浦和レディースを牽引する栗島朱里。あのレッズOBを彷彿とさせる判断力

三菱重工浦和レッズレディース MF栗島朱里 写真提供:WEリーグ

浦和レッズレディースユースでのプレーを経て、2013年より同クラブトップチーム(※)に在籍しているMF栗島朱里。ジュニアユース時代から浦和一筋。2度の前十字靭帯断裂という困難を乗り越え、2023/24シーズンのWEリーグでも躍動している。

栗島の活躍が際立ったのが、3月3日に行われたINAC神戸レオネッサとのWEリーグ2023/24首位攻防戦(第8節)と、20日開催のマイナビ仙台レディース戦(第11節)。この2試合で栗島は的確なポジショニングで自軍の得点を創出し、勝ち点奪取に貢献した。

WEリーグ2023/24で2位につける浦和において、栗島がどのように輝いているのか。ここでは浦和駒場スタジアムにて行われたINAC神戸戦とマイナビ仙台戦を振り返るとともに、同選手のプレーを解説。この2試合の現地取材で得た栗島のコメントも紹介しながら、同選手の魅力を余すことなく論述する。

(※)2021年、三菱重工浦和レッズレディースに名称変更。


栗島がセンターバック石川とサイドバック遠藤の間へ降りる。これによりINAC陣営は混乱した

INACとの首位攻防戦で輝く

栗島が主に務めるのは、基本布陣[4-2-3-1]の2ボランチの一角。INAC神戸戦やマイナビ仙台戦でもこのポジションで先発し、先述の通り自軍の得点に繋がるチャンスを生み出した。

浦和が0-1とリードされて迎えたINAC神戸戦の前半12分、ボランチの栗島が味方DF石川璃音(センターバック)とMF遠藤優(右サイドバック)の間へ降りてボールを受ける。これにより[5-3-2]の守備隊形を敷いていたINAC神戸は混乱。[5-3-2]の2トップ、田中美南と髙瀬愛実の両FWが浦和2センターバックと栗島のどちらを捕捉するのか。この場面ではこれが曖昧になっていた。

センターバック石川と右サイドバック遠藤の間でボールを受けた栗島から浦和の遅攻が始まり、最終的にはFW清家貴子が同点ゴールを挙げている。この栗島の活躍により浦和は1-1の引き分けで同試合を終え、WEリーグ首位INAC神戸との勝ち点差1をキープ。首位攻防戦での黒星、及び優勝争いからの後退を免れた。


三菱重工浦和レッズレディース MF遠藤優 写真提供:WEリーグ

快足MF遠藤を活かすためのポジショニング

INAC神戸戦終了後、栗島は筆者の質問に回答。WEリーグ屈指の快足MF遠藤(右サイドバック)を敵陣に立たせるべく、味方センターバックとサイドバック間へ降りたことを明かしている。この栗島の的確なポジショニングによって遠藤が高い位置をとれるようになり、攻撃性が遺憾なく発揮された。

ー遠藤選手との関係性についてお伺いします。前半途中から栗島選手が味方センターバックとサイドバックを繋ぐ位置へ降りていましたね。そのおかげで遠藤選手が攻め上がれたように見えました。(ピッチ上で)何を感じてあのポジションをとったのか。ぜひ教えてください。

「優の特長は繋ぎの部分(自陣で配球役を担う)より、前へ出ていくことにあると思います。(遠藤が高い位置をとると)相手にとって脅威だと思うので、そこは活かしたいなと。自分がそこに立つことで、相手のプレッシャーがずれるのを感じた(思い通りに守れていない様子が分かった)ので、そのポジションに入りました」

ーINACのインサイドハーフ、成宮唯選手が守備対応で困っている感じがしました。栗島選手から見て、困っている様子は窺えましたか。

「はい。優がそこ(低い位置)でシンプルにボールを受けるよりも、(遠藤が)前に出ることで相手のマークがずれていくのを感じました」

浦和vsマイナビ仙台、前半13分の大まかな隊形。カーラが栗島に釣り出されている

仙台戦でも遠藤をサポート

3月20日に行われたWEリーグ第11節マイナビ仙台戦でも、ボランチの栗島が右サイドバック遠藤をサポート。INAC神戸戦と同じくセンターバック石川と遠藤の間へ降り、ゴールの起点となった。

両チーム無得点で迎えた前半13分、栗島がセンターバック石川と右サイドバック遠藤の間へ降りたことで、守備隊形[4-4-2]のマイナビ仙台のFWカーラ・バウティスタ(左サイドハーフ)が釣り出される。これにより開いたマイナビ仙台のサイドハーフとサイドバックの間で遠藤がフリーになり、ドリブルでチャンスメイク。遠藤のパスを受けた清家がペナルティエリア右隅から強烈なシュートを放ち、浦和に先制点をもたらした。

このゴールで勢いづいた浦和は前半44分にも右サイドから速攻を仕掛け、これをFW島田芽依が結実させる。その後スコア2-0のまま逃げ切り、首位INAC神戸と勝ち点差1で肉薄している(INAC神戸27、浦和26)。


三菱重工浦和レッズレディース MF栗島朱里 写真提供:WEリーグ

栗島が相手サイドハーフを釣り出す

栗島はマイナビ仙台戦終了後にも筆者の取材に応じ、先制ゴールの場面でセンターバック石川と右サイドバック遠藤の間に立った意図を明かしてくれている。やはり相手サイドハーフを釣り出し、これにより開いた相手サイドバックとサイドハーフ間を突く狙いがあったようだ。

ー(INAC神戸戦と同じく)今日もセンターバック石川選手とサイドバック遠藤選手の間へ降りていましたね。そこに立っていた栗島選手のパスから遠藤選手が(相手サイドバックと)1対1になり、そこからの流れ(パス回し)で清家選手のゴールが生まれました。(栗島選手のポジショニングの)効果が出ましたね。

「はい(笑)。点に繋がって良かったです」

ーマイナビ仙台の左サイドハーフ、カーラ選手が釣り出されたところで栗島選手が(遠藤選手へ)パスを出しました。これで遠藤選手が相手サイドバックと1対1になりましたよね。

「ワイドのディフェンス(サイドバック)とサイドハーフの間へパスを入れたら、チャンスになる。この共通理解がチームのミーティングでもありました。そこ(相手サイドバックとサイドハーフの間)に貴子が立ってもいいんですけど、優が立てば貴子がよりゴールに近くなる(タッチライン際から内側へポジションを移せる)と思いました。私がセンターバックとサイドバックの間へ入ったことで、いい感じでゴールに繋がりましたね」


鈴木啓太(浦和レッズ所属時)写真:Getty Images

鈴木啓太を彷彿とさせる栗島

味方を活かすため、チームの機能性を高めるために何をすべきかを常に考えられる。これが栗島の最大の持ち味だと筆者は考える。ゴールやアシストを量産するタイプではないが、こうした人材はチームに不可欠だ。

ここまで攻撃面での貢献に着目してきたが、栗島は守備面でも存在感を示している。相手のパスワークをサイドへ誘導し、タッチライン際のボール保持者やその周辺の相手選手を漏れなく捕捉するのが浦和の守備の要諦であり、栗島は毎試合鋭い出足で相手の攻撃の芽を摘んでいる。

攻守両面において状況判断が的確。この栗島の特長は現J1リーグ所属の浦和レッズ(男子トップチーム)の中盤を長きに渡り牽引し、2015年に浦和一筋のプロキャリアに終止符を打ったMF鈴木啓太を彷彿とさせる。フォア・ザ・チームの精神をとことん突き詰め体現する。そんな栗島はこれからも多くの浦和サポーターの心を掴み続け、彼らから永遠に愛されるだろう。まるで鈴木啓太のように。

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