柏木由紀「今のAKB48が最強で最高」 黎明期から現在までのグループの歴史を総括した卒業コンサート

3月16日、神奈川・ぴあアリーナMMにて『柏木由紀卒業コンサート ~17年間、歩いて来たこの道~supported by イモトのWiFi』が開催された。AKB48の3期生として2006年12月に加入した柏木は、グループの大ブレイク期から今日に至るAKB48の歴史、そして2010年代以降のアイドルシーンの歴史に欠かせない存在として活躍してきた。今回のコンサートはまさに、その17年の軌跡をステージ上に描き出すものになった。

オープニングのVTRでは柏木が地元・鹿児島を歩きながらインタビューを受け、アイドルに憧れたきっかけとなった当時のモーニング娘。のメンバー・石川梨華の存在などを語る。そして、柏木のキャリアで構成された映像に乗せて「overture」が流れたのち柏木がステージに登場、自身のルーツをたどるようなソロ曲「火山灰」でコンサートの幕を開けた。

続いてメンバーたちもステージに揃うと、「ポニーテールとシュシュ」「言い訳Maybe」「大声ダイヤモンド」とAKB48が誇るパワフルなポピュラーソングの数々を立て続けに披露。早々に会場の熱量を上げて「シアターの女神」で締め、勢いのある選曲で序盤ブロックを飾る。

柏木が研究生とともにパフォーマンスする「スカート、ひらり」から始まるブロックは、ユニットによる楽曲で構成された。倉野尾成美、下尾みう、田口愛佳、福岡聖菜との「涙の湘南」、小栗有以と山内瑞葵との3人で披露したNMB48チームNの公演曲「ジッパー」、大盛真歩、千葉恵里とともに歌う「口移しのチョコレート」と、柏木は衣装を早替えしながらすべての楽曲を次々に表現していく。

さらに、「てもでもの涙」のイントロが流れると、ステージ上手に姿を現したのは盟友・宮澤佐江。アリーナのボルテージを一段高めると、柏木と2人で同曲を披露。宮澤の登場によって、柏木の歩んだ歳月を振り返る同コンサートの意義がいっそう鮮明になる。鮮やかな印象を残した宮澤との「てもでもの涙」は、セットリスト後半にかけて柏木の偉大な足跡をたどっていくための序曲となった。

宮澤がステージを後にすると、柏木は向井地美音、村山彩希と3人で「思い出のほとんど」をパフォーマンス。柏木による向井地、村山へのメッセージがスクリーンに映し出されたのち、3人はステージ中央で互いに向き合い、いたわりあうように歌唱してみせた。

コンサート中盤には、柏木がグループ兼任を経験したNMB48の「イビサガール」、NGT48の「Maxとき315号」もラインナップされ、兼任時の映像とともに披露される。柏木由紀としてのキャリアを一つひとつ確認するような選曲でもあり、また組閣をはじめとする地殻変動を活発に起こしてきた48グループ全体の歴史をほんのひととき、ステージ上に再現するような刹那が訪れた。

セットリスト後半へと向かう合間には、スクリーンにビデオメッセージが流され、48グループOGの前田敦子、山本彩、北原里英が言葉を贈る。そして最後には、オープニングVTRでも柏木が憧れを口にしていた元モーニング娘。の石川梨華も映し出され、柏木の卒業にねぎらいの言葉を寄せた。

ビデオメッセージが終わると、ステージには柏木とともにOGの高城亜樹、倉持明日香も姿を現し、AKB48内のユニットであるフレンチ・キスが2015年以来の復活をとげる。「If」「カッコ悪い I love you!」の2曲を披露した3人の再結集によって、さまざまなユニットを生み出してきたAKB48の一側面をあらためて思い起こさせる時間となった。

続く幕間映像では事前収録された柏木のトークが流れ、コンサート後半への期待をさらに煽るコメントが発される。すると、VTR明けにステージ上段中央に立ったのは初代AKB48総監督・高橋みなみだった。誰もが耳馴染みのある「AKBー! 48!」の掛け声が響くと、高橋と柏木、そして現在のAKB48を担うメンバーたちが一体となって「RIVER」をパフォーマンスし、グループとしての力強さを示す。「少女たちよ」では横山由依も楽曲に参加、AKB48の柱となって牽引してきた人物が舞台上でバトンを渡すように続けざまに姿を見せ、ここでもまたグループの継承の歴史を思わせる。

かつて柏木がセンターを務めていたユニット・チームPBの「遠距離ポスター」では、柏木とともにオリジナルのメンバーだった宮澤と高城も加わり、グループが生み出してきた派生ユニットのバリエーションや楽曲の豊かさを知らしめる。さらには、そのチームPBの対抗ユニット・チームYJの「Choose me!」へと続くが、ここで同ユニットのオリジナルメンバーでもあった指原莉乃と峯岸みなみが登場し、柏木を加えて3人で同曲を歌い上げる。常にグループの歩みの中にいた柏木を磁場にして、AKB48の歴史をつづってきた人物たちが次々と舞台上に召喚されていくその景色は、今なお柏木自身が際立った表現力を持ち、現在形のアイドルとして存在し続けているからこそ意義深い。このような仕方で過去と今日とを接続できるアイドルは、彼女をおいて他にいない。

コンサート本編最終ブロックは「ジワるDAYS」に始まり、柏木がセンターに立っての「フライングゲット」、観客に撮影可能タイムが設けられた「君と虹と太陽と」「10年桜」と続く。また、柏木がWセンターを務めたシングル表題曲「Green Flash」では、もう一人のセンターであった小嶋陽菜がステージ奥から登場してともに歌唱し、コンサートの終盤にさらなる山場を作ってみせた。そして、グループの最新シングルにして柏木初の単独センターとなる表題曲「カラコンウインク」でコンサート本編は締めくくられる。

アンコールでは、多くの花があしらわれた淡いピンクの卒業ドレスをまとい、ここまでの歩みを振り返りながら、多くの人々への感謝を口にした柏木。「どの時代もその時のAKB48が一番だと思ってやってきたし、今のAKB48が最強で最高だと心の底から思っています」「私にとってAKB48は人生そのもの」と語る言葉からは、アイドルシーンの基盤として存在してきたグループとともにキャリアを築いてきた人物の実感と矜持がうかがえる。

そして、卒業ソロ曲「最後の最後まで」を歌唱すると、柏木の号令のもとに集まったのは、浦野一美、片山陽加、菊地あやか、田名部生来、仲川遥香、仲谷明香、平嶋夏海の初代チームBメンバーたち。恒例の円陣とともにチームBの象徴的楽曲「初日」をパフォーマンス、さらに現役メンバーたちも合流して「約束よ」を歌い上げる。

その後、柏木と現役メンバー、さらには出演したOGメンバーが全員参加しての「桜の花びらたち」で、アンコールはクライマックスを迎える。現役でグループを支えるメンバーたちと、かつてグループの歴史を刻んだのちそれぞれの道を歩くOGたちが、AKB48の原点でもある同曲によって一つに繋がり、その全員と活動をともにした柏木がすべての結節点として中心に立つ。グループ初期から今日までのAKB48史が、ステージ上に一気に現出したような瞬間となった。

ルーツとしての劇場公演曲から世間的なメガヒット楽曲、さまざまな特徴や文脈をもつユニット、組閣・兼任等のダイナミズムから生まれた作品など、柏木のキャリアをたどったこの日のコンサートは同時に、紆余曲折を経ながら長い年月を重ねるAKB48グループそのものの諸側面を映し出すものとなった。それも、幅広い楽曲群を乗りこなし表現を楽しんでみせる柏木の個性によって、AKB48が本来こんなにも豊かで可能性に満ちているのだという基本を思い起こさせる、実り多い時間であった。アンコールの最後には、再び「遠距離ポスター」を全員で披露、アイドルという表現の魅力をあくまでも軽快に伝えきって、柏木由紀は自らの卒業コンサートを締めくくった。

(文=香月孝史)

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