退職者が従業員の個人情報など「機密情報」を持ち出し!…悪用される前に“会社側が迅速に対応すべきこと”【弁護士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

従業員が会社の機密情報を持ち出して退職していった……。従業員の個人情報や顧客情報、企画書などの機密情報は会社にとって重要な経営資源であり、万が一悪用されると従業員や顧客、取引先からの信用が大きく失われてしまいます。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、元従業員による機密情報の持ち出しについて、浅野英之弁護士に解説していただきました。

退職と同時に機密情報を持ち出していた

宿泊施設を経営する相談者さんは、とある支店の業績が悪化していることに不満を持っていました。その支店のマネージャーを呼び出し、キツく叱ってしまう日もありました。

どう経営を持ち直そうか悩んでいたある日、その支店のマネージャーが突然退職願を出してきたのです。マネージャー自らが退職してくれた……。相談者はホッとして後片付けをしようとしたところ、マネージャーが過去に働いていた従業員の履歴書や住民票を持ち去っていることに気づきました。もし悪用されたらどうしよう、企画書や顧客情報まで持ち去っているかもしれない……。

そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。

(1)元従業員から情報を返してもらうことはできるのでしょうか。

(2)この元従業員に対して、法的措置を取ることは可能でしょうか。

返してもらうことができるのが基本となる

持ち出された機密情報は、ご相談を聞く限り会社の財産であると考えられるので、返してもらうことができるのが基本です。問題は、どうしたら悪用されることなく早急に返してもらえるか。

ただの誤りで持ち帰ってしまっただけなら、電話やメールの連絡一本で済むでしょう。しかし、連絡が取れない、またははじめから意図していたと思われる場合には、別の対応が必要です。

最も迅速な方法は、退職したマネージャーに対して、内容証明郵便で警告書を送り、任意の返還を要求することです。

持ち出された情報の範囲を確定したうえで、法的措置も辞さない旨を表明します。場合によっては、マネージャーの身元保証人または転職先への送付も検討してください。

書面には、情報の持ち出しで問題となった裁判例を挙げ、制裁や賠償の現実性を示すことが有効です。

会社の名義で送っても効き目がないこともあり、弁護士名義で送付する方法も検討してください。

「退職願」が辞職の意思表示であると解されるなら、書類が到達した日から14日が経過するまでは、まだマネージャーとの雇用関係は継続しています。合意解約の申込みと解される場合であっても、定めた退職日までは雇用関係は継続しています。

法的措置を取ることは可能。迅速に解決できる手段を選ぶ

お困りであれば法的措置を取ることができます。

機密情報を持ち出した従業員に対して取りうる措置としては、大きく次のものが考えられます。

①訴えを提起して、持ち出された書類やUSBまたはパソコンの引渡しを請求する

②訴えを提起して、電子データの使用の差止めを請求する

③訴えを提起して、損害賠償を請求する

④刑事事件として告訴する

情報の悪用によって被る損害を考えると、訴え提起等可及的速やかな対応が必須となります。もっとも、判決が出るまでの間に不正使用されてしまえば、意味がなくなります。

そこで、情報の使用の差止めについては、仮処分という手続きを利用していくことが有益です。仮処分は裁判所の決定によって訴訟よりも早く情報の不正使用を差し止めることができます。

機密情報は、一度持ち出されてしまうと、早急に返還してもらえるとは限りません。損害賠償や持ち出された書類等の引き渡しを請求できるとはいえ、立証が難しく回収ができない場合もあり得ます。

アクセス権を設定して、機密情報に近寄りにくくするなど、日頃から対策を講じておくことが大切です。

浅野 英之

弁護士

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