響き渡る怒号…東京郊外〈国道沿い〉の好立地を相続した三姉妹に“諍い”を招いた、父の〈遺言書〉の「誠実すぎる内容」【不動産のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

残された家族が争うことなく、幸せに暮らすことを願って作成されるはずの「遺言書」。しかし、遺言書での相続でも「思わぬ不動産をつかまされることになる事例が増えている」と、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は警告します。牧野氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』より、その理由を詳しく見ていきましょう。

遺言で“思わぬ不動産”をつかまされることも…

相続はある日突然やってきます。人の死は誰にも決められないものだからです。そして遺産を承継する相続人にとって、被相続人のどの遺産を相続するかは非常に重要なこととなります。

相続人にもいろいろな思惑があります。なるべく現金が欲しい、父親が持っている賃貸マンションは俺のもの、田舎にある家はどうしても相続したくない、などなど。

ただ相続にはある厳然としたルールがあります。遺言書です。被相続人となる人が、できれば生前にきちんとした形で遺言書を認めておくことは、後に相続人同士の争いを少なくするうえでも非常に重要なことです。

遺言書を書くにあたっては、弁護士や司法書士などの専門家に作成してもらうこともできますが、自分で作成するのもそれほど難しいことではありません。

まず財産目録を作成し、財産の相続先を指名します。よく法定相続があるからその分は相続させなければと考えがちですが、配偶者や子供への相続では、法定相続分の半分の遺留分のみを残さなければならないだけで、あとは自身がよかれ、と思う先に相続が可能です。

遺言書では遺言の執行者を決めることもできますが、開封を家庭裁判所で行えば、特に執行者を指名しなくとも有効に執行されます。

遺言書を残さないと、相続人の間で遺産分割協議になります。あらかじめ、自身の遺産を誰にどういった形で相続させるか考えているならば、遺産分割協議で相続人である家族たちが大紛糾することを避けるため、遺言書を残しておくことが賢明と言えましょう。

ところが、最近は、この遺言書により執行された相続で、思わぬ不動産をつかまされることになる事例が増えています。特に多いのが、昭和時代の発想で、地方の実家は長男に譲り、都内のマンションは次男に、残りの現金は長女になどというものです。

財産を残す親として、どの子供に何の資産を承継させるのか、指定するのはもちろん自由なのですが、管理や処分に苦しむことが予想される地方の実家を引き継ぐ長男には不満が残ります。

東京郊外の土地を相続した3姉妹に“諍い”が起きた理由とは

私が実際に相談を受けた事例をご紹介しましょう。相談に訪れたのは東京郊外の約400坪の土地を相続した三姉妹です。彼女たちの親は古くからの農家。相続にあたっては、農地を宅地に転換し、現金、有価証券とともに3人の娘に相続させました。

被相続人にあたる父親は詳細な財産目録を作成し、これを遺言書に添付。姉妹にそれぞれの資産の相続をさせることが書き込まれており、相続は滞りなく手続きされました。

活用方法の相談を受けた土地は、主要国道に面し、最寄り駅からも徒歩10分以内。等価交換方式という事業方式を用いて、分譲・賃貸マンションを企画しました。等価交換方式とは土地の時価を評価して、建物をデベロッパーが建設、デベロッパーが負担する建設費用とオーナーが持つ土地評価額を等価で交換することで、土地と建物を互いにシェアするものです。

オーナーは土地代相当の金額分の土地と建物をシェアできるので、その分を賃貸資産として運用でき、デベロッパーは建設費用相当分の住戸を一般に分譲することで利益をあげることができます。

最初の作業が姉妹の持つ土地の評価です。公図、謄本を徴求して驚きました。土地が区分所有になっていたのです。しかも、土地の一番奥から長女、次女、三女と三等分されています。国道に面しているのは三女の持ち分の土地です。

さて困りました。各人の土地の評価をする際に、3人の持つそれぞれの土地は評価が全く異なるのです。評価が異なれば、出来上がったマンションで三姉妹が所有できる部屋の数は当然異なります。国道に面する三女の土地を最も高く評価。一番奥になる長女の土地は、道路に面していないために評価は著しく低いものとなったのです。

怒鳴りこんできたのは長女。三姉妹で等分に相続したはずなのに、なぜ三女が高評価なのだと収まりません。おそらく父親は、三姉妹に等分に相続させることを前提に遺言書を記したと思われるのですが、きれいに三等分に分筆して区分所有にしてしまったのです。こればかりはどうにもなりません。

三女はにんまり。次女は外国居住でそもそもどうでもよい、という態度。つくづく、遺言書を書くにあたっては、不動産のことをよく勉強しておかないと、相続する子供たちにいらぬ対立を招くこととなると痛感した出来事でした。

「不動産は持っていれば価値がある」時代は終わった

これからの相続では、遺言書がなく、遺産分割協議になる場合、今まで以上に慎重になる必要があります。

地方の実家、流動性を失った郊外ニュータウンの戸建て住宅、老朽化したマンション、別荘やリゾマン、借金まみれの中小ビル、シャッター通り商店街に残された店舗付き住宅、正確な場所も判然としない山林、売るに売れない高級住宅地など、漫然と相続してしまうと後に大変な苦労を背負いこむことになります。

現金や有価証券は金額もはっきりしていてわかりやすい資産ですが、不動産についてはどれだけの価値を持っているか、意外とわかっていない人が多いように思えます。

特に昭和・平成の価値観で、とにかく不動産は持っていれば価値がある、最後は売れば換金できるはず、などと思っていると、痛い目に遭います。これからの日本では、売却という「出口」を見失っていく不動産が大量に発生する可能性が高いのです。

相続させる親のほうは、不動産を今後どうしていきたいのか、誰に譲れば資産として生かされていくのかを考え、必要のない不動産は相続前に換金しておくなどの処置をしておくことです。

また相続人も、親の持つ資産をどのような考えで承継するのか、マーケットも含めて事前によく勉強しておくことです。くれぐれももらった不動産でいらぬ苦労をしないように。

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

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