60歳を定年とする企業は多くありますが、定年後も働く選択をする人が増えています。そこには「年金受給額が増える」というメリットも。毎年送られてくる「ねんきん定期便」では、増えていく年金額を確認できますが、そこには落とし穴も。みていきましょう。
60歳以降も働いて「年金受給額」を増やす!
総務省『2022年度 労働力調査』によると60代前半の就業率は73.0%、60代後半では50.8%。60歳を定年とする企業が多いなか、60代突入で仕事をやめる人は少数派。年金受給がスタートする65歳をひとつの区切りにする人が増えています。一方、60歳以降の働き方としては「正社員のまま」というのは少なく、「60歳で定年退職→契約社員や嘱託社員として再雇用」というのが王道です。
厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』によると、50代後半正社員男性の平均給与は、月収で50.6万円、年収で868.8万円。60代前半非正規男性の平均給与は、月収28.3万円、年収428.0万円。雇用形態が変わることもあり、60歳定年を境に給与はそれまでの50~55%ほどになってしまいます。
給与の大幅減、それでも働くことを選ぶのは「収入の空白期間を作りたくない」という思いが一番ではないでしょうか。前述のとおり、原則、年金の受給は65歳から。60歳で定年を迎え、そのまま完全に仕事をやめると、年金受給開始までの5年間は無収入。それまで頑張って築いてきた貯蓄がどんどん減っていくのを目の当たりにすることになります。そこで感じる不安を取り除くためにも、働き続けることが最良の選択、というわけです。
さらに働き続けるメリットといえば、65歳からもらえる年金を増やせること。
まず国民年金の受給額は、以下の計算式で求めることができます。
年間受給額=年金額×(保険料の納付月数÷480ヵ月)
保険料の納付月数は480ヵ月が上限。20歳から60歳まで納付していれば、これ以上、保険料を払い、年金受給額を増やすことはできないというわけです。一方、厚生年金は以下の計算式で求めることができます。
①平成15年3月以前
平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月までの加入期間の月数
②平成15年4月以降
平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以降の加入期間の月数
厚生年金の場合、加入条件をクリアしていれば、60歳以降も保険料を払い続けることで、65歳から受け取る年金額を増やすことができます。
毎年送られてくる「ねんきん定期便」を楽しみに働いてきたが…
そんな嬉しい現実を目の当たりにできるのが「ねんきん定期便」。毎年、誕生月に日本年金機構から送られてくるものです。
50歳以上であれば、現在の加入条件で60歳まで加入を継続した場合に65歳からもらえる年金見込額が表示されるようになります。そして60歳以降も厚生年金に加入していれば、ねんきん定期便は届き、60歳以降に払った保険料の分も反映されていうきます。つまり、ねんきん定期便の年金額も毎年増えていくというわけです。
仮に20~60歳まで、男性正社員の平均給与をもらい続けたと仮定しましょう。その際にもらえる厚生年金は月10.3万円。国民年金が満額支給だと月17.1万円となります。
60歳で定年退職、嘱託社員として再スタートし、また平均的な給与をもらい続けたとしましょう。
●61歳まで働くと月17.3万円。月2,000円、受取額がアップします。
●62歳まで働くと月17.6万円。月5,000円、受取額がアップします。
●63歳まで働くと月17.9万円。月8,000円、受取額がアップします。
●64歳まで働くと月18.1万円。月1万円、受取額がアップします。
●65歳まで働くと月18.4万円。月1.3万円、受取額がアップします。
月1.3万円というと年15.6万円。10年で156万円、20年で312万円……給与半減でも5年間働くメリットは、かなり大きいと感じられるでしょう。そして60歳以降のねんきん定期便では、年金が増えていく様を実感でき、より働く意欲に繋げることができるものです。
ただし、ねんきん定期便。考えれば当たり前の話ながら、見落としがちな点も。
――よし、年金月1万円アップ
64歳・嘱託社員として働く男性。今年も届いたねんきん定期便をみながら、俄然、やる気になっていました。そして1年後。65歳をもって仕事を完全にやめて、年金生活に入ります。「いよいよサラリーマン人生も終わりか」と感慨ひとしおのなか、年金増額を果たし、悠々自適な生活を送れることにどこか達成感も。
――月18.4万円の年金があれば、それだけで暮らしていけるな
そう思っていた最初の年金振込日に、目を疑います。
――うそだろ、年金が思ったより少ないぞ
年金でよく勘違いしているのが、巷でいわれている「年金OO円」はたいていは額面。老齢年金は雑所得となり課税対象。さらに社会保障費なども天引きされ、最終的に額面の85~90%程度になります。年金月18.4万円であれば、税金が月1.5万円、社会保障費が月2.5万円ほど引かれ、天引き額は月4万円ほどに。手にできるのは月14.4万円ほどになる計算です。
老齢年金には税金がかかる……当たり前のように感じることも、実は知らない人も多く、額面との誤差に涙する人は多いのです。月4万円の誤差は、年間50万円ほどになり、10年で500万円、20年で1,000万円……思い描いていた老後を崩壊させるには、十分すぎる金額です。
[参考資料]