『葬送のフリーレン』アニメ化大成功の要因は?  予想を超えてきたアニオリ演出

近年稀に見るほどの大ヒット作となったTVアニメ『葬送のフリーレン』。3月22日に放送される第28話をもって最終回を迎えることになるが、はやくもロス状態になりかけているファンが相次いでいるようだ。

なぜ同作がここまで熱狂的に愛される作品になったかといえば、原作の面白さはさることながら、そのポテンシャルを最大限引き出したアニメスタッフの手腕も無視できないだろう。作中ではさまざまな部分で、“アニメならでは”の工夫が凝らされていた。

まず注目したいのは、作画のクオリティ。そもそも『葬送のフリーレン』は剣と魔法のファンタジーでありながら、派手な展開は少なく、穏やかな空気感のなかでキャラクターたちの繊細なやりとりが描かれる作品だ。アニメ版ではどこまでも丁寧な作画によって、その独特の雰囲気が再現されていた。

たとえば第15話では、ひょんなことから社交界デビューを飾ることになったシュタルクが、フェルンと共にダンスするシーンが話題を呼んだ。そこでは手書きの作画によって、しなやかに踊る2人の姿が描写されていた上、ちょっとした視線の動きや表情の変化によってその感情が視聴者に伝わってくる名シーンになっていた。

その一方で、戦闘シーンでは打って変わってド迫力の作画が用意されていたことが印象的だ。とくに2クール目の「一級魔法使い試験編」では魔法使い同士の戦いが勃発したこともあり、作画的な見どころが満載となっていた。

一次試験では、フリーレンと宮廷魔法使いのデンケンが空中でハイレベルな一騎打ちを披露。さらに二次試験では、フリーレンが自身の力と技術を完全にコピーした「複製体」と戦っている最中、「地獄の業火を出す魔法」(ヴォルザンベル)などの迫力に満ちた攻撃が描写されていた。

そして二次試験の決着が描かれた第26話では、斎藤圭一郎監督が「ここまで積み上げて来たありったけをぶつけた」と自身のX(旧Twitter)で語るほどのバトルシーンが待ち受けており、視聴者を感嘆させることとなった。

丁寧な日常芝居とケレン味のあるアクション……。“静と動”のメリハリがきいた映像表現は、間違いなくアニメでしか実現できない境地だったと言えるだろう。

なお、同作はTVアニメとは思えないほど豪華な顔ぶれのアニメーターたちが集結していたことも印象深い。スタジオジブリ作品などで活躍してきた大塚伸治や遠藤正明、粟田務といったベテランたちが熟練の技を見せる一方、新進気鋭の海外アニメーターであるMYOUNやVercreekなどの参加パートも大きな話題を呼んだ。

作画ばかりではなく、作曲家・Evan Callによる壮大な劇伴などもアニメならではの魅力だったが、なにより忘れてはならないのは“アニオリ演出”の存在だろう。

セリフの一言一句に至るまで原作を忠実に再現したと言われるアニメ『葬送のフリーレン』だが、実は細かく見るとさまざまなシーンが追加されている。そもそも第15話のダンスシーンも、原作ではわずか数コマしかなかった描写にたっぷり肉付けしたものだ。

2クール目でいえば、第24話にて大きな脚色があった。二次試験中、迷宮を探索していたフリーレンたちが隠された小部屋を見つけるというアニオリエピソードが追加されていたのだ。小部屋には統一王朝期の壁画が眠っており、フェルンが目を輝かせるのだが、それを見てお宝目当てだったはずのフリーレンもご満悦になる……という秀逸な展開だった。

また第27話では、リヒターの店の前を偶然通りかかったフェルンが、「“フリーレンの弟子か?」”と尋ねられるシーンが追加されていた。フリーレンと喧嘩中だったフェルンは、思わず言いよどんでしまうのだが、そこでリヒターはフェルンの杖を修理するよう依頼を受けていたことを明かし、「大事にしろよ」と声をかける。これは杖とフリーレンの両方にかかったダブルミーニングのセリフだろう。

さらに一連のシーンは、後にゼーリエに勧誘されたフェルンが「私はフリーレン様の弟子です」と断言する場面との対比にもなっていた。この演出によって、フェルンとフリーレンの関係性がより一層深掘りされており、あまりに絶妙な原作からの脚色だと言える。

原作ファンが思わず唸るほどのクオリティで、2クールを駆け抜けたアニメ『葬送のフリーレン』。名シーンの数々を振り返りつつ、今後続編が制作される日がやってくることを期待して待ちたい。

(文=キットゥン希美)

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