多くの時間を費やし努力してきたので、知的障がい者でも夢を実現し、同じ境遇の方にも夢や希望を与えられると思います。二人ともに高いハードルがありますが、二人の夢は多くの方に希望や勇気を与え、優しい気持ちを広げられると信じています。何より二人には未知の可能性があります。将来的に私はいなくなるので生きる力を身につけて二人が一緒に生活できるようになるのが最大の夢です」

今後のSNSの発信では、基本は今まで通り子どもたちが頑張っている姿や成し遂げたことに笑いや癒しなど、前向きな発信をしたいと話すお父さん。

障がい児の育児については「私の発信で、同じ境遇の方に希望を与えていきたいと思っています。そのなかで視聴者さんには、気づきだったり自身を見直したりするなど、私の経験や考え方が少しでも参考になれたらなと思います。私は精神疾患「混合性不安抑うつ障害」になり、2023年には指定難病の重症筋無力症(眼瞼下垂型)と診断されました。このような状態でも発信していく意味はあると思っています。発信から人と繋がり、共感や会話をすることで私は優しい気持ちを老若男女問わず広げていきたいです。そこから願うのは、障がいへの理解が広がり、いじめをしてはいけないという優しい気持ちを持った子どもたちが増えること。親でなくてもさまざまな立場から子どもたちに伝えられます。その架け橋になれたら幸いです。そして知的障がいを伴う自閉症の子どもたちが笑顔で過ごせる家庭と環境が増えれば、健常者も笑顔になれると思っています。人に優しくできれば気持ちがよくなり、そんな自分を肯定できるはずです。いじめをすればいずれ後悔します。自身や我が子が被害者にも加害者にもならないよう、私たちの発信からたくさんのことに気づいて欲しいです。家族の障がいは私の一生涯。妻も中度知的障害ですが、家族4人。それが私の『幸せの形』です」

yasu familyさんのこれまでの家族の奮闘記を書いた書籍「限界ギリギリ家族」が3月22日に発売されます。
yasu familyさんの発信は、同じ境遇の方に希望を与えていくでしょう。

ほ・とせなNEWS編集部

© 株式会社ゼネラルリンク