不動産業者「誠に申し上げにくいのですが、融資できません」…世帯年収1,700万円の30代共働き夫婦、住宅ローン審査“謝絶”の真相に愕然…原因は学生時代の〈ある決断〉【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

年収が高く、携帯料金等の延滞なし、カードローンなどの借り入れもなし……。住宅ローン審査になんの問題もないように思えても、思わぬ原因で審査に落ちるケースがあるといいます。一体どんな理由でしょうか? 本記事では、Aさんの事例とともに住宅ローン審査を通過するために注意すべきポイントについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

世帯年収1,700万円なのに…まさか、住宅ローン審査に落ちるなんて

「誠に申し上げにくいのですが、融資できません」

不動産営業マンからの連絡で愕然とするAさん夫婦。

――Aさん夫婦は夫婦共働きの世帯年収1,700万円の2人暮らしのご夫婦です。

夫:35歳 年収1,200万円 勤続年数10年
妻:31歳 年収500万円 勤続年数9年

都内の新築マンションを購入のため、Aさんは住宅ローンで8,000万円を借りようと思ったのですが、なんと審査に落ちてしまいました。

携帯料金等の延滞もなく、カードローンなどの借り入れもありません。審査に落ちた理由もわからず、夫婦は欲しかった物件を手に入れられなくなるかもしれないとショックを受けています。

住宅ローンの審査

住宅ローンを借りるためには、金融機関の審査に通る必要があります。審査には、事前審査(仮審査)と本審査という2つの段階があり、この2つの審査をクリアしないと住宅ローンを利用することはできません。

住宅ローンの事前審査(仮審査)とは?

事前審査は金融機関の窓口やインターネットのサイト等から申し込みをしますが、返済能力があるかどうかを主に審査されます。運転免許証など本人が確認できる書類のほかに源泉徴収票(個人事業主は確定申告書の写し)など所得を証明する書類などを準備する必要があります。

事前審査では、次の項目について質問されます。

・住宅ローンの使い道(新築・リフォーム・マンション購入など)

・借り入れ希望日

・借入希望額

・借入期間(ローン返済期間)

・購入予定額

・自己資金の有無

・物件の図面など

・ほかからの借り入れ(自動車ローンなど)の有無

ほかにも、年齢や勤務先、役職や勤続年数、健康状態など事前審査といえども、細かくチェックされます。資金計画などに無理がないかを、事前に確認しておく必要があります。なお、事前審査の結果が出るまでには、最短で即日~1週間程度かかるものです。

希望の物件を申し込んでも、事前審査の準備に時間がかかったり、結果待ちに時間がかかったりすると、人気のある物件ではほかの人に購入されてしまうこともあります。物件の申し込み後、すぐに事前審査を受けられるように、必要な書類などを用意しておくなど前もって準備しておきましょう。

また、万が一事前審査に落ちてしまうことも考えて、複数の金融機関にあたっておく、といった手段も取っておきましょう。

本審査で落ちることも

事前審査に通過した場合のみ本審査に進むことができます。本審査に進む前に、正式な住宅ローンの申し込みを行って、事前審査で用意した書類に加えて本審査に必要な書類(印鑑証明や勤務証明など)の追加準備が必要になります。

住宅ローンの本審査に通過すると、正式な契約へと進みますが、事前審査に通ったからといって、必ずしも本審査も通るとは限りません。

また、金利上昇局面に入ってしまうと、たった1日で返済比率が変わってしまったり、数週間で借り入れ条件が変わってしまったりすることもありますので、注意が必要です。

どのようなケースで審査に落ちるのか?

金融機関から融資を受けるためには、一定の条件を満たしている必要がありますが、事前審査や本審査で落ちてしまうことも当然あります。

審査に落ちてしまう代表的なケースをまとめてみました。

1.勤続年数が短い

勤続年数が2年以下(3年以下という金融機関も)となると難しくなります。転職する人が増えている時代ですから、転職後まもなく住まいを取得したい人は注意しましょう。

ただし、年収や自己資金が十分あり、

・転職により年収がアップした
・前の勤め先でのキャリアを生かした転職
・技術やスキルがある

といったような転職はアピールできるかもしれません。しっかり返済が続けられる人間だということをわかってもらいましょう。

2.勤務先の業績が悪い

金融機関は勤務先の経営状態も重要視します。万が一、勤務先が倒産ともなれば、当然住宅ローンの返済に問題が起きてしまうからです。

自営業者も3年分の確定申告の状況を審査でチェックされますが、業績が悪ければ審査に落ちてしまいます。

3.マネープランに問題がある

同じ年収や同じ年齢の人でも家族構成や家計の状況によって審査結果は変わってきます。たとえば、扶養家族が多かったり、介護が必要な高齢者を抱えていたりとなると難しくなります。

また、年収に対して借入希望額が多かったり、ほかにもすでに自動車ローンやカードローンなどの借り入れがあったりと、信用に問題がある場合や総借入金額が一定レベルを超えてしまう場合は厳しくなります。

4.健康面に不安がある

住宅ローンを借りる場合、団体信用生命保険(団信)への加入が求められます。この保険への契約の際に、健康面の問題が発覚して融資が取りやめになったケースもあります。

審査に落ちてもあきらめないこと

比較的厳しめのネット銀行による審査

実店舗を持たず、インターネットでの取引で手軽にサービスを利用できるネット銀行は、年々利用者数を延ばしています。

住宅ローンの金利も低いため、是非利用したいところですが、対面相談できる店舗も少ないためか、ネット銀行の住宅ローンの審査基準は厳しいものになっています。

安定性重視の「メガバンク」による審査

また、メガバンクも返済の安定性を重視する面があり、公務員や大手企業に勤務している人や長期間同じ企業に勤務している人が借りやすい、といった傾向にあります。

比較的借りやすい「地方銀行」

そのようななかで地方銀行は、ネット銀行やメガバンクよりも借りやすく、個人事業主や零細企業に勤務している人でも収入があれば審査に通ることもあります。地方銀行の住宅ローンというと、住んでいる地域の住宅を購入する際に利用できる、というイメージがありますが、最近では県外の企業や個人に貸し付けができるケースもあります。

また、フラット35も借りやすいローンといわれています。一度、審査に落ちたから、と悩まずに複数の金融機関に相談してみましょう。

住宅ローンが契約できた金融機関とは長いお付き合いになります。もっとも便利で最適な金融機関を選んで、無理のない住宅ローンを組みましょう。

「奨学金」が住宅ローン審査に大きな影響を与えることも

奨学金は、自動車ローンやカードローン等とは性質が違うと判断してしまい、きちんと返済していれば住宅ローンの借り入れには問題ないと思ってしまう人が意外と多いようです。しかし実際は、住宅ローンを借りるときに返済比率に影響が出て、審査に落ちてしまうケースもあります。

また、重要と思わずに審査のときに奨学金の申告が漏れてしまうケースもあるようです。ですが、奨学金もれっきとした借り入れです。当然ながら住宅ローンの審査ではしっかりとチェックされます。奨学金は社会に出たあとに影響してきますので、奨学金を借りるときには慎重になるようにしましょう。

ほかの銀行でも…審査に落ち続けた原因は

さて、Aさんの話に戻ります。

Aさんはあきらめず、ほかの銀行でも審査に挑みますが、そこでもまた落ちてしまいました。

十分な収入があるのにと、納得できないAさんですが、落ち続ける原因は、過去の奨学金の返済に問題があったようです。Aさんが大学に入るころ、Aさんの実家の経済状況はひっ迫していました。Aさんを大学進学させる余裕はなかったため、Aさんは奨学金を借りて、大学へ入学することを決めたのです。

いまでこそAさんは成功を収めて高収入ですが、大学入学直後に新卒で入社した会社は倒産してしまい、数ヵ月間は仕事も就けずに友達の家を転々として奨学金の返済が滞った時期があったようです。

奨学金は3ヵ月滞納が続くと個人信用情報機関(ブラックリスト)に登録されます。ブラックリストに登録されると、カードを作れない、ローンが組めない、といった問題が出てきます。一度ブラックリストに登録されると、「返還完了の5年後までブラックリストの載る」ことになるため注意しましょう。

「返還完了」というのは、滞納を解消した時点ではなく、すべての返済を終えたことをあらわします。つまり、無事に奨学金を完済したとしても、そこからさらに5年間ブラックリストへの掲載は続くことになります。

ですから、Aさんがいま、たとえ一括で奨学金が返済できたとしても、あと5年は待たないと住宅ローンを組むことは難しくなる、ということになります。

奨学金を深く考えずに借りてしまう家庭も多いですが、子ども自身が借主になる奨学金は子どもの将来を考えると避けたほうがよく、どうしても資金不足になる場合は、親が借主になる教育ローンなどを検討するようにしましょう。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

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