『ガリレオ』『新参者』『マスカレード・ホテル』 東野圭吾作品の映像化、なぜ人気?

『容疑者Xの献身』が、3月23日にフジテレビ系で放送される。同映画は、福山雅治主演で人気を博したドラマ『ガリレオ』(フジテレビ系)シリーズの初の劇場版だった。この3月には30日に劇場版3作目『沈黙のパレード』が地上波初放送されるほか、2007年に放送が始まった『ガリレオ』の2つのTVシリーズとスペシャルドラマも順次放送中だ。

一連の映像作品は、物理学者・湯川学を探偵役にした東野圭吾の『探偵ガリレオ』から始まる小説シリーズが原作である。東野作品をめぐっては今年、『ある閉ざされた雪の山荘で』が映画化され、1月に公開された。また、『ゲームの名は誘拐』がWOWOWでドラマ化され6月より放送・配信されるが、こちらは2003年の『g@me.』と改題しての映画化に次ぐ映像化だ。

近年、木村拓哉主演で『マスカレード・ホテル』『マスカレード・ナイト』が話題になったことも記憶に新しいし、東野作品は頻繁に映像化されている印象がある。

さかのぼってみると実際、2003年に『g@me.』、2005年に『レイクサイドマーダーケース』と『変身』が公開されて以降は、ほぼ毎年に近いペースで映画化されてきたのだ。もちろん、テレビでのドラマ化も多い。

東野作品は、映像化に関してなぜここまで人気なのか。『ガリレオ』シリーズでは、天才肌の物理学者を福山雅治、『新参者』など加賀恭一郎シリーズでは東京の日本橋で捜査する刑事を阿部寛という人気俳優が演じたことが大きかっただろう。キャラクターの魅力である。

下町を舞台にした加賀恭一郎シリーズが人情を物語のポイントにしていたのに対し、『ガリレオ』シリーズは短編を原作としたテレビドラマでは科学的トリックに面白さがあった。それに対し、第134回直木賞を受賞した劇場版の原作『容疑者Xの献身』は、常軌を逸した純愛がテーマだった。感情を揺さぶる物語になっていたのだ。

以前からミステリファンに知られていた東野圭吾の名が一般層にまで知られるようになったのは、両シリーズのヒット以降だろうが、ほかにも感情に強く働きかける作品は少なくない。常軌を逸した純愛という意味では、ドラマ&映画化された『白夜行』もあげられるし、交通事故で死んだ妻の心が娘の体に宿って夫が戸惑う『秘密』もコメディになりそうで切なさにむかうストーリーだった。

一方、『ゲームの名は誘拐』は、狂言誘拐を題材にして駆け引きへの興味で引っ張る作品だ。また、『ある閉ざされた雪の山荘で』は、外部に逃げられない場所で連続殺人が起きるミステリーのお約束を、劇団の練習という設定で書いていた。いずれもゲーム性のある展開が魅力である。仮面をかぶった人たちを捜査する『マスカレード』シリーズもそうだろう。東野は、その種のゲーム性をキャッチ―な形に落としこむのが上手い。

ある作家がブランド化する時、特定のシリーズや、特定のパターンに人気が集中する例は多いが、映像化された東野の作品群をみると、特定の傾向に収まっていない。それだけ様々なタイプの小説を書いてきたわけだ。

先に、東野の名が一般的に広く知られるようになったのは、『ガリレオ』シリーズと加賀恭一郎シリーズのヒット以降だろうと記したが、それより前にミステリファンの間で認知されたのは、『名探偵の掟』(1996年)が、『このミステリーがすごい!』のランキングで3位になってからであり、1998年刊行の『秘密』が転機だったといわれる。だが、東野自身がしばしば語ってきた通り、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビューした東野は、1990年代半ばまで、本があまり売れない状態が続いたのだった。

しかし、今年公開された『ある閉ざされた雪の山荘で』は、その売れない時代に発表されたものである。爆薬を積んだ特殊ヘリコプターを原子力発電所の上空に飛ばしてテロリストが脅迫する『天空の蜂』(1995年)もブレイク前に書かれており、この自信作が評判にならなかったため、ペンネームを変えることまで考えたという。だが、同作は、20年後の2015年になって映画化されたのだ。

ブランドとなった東野圭吾作品を映像化したいと考える時、定番シリーズの新作を待つだけでなく、過去の作品リストをみれば様々なタイプの魅力的な物語が、すでに書かれている。東野作品が頻繁に映像化されてきたのは、そういうことなのだろう。新作が注目されるだけでなく、旧作にもスポットが当たる。人気が人気を呼ぶ。人気作家とは、そういうものである。
(文=円堂都司昭)

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