ももいろクローバーZ『イドラ』はどんなアルバムに? プロレス、田中将大……ユニークな作品タイトル

ももいろクローバーZが5月8日に7thアルバム『イドラ』をリリースする。

タイトルとなった言葉“イドラ”(idola)とはラテン語で“偶像”を意味し、“アイドル”(idol)の語源のひとつとされている。16世紀から17世紀に実在したイギリスの哲学者であるフランシス・ベーコンが同語を用いて説いた論は、人間の精神は4つの幻影(=イドラ)に占有されていて、それらが人間本来の正しい判断や認識を妨げ、偏見をもって物事に接してしまうというもの。まさに、現在のアイドル自身やアイドルファンの心理にも結びつく言葉である。

7thアルバムのタイトル『イドラ』が言葉の意味の通りであるならば、今作はアイドルの原初を感じさせる内容になるのではないだろうか。昨年末に発表されたアルバム発売の特報ムービー第2弾は、ふたりの子どもが手を繋いで森のなかを歩き、それを抜けた先にある長い階段を登っていくというストーリーだった。目指すのは、神々しく輝く“イドラ”と思しき4体の像がいる場所。興味深かったのは、森のなかに漂う紫色の“香り”のようなもの。子どもたちを幻惑するようなその“香り”は、たくさんの人をいろんな意味で惑わせるアイドルたちの芳しさそのもののように映った。

■天龍源一郎が率いたプロレス団体へのオマージュタイトル

ももいろクローバーZは、これまでもユニークなタイトルのアルバムを発表してきた。

特に鮮烈だったのが、2011年リリースの1stアルバム『バトル アンド ロマンス』だ。同タイトルは、日本プロレス界の“生ける伝説”として多大なリスペクトを集めたプロレスラー、天龍源一郎が率いたプロレス団体 レッスル・アンド・ロマンスへのオマージュが捧げられている。

グループのマネージャー兼プロデューサーの川上アキラが、大好きなプロレスをモチーフにさまざまな企画を行ってきたのはよく知られた話。同アルバムがリリースされる約3カ月前の同年4月には、初期メンバーの早見あかりの脱退と“ももいろクローバーZ”への改名を発表したイベント『4.10中野サンプラザ大会 ももクロ春の一大事~眩しさの中に君がいた~』が開かれた。その翌日からは、7日間にわたってさまざまな分野で活動するゲストを招いたトークバトルとして、異種格闘技イベント『ももクロ試練の七番勝負』も敢行。これは、ジャンボ鶴田の『試練の十番勝負』、田上明の『試練の七番勝負』、小橋健太の『試練の七番勝負』といった、各レスラーがタイプの違う先輩レスラーと戦って力をつけていったプロレス興行をモチーフとしている。

このように『バトル アンド ロマンス』は、プロレスや格闘技の要素をふんだんに取り入れていったももいろクローバーZの1作目にふさわしいタイトルとなったのだ。

■野球選手であり、自分たちのファンの名前を冠したコンピアルバム『田中将大』

ユニークなタイトルといえば、2021年のコンピレーションアルバム『田中将大』も外せない。存命の人名をタイトルにするだけでも十分珍しい作品が、それがスポーツ選手――いや、自分たちの“ファン”というのは異例中の異例である。

駒澤大学附属苫小牧高校(北海道)時代から甲子園のスターとして広く知られ、東北楽天ゴールデンイーグルスに入団後も1年目から活躍した田中将大投手。そんな田中投手がモノノフ(ファンの呼称)であると伝えられたのが2012年頃。その翌年には音楽番組『僕らの音楽』(フジテレビ系)で共演し、ももいろクローバーZが出場した同年の『第64回NHK紅白歌合戦』で審査員を務めた田中投手が「走れ!」演奏時にメンバーとZポーズを決めた。

2014年、田中投手がメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースへ移籍。そして本拠地のヤンキー・スタジアムの初登板時「My Dear Fellow」が初披露された。さらに、その翌年にはメンバーが田中投手に捧げたメッセージを歌詞にした楽曲「勝手に君に」が、同球場限定で公開された。

アルバム『田中将大』には、「My Dear Fellow」、「勝手に君に」(ともに-ZZ ver.-)を含む、グループが田中投手へ贈った歴代の“応援歌”が収録された。両者の、長年にわたる親しい関係性がよく表れた作品だった。

■グループの10年を絶妙に言い表したベストアルバム『桃も十、番茶も出花』

2018年リリースのベストアルバム『桃も十、番茶も出花』もインパクト大のタイトルだろう。

同作のタイトルは、醜い鬼であっても年頃(18歳)になればそれなりに美しく見え、粗末な番茶も湯を注いで出したばかりは味わいがいいという、謙遜の気持ちを意味する言葉「鬼も十八 番茶も出花」をももいろクローバーZ風にアレンジしたもの。まだまだあどけなかった結成時から、一つひとつ目標をクリアしていき、グループとしても、人間としても成長を遂げていったメンバー。未熟で荒々しかった彼女たちがたどった10年を、アルバムタイトルとして絶妙に表現していた。

ももいろクローバーZの作品タイトルはいずれも遊び心たっぷり。ただ、決して“雰囲気系”でも、“おふざけ系”でも、“一発ネタ系”でもない。いずれも“なぜその時にももいろクローバーZにそのタイトルの作品が必要だったのか”が考え抜かれている。今回の『イドラ』もリリースを経て全曲を聴いた時、そのタイトルである必然性が感じられるのではないだろうか。

(文=田辺ユウキ)

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